第17章「繋ぐ決戦」_6_END_千客万来【完結】
「おっとと。何が起きてんだ。あいつらは」
「どこに行ったの?」
たった今、二人が争っていたはずだ。戦場が変わり弾き出された目黒たちは、二回目の大きな揺れにも動揺しながら、消えた彼らの行方を追う。
「もちそうにはないな」上井は天井を見る。「ここから脱出しないと、閉じ込められるだけでは済まないぞ」
「でも」
ヒグルは諦めたくなかった。自分たちだけでここを離れて、どうするというのか。
「待って」
願いが叶った。偶然ではない。彼女は居場所を見つけると、一人で先に駆けていく。
大鳥の祠内部で、光に包まれた女がいた。突然とそれは現れた。シュリだ。彼女の体は縮んでいる。
「……シュリ?」
違和を感じつつ、寄り添い声をかけると、彼女は目を覚ます。
「……ヒグル?」
「シュリ! 白鈴は? どうなったの?」
「白鈴は……。安心して。蓋は閉じられた」
「それって。火門は」
「見つかったか。お前ら急げ。崩壊する」
「シュリ。歩ける?」
手遅れと判断していいほど崩れ始めていた。だが脱出は、アオバの助けもあって、どうにか彼らは生還する。
大湊の化身は復活していない。故にすべて片付いた。そのはずだった。
「これは、終わっていないのか?」
外へと出てみれば、変わらず「空」は暗かった。どこにも星なんて呼べるものはない。それどころか、知らない間にわけのわからない球体が頭上にある。
アオバは冷静に言う。「祠の封印は解かれなかった。だが星のない夜が残っている」
「残ってる? 残ってるってなんだ? どう見ても、大丈夫じゃねえよな」
いなびは指差す。「これは、消えるの? それともこれから落ちてくるの? もうこの国はダメなの?」
不穏でしかなく、絶望感に襲われるのは当然だ。打つ手は残っているのか。
「みんな」
シュリの声である。彼女は脱出後、疲れをとるため休んでいた。ヒグルが付き添っているはずであり。
元気はあるようだ。「平気?」とヒグルに問われて、うれしそうに頷く。
「大丈夫だよ。信じよ。だって、ほら」
彼女が示す先。
その光景は、目に見えない力が働いているように思える。
誰かは思い起こす。そして感じる。大湊に住まう神々を。
おそらく大湊の国、皆が眺めている。
そこから例えるなら、彼らの頑張りにでも答えるかのようで。
星のない夜が、その異様な形が失いつつある。
崩れてしまえば、単なる分厚い雲であったかと思えるほどだ。切れ間ができる。
いかにも不思議な現象を見て、「空だ。空だ」と喜ぶ。「太陽だ」と口にする。
ある者は「そこにおられましたか。やみずひめ」と言った。
どんより濁っていた大湊の大地に、太陽の光が降り注いだ。風が吹く。
大湊の国の厳しい冬が去り、白い雪が徐々に減り始める頃、城下では人々の活気が戻り始めていた。市場には新鮮な野菜や干し肉などが並び、商人たちの声が響く。寒さに耐えながらも、生活のために働く姿がそこにはあった。冬の孤独感と、春の訪れへの期待が交錯する中、人々は笑顔を浮かべていた。
「桜の木に花がついた」という知らせが広まり、町は一層賑わいを見せていた。聞くところによれば、かつて鬼との戦場となり枯れた大地では、草木が芽生え、色を取り戻しているという。
鬼の影は完全に消え去ったわけではない。だが、その数は明らかに減っていた。
ある晴れた日の朝、はゆまにある千年桜の前に、ひまわり色の魔法使いがやってきた。まだ早朝の静けさの中、彼女は満開の桜を見上げていた。朝日の光が桜の花びらを照らし、枝は揺れ、まるで空に舞い上がるように見える。
「屋水で、言われてるよ」と彼女はつぶやいた。周りには誰もおらず、静寂が彼女を包んでいた。ヒグルは、一人で桜の下に立ち尽くし、心の中で誰かに語りかけていた。
「音が聞こえない。神様が、どこかへ行ったきりで、帰ってきてないって……」
彼女の声には不満が滲んでいた。答えが返ってくるわけがないと知りながらも、彼女はその思いを吐き出さずにはいられなかった。
「占いは順調にやってる。私一人でもちゃんとできてる。みんなもそうだね。時々会いに来てくれるけど……」
ヒグルは続けた。
「傍にいてって、言ったのにな。いなくなっちゃって。せめて、お別れだけでもしたかったな」
彼女の心には、友人たちの顔が浮かんだ。鬼との戦いの後、彼らはそれぞれの道を歩み出し、離れ離れになった。ヒグルはその中でも特に、神様との絆を強く感じていた。彼女は、心の底からその存在を求めていた。
桜の花びらが風に舞い、ヒグルはその一片を手に取った。「また、会えるよね」と小さく呟く。彼女はその瞬間、心の中に温かいものを感じた。桜の美しさが、彼女に希望を与えてくれるようだった。
ヒグルはそう信じ、千年桜を見上げた。
その時、彼女の耳に微かな声が聞こえた。「…………」。驚いて振り向くが、白鈴の姿はない。
遠くのほうで声が聞こえてくる。仲間たちだ。
この日、彼らは花見をするために集まった。
再会を喜んでいると、彼らだけではない、国中からこの日を楽しみにしていた者たちが次々と到着する。
彼らは桜の木の下に集まり、食べ物や飲み物を広げて花見を始める。春の陽射しの中、笑い声や話し声が響き渡る。
花びらが風に乗って舞い、ヒグルの髪にそっと触れる。その瞬間、彼女は心の中にあった孤独感が消えていくのを感じた。仲間たちと過ごす時間が、どれほど大切であるかを改めて思い知らされた。
桜の花が満開の中、彼女たちは未来への希望を胸に、笑顔で過ごすことができるのだった。




