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千客万来(センキャクバンライ)  作者: つかばアオ
_2の3 真実のすがた
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第17章「繋ぐ決戦」_5

「びびらせるなよ」


「終わったんだよね?」


 ヒグルは、そっとそう声をかけた。


 白鈴は、すぐには答えなかった。考える時間を持つと、(長くはなかった)集中はできないなかどうにか見つける。


 すると、大鳥の祠で大きな揺れが起こる。


 彼らは事態を飲み込めない。なんでもない「揺れ」とは考えなかった。


 白鈴は天井に目をやる。その先――。夜の空で、何が起きているかを知る。


 その頃、空では山を二つ三つ飲み込める大きさの球体が顔を覗かしており、少しずつ地上へと迫っていた。


「揺れ」は続かず、次第に弱まり、何事もなかったかのように収まる。


「いや。まだだ」白鈴は言った。


「えっ?」


「まだ終わっていない」


「終わってない?」上井は繰り返す。


「待てよ。どういうことだ。『蓋は開いたままだ』っていうのか?」


 ああ、と白鈴は頷く。


 問題は解決していない。


 糸七も困惑している。「あれでは、倒せていなかったのか」


「いや。倒したはずだ」


「それなら、なんで?」


「そんな。どうしたらいいの?」


 いなびは不安に駆られた。それでも彼女は微かな気配にはっとして振り返る。


 視線の先には、男が立っていた。


「火門?」


 この場に、大湊真道がいる。立て続けとなり間違える者も多いだろうが。


「屋水姫、じゃあねえな」目黒は確信していた。


「ユウ橋以来となるな」


 彼は近付くと、そう言った。


「一足遅かったんじゃねえか」


「いいや。そのようなことはない」


 彼に焦りの色はないように見える。状況は理解しているだろう。でなければ。


「白鈴……。屋水姫と、呼んだほうがいいのか」


「どちらでも構わない」


「では、屋水姫。刀を抜け。橋の上での続きといこう」


「それは、どういう冗談だ」目黒は言いつつ、体に力が入る。


「いま、そんなことしている場合ではないよ? 封印が、解かれているんだってば」


 いなびの警告など無意味である。


 白鈴もそうだった。二人は抜いた刀を鞘に戻さない。戻せない。なぜなら。


 間近と迫る、大鳥の祠で火ぶたは切られる。


 戦う必要はない。相手を傷付けることができないのだから。そして、斬られることを受け入れるべきだが。


「まさか。そういうこと?」ヒグルは理解する。


「そこを退け」


 容認し難い者はいる。二人の争いに、糸七は割り込む。


「なりません」


 口を出そうと、彼が勝てるはずもなく。彼でなくとも勝てるはずがなく。


「待って。白鈴は。屋水姫は」


「知っている。だからだ」


 火門はシュリの体であるというのも承知している。その上で、国を選んだ。


「私が、この手で終わらせる」




 どのような因果にせよ、国の為だから斬られよとは。


 屋水姫が死を恐れたのは、それはあまりにも残酷な行いであると判断したからだ。


 あの夜から始まり。漸く事終わり。


 安らかな時が訪れようとした。


 そのはずが、すんでのところで彼らに歪みが生じる。


 慌てる理由もない。白鈴は落ち着いていた。周囲を見渡すが、無人である。


「これでわかった?」


 屋水姫が背後から声をかけた。その姿は、以前の自分と瓜二つである。


「ああ」


「お前は、斬られる。このままだとな。なぜ火門に潔く差し出さなかった? お前は、大湊の国を救いたいのではなかったか」


「私の中にはまだ、白鈴がいる。小花もいる」


「やはりな、結局か。お前もそうだったということだ」


「……そして、シュリもいる」


 彼女は黙り込むと、徐に手を差し出した。


「手を取れ。あの男を倒そう。お前となら、やつを倒せる」


 白鈴は首を横に振った。


「なぜ? なぜだ。お前だって、悩んでいたはずだ」


「己の在り方に悩むことはあっても、誰かにそれを委ねるつもりはない。その先は破滅だ。私は残したいと思った。ずっと彼らと見てきたからかもな。もっと傍で、見ていたいと思えた」


「私は認めないぞ」


「わかってる」


 白鈴は彼女が拒絶するだろうとはよく心得ている。


 このあと、彼女が無理やりにでも続行するのも。


 鬼が、私を支配下に置こうとするのも。


 白鈴は、切っ先を向ける心構えはもうできていた。


「なんの真似だ? まさか――。お前は――。一緒に死ぬ気か?」


 金雲流。鬼殺し。一本刀。


 それは二つに分けての太刀筋。まず一つは鎌鼬の如く、相手の急所を狙う一手。


 そして、少し遅れて詰め寄る白鈴。


 そして、もう一つ。さらに遅れてやってくる。


 屋水姫が得意とした技。花の気、風来たる。


「やめろ」


 春燕。


 これにて国の命運を分ける大鳥の祠での戦いは終わりとなる。

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