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千客万来(センキャクバンライ)  作者: つかばアオ
_2の3 真実のすがた
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第16章「星のない夜に」_4

『私は判断を誤ったとは思っていない。だから、私が戻るまで待っててほしい。投げ出すようなことだけはしないでくれ』


 


 枝からほとんどの葉が落ちた駅馬神風大桜の下でシュリは祈り続ける。彼女は肌寒さを感じながら、(縮んだ手で私の手を握りながら)弱る姉の言葉を思い出していた。


 姉は先のことまで見据えていたのだろう。その時は、その言葉に、どんな意味があったのかわからなかった。しかし、今なら理解できる。姉が私に残したものは。


「白鈴、そこにいるんだよね」


 シュリは千年桜を眺めながら言った。


 声が届いている様子はまったくない。


 いたずらに時を費やした。


 彼女には根気強く続けるしかなかった。


「成果はないようだな」


 アオバの声だ。気付けば、背後に立っていた。


「もう時間はないぞ」


「うん……」


 彼女もそれはわかっている。焦りがないわけではない。


「何が駄目なんだろ? 届かない。私の何が足りないんだろ? 自信、だよね」


「……理由は両者にある。いくつかある。恐怖。まずお前には覚悟がない。そして屋水姫は」


 急かす言動はあれど、アオバは傍観者的な態度でもあった。


 待つことにしたようだ。一度空を眺めるとアオバは姿を消す。


 その日、彼女が千年桜の前に現れることはない。


 


 一人となり、熱心に祈りを続けるシュリ。無防備と思えよう。


 けれども、鬼が彼女に危害を加えるような深刻な事態は起こらない。


 騒がしさとは無縁で、辺りは静かなものだった。


 次に「はゆま」へとやってきたのは、カシワからの来訪者である。


「みんな……」


 目黒たちだった。見たところ彼ら三人に大きな怪我はない。


「シュリ。よかった。平気?」


 ヒグルは駆け寄る。


 人に尽くそうとする。彼女の(たとえばだが)姉のようなところは安らぎをくれる。


「うん、私は。それより、上井といなびは?」


「あいつらはな」


 二人は――雲残――あの男を追いかけにいった。


「鈴を?」


 シュリは『ヌエ』を探す訳を知る。


「必要なんじゃねえかと思ってな。まっ、そんだけでもなさそうだったが」


「それは……」


「『鈴』、か」


 アオバ、とシュリは言う。聞いていたのだろう。糸七の後ろに立っていた。


「お前がアオバか。なんだ。そのいやーな反応は」


「カシワに行ったんだよね? カシワで、なにがあったの?」


 知りたかった。外ではいったい何が起きているのか。


 彼らは丁寧に教える。


 大袈裟に言っているわけではない。恐れていた状況なのだろう。


 姉はこうなることも予測していた。だけど。時間がない。


「ヒグル、二人で話がしたい」


 戦闘ばかりの旅の疲労を取る。それも必要だ。


「――ヒグル。お願いできる?」


「シュリはそれでいいの?」


 うん、とシュリは頷く。「……私に一番足りなかったのは勇気なのかもしれない」


「勇気?」


「うん」


 お姉ちゃん。ごめんなさい。無理だよ。約束守れない。私にも。私だって。


 


「アオバ。枯れ谷の返事をここでしていい?」


 十分に休憩をした。相談と、あとは実行するのみである。


「捨てる覚悟ができたか」


「捨てる気なんてない。私は屋水の巫女。ツキビト。ただ死ぬつもりはないよ」


「待て。『死ぬ』ってどういう意味だ?」


 聞き捨てならないと言わんばかりに、目黒は不快を露わにする。


「聞いて。私は、ヒグルと一緒に、白鈴を連れ戻そうと考えてる」


「だから死ぬって、なんの話だって聞いてんだ」


「シュリの体に屋水姫の精神を憑依させる」アオバが答えた。「膨大な情報量に、シュリの未熟な精神は崩壊する。体、魂まで影響を与え、時点でシュリはシュリでなくなる」


「はあ?」


 二人で話している時、ヒグルは「反対される」と言っていた。そのとおりの反応だ。そして。


 ヒグルは前に出る。「私を、白鈴のところまで案内して」


「なるほどな。いいだろう。だが、お前も命の保証はできないぞ」


 アオバは屋水の巫女を一瞥する。


「以前と同じと甘い考えをしているのかもしれないが、行こうとしている場所はそれよりも危ない場所だ」


「そこに白鈴がいるんでしょ」


 脅かそうが、ヒグルは危険を顧みない。


 どちらかと、彼女を止める適切な方法としては、「シュリの心配」を投げかけるべきである。


「お前ら」


「目黒、あのね」


「本気、なんだな」


 うん、と二人は同時に頷く。


「これで終わりとは思わねえからな」


 シュリは微笑んだ。「わたしも、そうだよ」


「私も、そのつもり」


 反対する。でも、ヒグルは言っていた。彼女は彼に目で問いかける。


「目黒。なんだかんだ信じてくれるね。受け止めてくれるね」


「他に手はないんだろ」彼は笑わない。「シュリ、悩みはねえか」


「ないよ。決めたから」


「そっか」


 いつも傍で見守ってくれる彼は、この時も見守る。


「糸七……」


「実は、こうなるのではないかとは考えていた。シュリ。シュリは屋水の巫女だ」


「うん」


「シュリならできる」


「うん」


「ヒグルもだ。必ず帰ってこい。でないと悲しい」


「まかせて」


 アオバは気付いていた。


 告げず、ヒグルを「あの場所へ」と案内する。


 シュリには千年桜の前にいてもらう。それから集中してもらう。


 アオバができる最大限の心遣い。


「頼んだぜ。本当に」


 指示を受け、動く。千年桜に迫る鬼。目黒と糸七は、戦う用意をする。


「やるしかない」


 無謀ではない。戻ってくると信じているから。絆は育つ。


「だな。俺たちは」

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