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千客万来(センキャクバンライ)  作者: つかばアオ
_2の3 真実のすがた
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第16章「星のない夜に」_3

 間もなく始まる戦に彼らは気持ちを奮い立たせる。予想される次の群れまで、時間はまだあった。それまでに、それぞれができることをする。


 ヒグルは食事の支度を手伝った後、大勢いる怪我人たちの世話を続けた。このあと戦いもある。彼女は休憩を勧められた。そこで糸七に声をかけられる。


「後で話すべきかと思ったが、今話しておこうと思う。白鈴についてだ」


「白鈴が屋水姫って話?」


「大鳥の祠で、私たちは火門と争った。火門は大量の鬼を従え、最後に大湊の化身が姿を現した。そして強大な鬼の力を前に、私たちは敗れた」


 白鈴は最後まで抗っていた。鬼であることを自覚しながら最後の時まで人でいたいと。


「私たちは、大きな勘違いをしていたのかもしれない。シュリが言うには、大鳥の祠にいたのは、火門ではないそうだ」


「『大湊の化身』が火門に化けてたって言いたいんだよね?」


「そうではない」


 彼女は待つことにする。


「最初から。最初からだ。化身もそうだ。私たちが戦ってきたのは、屋水の神『屋水姫』だった可能性がある」


「屋水姫? 最初から?」


 ヒグルは理解が及ばなかった。要するに、大湊真道は『始めから』『存在しなかった』と言っているように聞こえる。


 あの時、同じ人間のようには見えなかったといえば確かにそうだ。


「白鈴が屋水姫で。火門も屋水姫だった? それって……?」


「私にはわからない。しかしシュリはそう確信している。大鳥の祠での戦いで、何か見えたようだ」


 糸七は目黒にもそれを伝えていた。目黒はそれを聞いて戸惑っていた。


 では、本物の火門はどこにいるというのか?


 ヒグルも思う。屋水の火災。賊たちに襲われたあの夜。お社に現れた男は火門だった。


 あの夜。眠っていた屋水姫が目覚めた。


 白鈴が目を覚ました。


 真相はわからず、食事の時間となる。ヒグルはかげかげを眺める。


 戦士たちが集まっている。そこにシノハラが現れ、彼は一人ずつ声をかけていた。


 


『星のない夜』。鬼の群れは想像を絶するほどのものだった。


 荒れ果てた大地は再び「森」へと入れ替わり、人を惑わせる。これまで鬼と戦ってきた彼らにとって環境の変化など慣れたものだが、(目を凝らせば上空)桁外れの勢いを弱め辛抱し切り抜けるのは容易いものではなかった。


 この群れをはねのけたとしても、カシワの被害は相当なかたちとなると予想される。


 手強い鬼との戦闘で経験を積んできた彼ら三人だけでは。


 この日を乗り越えたとしても。


 戦場はそれほどものだった。


 しかし、このような状況下で逃げもせず戦に加わる者もいた。上井ヒユウと下屋敷いなびである。二人はどこからともなく姿を見せると、第一線で活躍するのであった。


『星のない夜』の下でカシワの危機と云われた大戦は、勝利を収めることができた。空に朝日はない。


 


「で、要するに、要するにだよ? 神様である屋水姫が、大湊の化身を復活させた、ってことでいいんだよね?」


 群れが一時的に去ってから、上井といなび、彼らも事情を知る。二人については、それぞれ別々の場所まで飛ばされていたようだ。


「白鈴は屋水姫だった。なんだか信じられない話。でもなんでシュリは『はゆま』に?」


「はゆまを目指したのは、姉リュウの言葉を忘れていなかったからだろう」


 上井は行動にあまり疑問を感じていない。彼には思い当たるところでもあるようだ。


「シュリは、いま大丈夫かな?」


「枯れ谷の巫女といるつっても、安心できるもんじゃねえかもな」


 目黒は方針を定めようとする。


「話を聞く限り、国中どこもかしこも鬼だらけだ」糸七は行く先々で情報を集めていた。「私たちが次に目指すべき場所は」


「ねえ、『はゆま』に行かない? シュリのいるところに」


 ヒグルは意見を述べる。


「私、分からないままでいたくない。白鈴のことも。この国も。このままでいいとは思えない」


「お前たち、まだいたのか」


 シノハラが駆け寄る。早急に被害の大きさを調べる必要があると言っていたが。


「急がないと、ノボリから侍どもが来るぞ」


「わかってる。カシワは、もう大丈夫なんだな」


「ああ、カシワはもう心配はいらない。だから、お前たちは留まるな。進め。待っている奴らがいるんだろ」


 名前を呼ばれている。隙間を見つけてやってきたか、シノハラはそう言って去る。


「ウゴウも仕事が早いもんだな」


「シュリがこの現状に一番詳しい」上井は言った。


 いなびは思いつく。「あっ、ねえねえ、白鈴が本物の屋水姫だっていうなら、特別な鈴で呼び戻すことができるんじゃない?」


「『鈴』か」と糸七は呟く。


「でも、その『鈴』ってたしか……」


「カシワに在った『鈴』を持っているのは、雲残という男だ」


 上井はそう言うと、難しい顔をする。


「だよね。居場所、わからないよね」


 上井は俯きをやめる。


「『鈴』は、任せてくれないか?」


「居場所、わかるのか?」


 すると、いなびが声を大きくした。


「私もついていかせて。お願い」


 彼は間を置く。「いいだろう」


「よっしゃ。じゃあ俺たちは『はゆま』に行くか。シュリに会いに。あいつに会いに」

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