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千客万来(センキャクバンライ)  作者: つかばアオ
_2の3 真実のすがた
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第16章「星のない夜に」_2

 この数年で、森は消えた。誰かがそう言った。鬼との戦で、豊かな森は死んだと。


 悲しいことに木々は減り続けているようだ。ヒグルの目にはそう見えた。以前よりも、その範囲は着実に拡大しているように感じられる。


『夜』の街道は、日々研鑽する侍であろうと気軽に通れるような場所ではなくなっていた。


 ヒグルは急いだ。目黒も急いだ。どうにかカシワに到着すると、住人たちによって温かく迎えられる。それはまさしく「古き友との再会」を喜ぶかのような。


 見知った顔。門の外からでは見えない町の中の現状。わかっていたことであっても、複雑な気持ちとなる。


「二人か? 他の奴らはどうした?」


「あの小さな子は? やかましい女の子もそうだが、あのこまいほうの」


「そうか。残念だな。まだこれからという時に」


 悲惨な光景に二人はある程度見て回り把握してから、代表シノハラのもとへと向かう。


 暗さが嫌になる。帯状の赤い光は、ノボリから移動しているあいだもずっとあの調子だ。


「まったく。お前たちときたら」


 シノハラは書物を眺めながらそう言った。音だけで、誰であるかを理解した。


「戦況は芳しくないようだな」


 挨拶は無しにして、目黒は本題に入ろうとする。


 シノハラはちらりと目をやる。


「ほかの仲間は?」


「俺たちだけだ」


 ぱたんと書物が閉じられる。「見てきたのか。ああ。見ての通りだ。直に、カシワは落ちる」


「そこまで追い詰められているのか。群れは聞く限り相当凄いらしいな」


「だから、お前たちには、来て早々悪いが」


「なんでも言って。私たちにできることなら、なんでもするから」


「嬉しいことを言ってくれる。だが、悪いが……。お前たちはいますぐカシワを離れろ」


「冗談ってわけじゃねえよな?」


「今ならまだ間に合う」


「どうして? 私たちも」


「命あっての物種。ここまで来れたんだ。お前たちなら街道を戻ることくらいできるだろう」


「どういうつもりだ。そんなんでいいのかよ。お前たちは、ここが――」


「俺たちはカシワで生まれ、このカシワで育った。最後の最後まで鬼たちに故郷を譲り渡すつもりはない」


「わっかんねえ」


「お前たちにも、成すべきことがあるのではないか」


 シノハラは固い決意を有している。鬼たちの進行が『ここ』で終わりとは考えていない。


 逃げる選択だってあってもいいはずだ。そのなかで町に残っている者たちは『選んだ』。


 沈黙が続いていると、そこに若い男がやってくる。


「報告」


「なんだ? もう、次の群れが来たか?」


 シノハラはとりわけて警戒していた。


「いいえ。男です」彼は息を整えた。「背の高い、槍を持った男が、このカシワにまっすぐ向かってきています」


「なに?」


「それって?」ヒグルは数少ない特徴でひとりの人物を浮かべる。


「まさか……。行こうぜ」


 突然の贈り物であるかのように、二人は驚き喜んだ。伝え聞いた話を確かめるべく門の外まで駆ける。


 たった一人で荒廃したカシワの大地を歩く男とは、石隈糸七、彼であった。


「無事でよかった。無事で」


「この野郎、生きてたか」


「当たり前だ。勝手に殺すな」


「これまで、どこで、何をしていたの?」


 糸七は経緯を語ってくれた。シュリは無事なようだ。彼は、彼女と共に、屋水近辺の森で目覚めた。(探しはしたが)他には誰もいなかった。


 シュリはというと、現在、はゆまにいる。


「白鈴が『屋水姫』ってどういうこと?」


 糸七はシュリから聞いた話を端的に伝える。彼女がはゆまへと向かった理由だ。


「シュリはそう考えている。白鈴があの『屋水姫』だと。白鈴がそこにいると」


「街道も鬼で溢れてるのに。一人で平気なの?」


「私たちを、あの球体から救ってくれたのはアオバだ。シュリはその枯れ谷の巫女といる」


「そうなんだ。枯れ谷の」


「シュリは自分が何をすべきかを分かってて、模索中ってわけか」


「それでカシワの状況はどんな感じだ? 危ういと聞いて駆け付けてみたわけだが。二人もそうなのだろ?」


 彼らは過程を共有する。


 話が纏まると、二人で出せなかった答えを告げるためシノハラに会いにいった。


「まだいたのか」


「シノハラ。らしくねえ。弱気となるには早いだろ」


「助け合いは、大事だよ」


「共に戦おう。我らの手に勝利を」


「べつに一緒に死のうと言ってるんじゃねえ。明日を生きようぜ。だろ?」

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