第15章「大鳥の祠」_6_END
争いはさらに過酷な域へと到達する。限界が見えない。無尽蔵に力を引き出す火門は山のようで、白鈴はなんとか渡り合う。
彼女も段階的に実力を発揮している。とはいえ――。
「先程お前は復讐ではないと言ったな。お前は鬼。鬼となったのは、お前のなかに鬼となるだけのものがあったということだ。なのに、今、復讐ではないと言うのか。ではなぜ、この場にいる」
白鈴は倒れていた。凌駕することは難儀だった。
彼女の心気では防げない。見覚えのある攻撃。鬼雪崩だ。火門は「がしゃどくろ」と同じ方法で攻めてきた。
驚きはあれど、いま考えると不思議でもなんでもないだろう。
もう一度、まともにうけて耐えられるようなものではない。
火門は返答を待たない。鬼雪崩で止めを刺すことにした。
それでも、彼女は立ち上がると、更なる次元へと向かう。
埋火蝶。
ひとまず危うい局面は打開される。
「この国には、どれほど絶望へと沈められようと、未だ諦めず、互いに信じ、鬼に抗い続ける者たちがいる。戦いを一度終えようが。どれだけ離れていようが。誰かをそばに感じ」
彼女は意志を示す。戦いを継続させた。
「私は確かに死人だ。しかし、大湊。お前には理解できないのかもな」
その勢いは衰えることはなし。これまでは綱渡りのような戦闘でしかなかったが――埋火蝶――彼女の火は軟弱な地盤を固め戦況をひっくり返そうとする。
山のようで、とは、どちらのことであったか。
火門も鈍化せずにいる。追い詰められるのではなく、追い詰めようとする。
「領主となっても、要らないと捨てる。利用し奪うばかりで。お前が失ったものだ」
彼女は終わらせようとした。猪武者。
それは正にこう言えるだろう。止めの一撃だ。
「自由を掴もうとする。尊い命からなる。ひとの思いだ。私はそれだけでここにいる」
火は燃え続ける。危なげなく美麗さは失わず死命を決する。この戦いはそのように見えた。
「聞けば。思い。それがどうした。取るに足らない」
火門は少したりとも姿勢を崩さなかった。
すると火門の体、その内側から、いくつもの歪な腕が出る。まさかの出来事だろう。『大湊の化身』が突き破るようにして姿を現す。
白鈴は両手に囚われてしまう。もちろん火はところかまわず燃え移っている。火移り。しかし、いよいよ見えた化身の顔は表情を変えたりはしない。
「お前は鬼だ。人であった。今どうだ。同じはずだ。お前は、違うというのか」
化身の言葉と同時に彼女は侵食されていく。鬼の手から染まっていく。小さな肉体に精神とじわりじわりと、消えぬ火も消えてしまう。
「わたしは。わ、たしは」
彼女はぼんやりと見詰めていた。濁流のなか救いのある安らぎが照らす。
『だめ……。白鈴、ダメ』
遠い場所。傍にはいないはず。シュリの声である。
白鈴は視界が開ける。「そうは思わぬ」
大湊の化身は断じて許さない。そこに猶予など与えなかった。共にあることを強く望む。
白鈴は両手に掴まれたまま化身に食べられてしまう。飲み込むとはすこし異なるか、自身の腕ごと咀嚼しており消化をよくしているようだった。
難なく食べ終えると、馴染まなく気に入らなかったようで、埋火蝶陰影や衣服といったくずを乱暴に吐き出す。
化身は取り込んだ影響で、体内の膨らみからげっぷをする。
「だからいつまでもお前は弱いのだ」
「これが、力か」と呟く。化身は吐き出したばかりの埋火蝶陰影に目を向けると、それに腕を伸ばす。
ところが、手が届く前に、美しき刀はひまわり色の髪を持つ彼女によって奪取される。ヒグルだ。
彼女の周りには、シュリと上井、いなびがいる。
「それを、渡してもらおうか。主のいない武器に価値などない」
「渡すわけないでしょ」
ヒグルは従わない。彼女は全力で阻止するつもりでいる。
「それと、お前もだ」
「シュリ?」いなびはそう言って、彼女のほうを見る。
間隔を置かず、複数の腕がヒグルとシュリに襲い掛かる。とくに反応できたのは上井だった。彼はシュリを守った。伸びる腕からひとつ防いだところで安心はできないが、おかげでいなびも参戦できる。
ヒグルも回避する。しかし逃れ続けるのにも限度がある。
苦しくなる一方でとうとう追い込まれると――。
そこで遅れてやってきた男が二人いる。彼らは危機をはねのけた。
「させるわけがねえだろ」
目黒はそう言った。糸七は何も言わなかった。
化身は攻撃をやめる。焦れったいと考えた。手段を変える。その二つ以外は、どうなろうが関係ない。
「邪魔だ。まとめて潰してやる」
黒色の球体が浮かぶと、丸みを維持したまま膨張する。
彼らはその場を離れようとはしなかった。困難に立ち向かう。シュリは扇を広げ、ヒグルは魔法の壁を幾重にも重ねる。
凌げず防壁は破られる。
目黒と糸七はというと、球体を打ち破ろうとした。
黒の球体は十分なほどその形を変えた。消滅し、そこは化身だけが立っている。
化身は力に物足りさなを感じていた。妙に大人しいという考えはあったが、静かな大鳥の祠を目の当たりにして気付く。
「あと少しのところを。最後の最後で足掻いたか。あとは、お前だけだったが」




