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千客万来(センキャクバンライ)  作者: つかばアオ
_2の2 近付く影 正体 蘇る記憶
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第14章「枯れ谷の大蛇」_6_END

 白鈴にも相手の顔がどこにあるのかはわからなかった。体の一部である。大きな大きな体のほんの一部である。胴体だ。それだけはわかった。


 枯れ谷の白蛇。大蛇。確かに、山を飲み込むぐらい。そう言われるのも納得できる。谷から滅多に動くことのない大蛇。


「ぼけえっとするな。早速始めるぞ。準備はいいか」


「えっ? うん」


「これを。鈴を使え」


 アオバが渡したのは、これといって目立った装飾のない鈴だった。手のひらに乗るような大きさで、赤い紐が結ばれており、今まさにシュリの手のひらで転がると澄んだ音が鳴る。古い物だとは思えないほど。


「呼ぶだけだよね? 鈴を使わなくても」シュリは憑依させようとは考えていない。


「巫女だと言いたいのだろ。いいから使え。わざわざ運ばせたんだ」アオバにもその気はなかった。


「私はなにをすればいい?」白鈴は屋水姫を呼ぶ方法など知らなかった。神は鈴の音で寄ってくる。そのぐらいの知識しかない。


「お前は屋水姫だ。その辺でかわいらしく待ってろ」


 何もするなと言われている。白鈴にはそのように聞こえた。そこにいるだけでいいようだ。


 白蛇が働きかける様子はない。アオバも見ているだけのようだ。


 期待と緊張が入り交じり、静かな空間となる。


 シュリは赤い紐を人差し指にかけると、小指で鈴を弾いた。


 


 音色は美しい。響いた。静かな空間は続く。


 


 シュリはこの状況にたいする詳細でも求めるように白鈴のほうを見る。


 とくに気配はない。ひとまず白鈴は黙っていようと考える。


「ううんと。失敗?」


 シュリは陽気な感じで今度はアオバに尋ねた。


「屋水姫、やっぱり来る様子はないな」


「ええっと」


「私が人ではないからかもな。私を、女子おなごとはいえない」


「もう一度、する? もう一回。そうすれば、今度こそ」


「いや、やめよう。実を言うと、来ないだろうというのはある程度予想はしていたからな」


「ううんと、だけど」


「一回で、十分だ。来ないとわかった」


「ではどうする?」


 彼女は何も言わない。


「こちらの用事を済ませてもいいか」


 アオバは少し間を置いた。「どうぞ」


「白蛇。私からいくつか聞きたいことがある。そのためにここへと来た。大湊の国から、おびただしい鬼を減らす方法とは、『屋水姫』であることで間違っていないか」


 アオバはちらりと視線を上のほうに向ける。


「ああ」と彼女が答えた。


「そうか。よくわかった。原因は。いや、これはもういいか。これまでの話を聞く限り、最後の希望は『屋水の巫女』ということなのだろう」


 おそらくそれは白蛇だけではない。大湊で暮らす、闘う人々にとって、きっと。


 火門が興味を持った存在でもある。人知を超えた力。役に立たないと判断されたようだが。


 鬼と戦う。私は、力となれるのか? 火門と。


「可能ならば、白蛇、私が何者であるか教えてくれないか」


「お前は、白鈴ではない」


「それは。なにを言っている?」


「では聞くが、お前の姉、その名を覚えているか」


「姉は」


「思い出せないだろ」


「それは私が」


「お前は、自分自身を救うことはできない」


「――言わなくともわかってる」


 見透かされている。


 私は、自分自身を救うことはできない。


 それなら、わたしは、どうしたら。白鈴はそっと胸の辺りに手を当てる。


 このわたしを。斬れるのは、やつしかいない。


「お前が何者なのか。知りたければ、化身の眠る封印場所に向かうといい。お前にとっても縁のある場所だ。そこで全てを知るだろう。探し物は見つかる」


「そこには一度訪れている。なにもなかった」


 旅の途中、訪れる機会はあった。国が鬼にむしばまれていると知り、一番の目的地であり、まっすぐ目指していた。しかしそこには何もなかった。向かったであろう火門さえも。


「火門の居場所は知っているか?」


「自ずと見つかる」


「やつは何をしようとしている」


 


 白蛇から回答は得られなかった。言うなら時間切れのようだ。


 白鈴とシュリは町に戻る。


 自ずと見つかる。先を進めば、いずれその時が来る。蛇は全てを伝えるつもりはなかった。


 二人が戻っていると、思いも寄らぬ再会を果たす。


 カシワにいた、ふくよかな男。特異な気配。雲残である。彼はひとりだった。


 彼も枯れ谷の白蛇が屋水姫を探していることに関心を寄せたようだ。


 サザナミが許したのか? 疑問が払拭されるまでの時間はそう長くない。


「あれ? なんだか、急に眠くなってきた、かも?」


「眠い? どうした?」


「うん? どうなされた?」


「あれれ? あれれ? えへへ。しらすず、すき」


「どういう眠り方だ。ここでは。まて」


 シュリは立ったままではいられないようで、白鈴にもたれかかった。


「これは。これはどうしたものか。その顔からして、本当によく眠っておられる」


 雲残が精査するまでもない。気持ちよさそうな顔だった。


 なんだ? 屋水姫か? そこで、白鈴は音に気付く。


「どうかなされたか?」


「いや。ひとまず。離れてもらえるか」


「それは、どういう意味で」


「近付くなと言っている。私に、近付くな」


「……そうか。睨んだとおり。『音』で、気付かれましたか」


 白鈴は目覚めないシュリを意識しながら、最善の方法を思索する。


 シュリを眠らせたのはこの男だ。間違いない。では、次にする行動とは?


 なぜ、この男は『鈴』を持っている?


「ようやく見つけた。雲残だな」


 混沌を深める。彼らの前に現れたのは忍びヌエ幸畑だった。危惧すべきとしては、大湊が屋水の巫女、屋水姫を諦めていないといったところか。


「真文様殺害について、詳しく聞かせてもらうぞ」


「なにかと思えば。人間違いでは?」


「ぬかせ。逃げられると思うなよ」


「非常に残念だ。邪魔が、入ったようですな。せっかくこうして、二人きりとなれたというのに」


「おっと。動くな」


 幸畑の警告は意味をなさない。前触れなく――地面だ――彼らの周りで爆発が起きた。


 白鈴はシュリをとにかく守る。


 幸畑も無事なようだ。しかし。


「クソっ。追うぞ」


 彼は仲間を連れて、謎の多き男を追跡する。


 白鈴は眠るシュリの傍から離れようとはしなかった。


 


 その日の夜、町ハシロに到着してサザナミと会い、彼女は約束どおりアオバに体を貸す。


『鈴』について尋ねた。あれは偽物ではないのか。


 奪われていようが、アオバに焦りの色はない。雲残の目的も知らないようだ。


 上井は雲残を知っているようだったが。その男は「雲残」と名乗っているのか? 彼らに任せたほうがいい。それが、本当であれば、相手はヌエだ。


 支度をして、白鈴は蛇の言葉を頼みとし、大湊の化身封印場所へと向かう。




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