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千客万来(センキャクバンライ)  作者: つかばアオ
_2の2 近付く影 正体 蘇る記憶
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第14章「枯れ谷の大蛇」_5

「鬼の勢いは。うん。はゆまにいた頃よりも。はゆまを離れても特に感じてる」


「鬼の増加、その勢いを遅らせるために、一番月見櫓でリュウが用意した結界も、いまや失っている。猶予などない。かしわがあるが、それも」


 彼女はそこで瞼を閉じると、まっすぐな瞳で話を続けようとする。


「大湊の要求とは何か教えてくれるか?」


「屋水姫は、目覚めている。しかしリュウは屋水姫を憑依させることができない」


「憑依。あの状態では無理だろうな」


「状態関係なく。リュウには自信がなかった。だれかを殺してまで、命を奪ってまで、実行するほどの自信はなかった」


 大湊による当初の計画。『屋水姫』。リュウは大湊に呼ばれた。リュウは誰かを殺してまで、屋水姫を憑依させようとは考えなかった。故に大湊は無理やり、屋水の住人を? よって屋水姫は目覚めた。だが、思わぬ事態が起こる。リュウが衰弱してしまった。


 はじめから大湊は、姉の思いを利用するつもりで近付いたのか?


「白蛇様は、シュリに、あなたに姉の代わりとなることを望んでいる」


「わたしに?」


「お前の姉は断ったが。大湊相手に、白蛇様相手に、やらせるわけがなかろうと」


「お姉ちゃんが……。そっか。言いそうだね」


「枯れ谷に『鈴』がある」


「カシワの?」


 屋水姫に関係する、特別な鈴のはなしだろう。災いから遠ざけてくれるという。


「カシワから『鈴』をハユキに運ばせた」


「ハユキに? えっ? うんと」


「シュリがカシワで見たのは、模造だ」


「もぞう」彼女は本物かどうかなどわかっていなかったようだ。


「シュリ、やってみる気はないか」


 決断するのは難しい。彼女は徐に白鈴のほうを見る。


「命に関わるのだろ? 姉の思いを大事にしろ。……その上で決めろ」


「考えさせて」


 しばらくしてから、「時間はないぞ」とアオバは警告する。


 


 枯れ谷に潜む怪しげな鬼。その鬼は周りにたくさんの紙切れを舞い散らせており、索敵を任せつつ、念入りに探し求めている。


 遠くまでは逃げていない。そんな経験ともいえようか、考えがあった。長居すると、薙刀を持った女がやってくると考慮しながら。


「待たせたな」


 その声は突如として聞こえた。変わらず霧は濃い。そのなかで幼げな少女がひとり立っている。


 刀を手にする女はこの時点で勝機を見出している。厄介な敵であることは十分に承知している。一気に止めをさせないと「これ以上」も考えられる。それでも女は相手を見詰め、勝ちを確実なものにできると疑わなかった。


 紙切れが白鈴に襲い掛かる。生き物のごとく動くそれはさらに数を増やしていく。


 嵐を起こし、包み込もうとする。白鈴との距離を徐々に縮め、追い込み、逃げ道を塞いでいく。


 乾いた音。恐ろしいほどに鳴る。


 彼女は逃げない。真ん中で、一点を見詰め、調和し、構えた。


「ここで、終わらせる。私とお前、どちらが速いだろうな」


 舞い散る紙切れ。瞬く間もなく白鈴の姿が消える。


 彼女は移動していた。鬼の上半身に足をかけている。首元には刃が――。仰け反るからだ、押し倒しているかのよう。身動きなどできない。


 細い腕がわずかに動き、その後にかっ切る。


 紙切れが彼女の周りを盛大に花びらのように舞った。ぴんと伸びた腕は、揺れ動くことない。ギンヤンマ。


 鬼は力を失われる。あれほど優雅であった紙切れは舞えず地に落ちていく。


 しかしながら、鬼は最後のあがきをする。紙の一枚が白鈴に近寄り、道連れにしてやろうと派手に爆発した。


 


 白鈴を魔の手から守ったのはシュリだった。アオバと別れて、彼女は走り寄る。


「白鈴、大丈夫? わっ、すごい汗」


 それは額だけではないと判断できるほどの量だ。しずくとなり、滴っている。雨に降られたかのような。


「この体でもきついか」


「えっと、平気? なにか拭くもの。あと、喉。水」


「私は水だぞ? ああ。平気だ。ありがとう」


 疲労しているように見えた。なんでもないといった態度ではあったが、明らかにその小さな体には彼女の想像よりもそれは堪えているように見えた。


 ほんのひと時を過ごす。


 シュリはふと目をやる。そこには真っ二つにされた紙切れが残っている。


「倒せた、のかな?」


 白鈴は一瞥しただけで、もう調べる必要はなかった。


「ああ。やった。大丈夫だろう」


 煩わしかった霧も消えている。鬼が身を守るためやってたようだ。勿論、関係のない霧は晴れてはいない。


 白鈴とシュリは奥へと進んだ。枯れ谷の白蛇と会うため、彼女たちは歩みをやめない。


 そうして二人の前に子供が一人姿を現す。


「来た来た、やっと来た」


「アオバか? どうしてその姿をしている」


「アオバは忙しいんだよ。ほらっ。こっち来な」


 カシワにいた子供だ。アオバは案内を続ける。地主神と呼ばれる、白蛇までもうすぐのようだ。


 


 ――行き止まりではない。


 その者は、生きている。一見したところはただの白い岩肌のようでもあったが。


「聞いてるとおり。大きいね」


「そうだな」


「お顔、どこだろ?」シュリは遥か先を(霧で見えないが)眺める。

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