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千客万来(センキャクバンライ)  作者: つかばアオ
_2の2 近付く影 正体 蘇る記憶
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第14章「枯れ谷の大蛇」_3

 草木のない大地にその美しい巫女は立っていた。枯れ谷の巫女ハユキ。このところしばらく行方がわからなかった(心配までされていた)、というのに、彼女は案外すぐに見つかる。健康そうでもある。


 この環境、ハユキとは落ち着いて会話をしたかった。いろいろと理解できないからだ。出会う前の白鈴はそうだった。彼女の望むような方向へとはならない。それは、相手がハユキだからであり、(実際その時にならないと)成り行きからそうなるとも限らない。


 白鈴は話しかける前に感じとる。指先には自然と力が入り、火が隣家に移るように沸き立っていた。


「私は非常に喜びを感じています。このような機会がまさか訪れるなんて。あなたもそうではありませんか?」


「シュリ、下がっていろ」


 彼女は刀を抜く。戦わないは、有り得ない。


「熱く、しのぎを削る」


「ああ、そうだな」


 ゆがみを存分に活かした戦闘。


 争いは熾烈を極めた。


 それからそれから。もとの地形が、どんなものだったか。


 もうわからなくなってきた頃になってようやく事態が進む。


「このくらいにしましょうか」ハユキは戦いをやめた。


「いいのか?」


「ええ。今は」


 彼女は感動の余韻にでもひたっていた。


 つかの間の休息。安全だと知り。シュリが西尾と共にやってくる。


「二人ともおかしい。どうして戦ってるのか全然わからなかった」


「この霧。これは」ハユキは少し間を置く。「あなたがやったのでは?」


「ちがう」


「そうでしたか」


 微笑む彼女を見て、心配するのは誰もが無駄だとわかる。


「それで、なぜ。シュリはわかりますが、あなたがここに?」


 ハユキは西尾に問う。禁じられているのであれば、当然の疑問だ。


「ハユキ様、これだけでいい。答えてくれ。俺は受け入れる。受け入れている。ヨミは本当に白蛇に食われたのか」


「なるほど」彼女はそれだけで理解まで至った。「ヨミは、白蛇に食べられてはいません。白蛇は食べてはいません」


「食べてない? ヨミは、生きている(・・・・・)のか?」


「残念ですが生きてはいません」


「やっぱり、生きてはいないのか」彼から希望が失われる。「どうしてヨミは死んだ?」


 ハユキは視線を外す。「あとになって、ヨミがあなたの妹だと知りました。あの子は。『私に、家族はいません』と言っていました」


「ヨミが、そんなことを? いや――。そうか」


 知らない間に。教えてもらえなかった。その言葉に、彼はどんな出来事よりも落ち込んでいるように見えた。


「実はヨミは、枯れ谷の巫女として呼ばれたのですよ」


「ヨミが? 巫女?」


 静寂の瞬間が訪れる。呼吸して、彼は心のなかの嵐を鎮めようとしていた。


「現在、枯れ谷には、怪しげな『鬼』がいます。私は、そのものを長く探している。その鬼がこれまでの選ばれた屋水姫を食らっています」


「鬼」と白鈴が呟くと、隣では「鬼が、枯れ谷に」とシュリが呟く。


「逃げ隠れが上手なようで。白蛇では警戒され、私も一度倒したのですが、裏をかかれました」


「二人目も、ってことだよね?」シュリは鬼の仕業であることを確認する。「ハユキが倒せないって」


「いいえ。あれは確かに倒しました。ですが」


 彼女はそこで言葉が途切れる。


「ハユキが町に戻らなかったのは」


「はい。鬼を探していました」


 白鈴は考えた。「その『鬼』とは、もしかして大きな蛇の姿をしていないか?」


「いいえ」


「違うか」


「もう、白蛇と会ったのですか?」


「会った。ここに来るまでにな。思ったより小さかった」


「それは、きっと、アオバではありませんか?」


「巫女の?」とシュリがゆっくり言う。


「ええ」


「あれがアオバ? 人ではなかったぞ」


「アオバは人ではありません。どう表現しましょうか。古い言い方で、『里巡り』とも呼ばれますが、巫女です」


 あれは白蛇ではなかった。だとしたら、アオバの目的とはいったい?


「何かあったのですか?」


「襲われた」


「それは。大変でしたね。どういうわけか、アオバはこのところ人でいたいと望んでいる。人に戻り、人であることで、実感したい事でもあるようで。だからあなたなら、それがかなえられると思い、欲しているのかもしれません。あなたからしてみれば迷惑な話ですね」


「里巡り」とシュリが呟く。


「枯れ谷に潜む『鬼』は、『紙切れ』、形容しがたい姿をしています。その鬼を追い出したい。アオバなら鬼を見つけられるはずなのですが」


「白蛇と会うにはどうすればいい」


「会う気になりましたか」


「だからここにいる」


「そういえばそうでした」


 ハユキと戦うために、ここまで来た、とでも考えていたのか。


「では、そろそろここから出ましょう」


 彼女は薙刀を一振りする。霧が生き物のように動いたかと思うと、彼らが立っているのは開けた場所ではない。


「この先です。白蛇はこの奥にいます。進みなさい」


「ハユキは?」


「私は、鬼を」


 いつでも出られたのではないか。そのくらい軽々と彼女はやってのけた。


「西尾、あなたは駄目です。それは許すことはできない」


 問題ないようにも見えたが、彼は呼び止められる。


「あなたには、ヨミについてお話ししておきたいことがあります」


「俺も、聞きたいことがある」

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