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千客万来(センキャクバンライ)  作者: つかばアオ
_2の2 近付く影 正体 蘇る記憶
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第13章「なんのその忍び娘」_6_END

「いいの? 仲間だよね?」


 いなびは「ミドリ」と呼ばれる女の指示に従い、地上を目指す。迷いのない経路、経験を基盤とする足運び、難なく脱出は成功しそうである。


「彼なら心配いらない。それよりあなたは脱出を。ここにいてはいけない。お仲間が来ています」


「白鈴たちが? なんで?」


「急いで合流してください」


 いなびは立ち止まる。なぜなら、譲れないものがあった。


「ごめん。やり残したことがある」


「はっ? ちょっと」


 呼びかけがあろうと、進み続けるつもりだ。彼女は来た道を戻っていく。


「感謝してる。ありがとね」


「……急ぐか」と、ミドリは眺めてから呟いた。


 


 


「逃げていなかったのか。何しに戻ってきた」


「トドロを止めに来た」


 元お社の地下、広く開けた場所でトドロは内心驚いていた。ヌエの行動を危惧し幸畑の処刑を速めたところ、檻には幸畑だけが残され、いなびの姿がなかった。手段はともかく、『彼女は逃げた』と考えた。イワノメに助けを求めるだろうと。


 彼はいなびがまさか考えを改め、これから仲間になるとは思っていない。


 たった一人では。勝てる見込みなどないだろう。それなのに。


「なんで?」とトドロは言う。


「私が止めたいから。それ以外にある?」


 その一言で彼は納得する。「そうか。変わらないな。じゃあ、俺を止めてみろ。手加減はしないぞ」


 間関衆同士、彼との勝負、いなびにとって初めてではない。追いかけっこですら、勝ったことなど一度もない。


 しかし、彼女は諦めない。


 ただひたすらに、希望を抱き、真剣に挑んでいた。


 勝負が決まったかと思われた。勝機は見出していたが、いなびは戦いに負けてしまう。


 そこに、白鈴と上井が現れる。二人はすぐに状況を詳細に把握するのは難しい。


 いなびは白鈴たちに気が取られていた。好機と考えたか。どさくさ紛れに陰から、「針」が投げられる。それはまっすぐ鋭く、彼女に襲い掛かる。


 毒だ。いなびは気付けない。幸畑は気付いた。だが遅かった。「おい、避けろ」と言う。


 彼女を「針」から守ったのは、トドロだった。彼もその場で気付いたひとりだった。


 地面に落ちた針はその長さと重さ故に音を立てる。


「逃がすな。追え」


 彼の指示が響き渡る。


 すると、地面が揺れる。大きな音と共に壁が崩れた。


 壁を破壊したのは、「鬼」だった。大きさはともかく、トンボのような見た目をしている。


 状況は悪い。ここで鬼の乱入は歓迎されるものではない。しかし、よく観察すると、壁を破壊したのは「鬼ではない」とわかる。


 そこには目黒がいた。ぽっかりと空いた壁の穴からはヒグルが出てくる。鬼は既に弱っており消滅した。


「静まれ」


 この波乱に満ちた夜、間関衆代表イワノメが突如と現れ、彼が一声でその場を収めた。


 


 まさに、上井が危ぶんでいたとおりの事態となる。先にひとつ結果を伝えると、いなびを襲った忍びを捕らえることはできない。暗殺を失敗したその男は、逃亡を図り、死んだ。


「お前たちに話しておきたいことがある」


 イワノメは彼らを集めた。イワノメは始めから、トドロがやろうとしていたことについて知っていた。『間関の里には不穏分子がいる』。


 互いの溝を埋めるため、先代の間関衆代表シシタケの思いが掘り下げられる。


 『真文様が死んだことには変わりはない』


 シシタケは、この国を、この里を守ろうとして、自ら死を選んだ。それが真実である。


 真文が死に、間関衆に憎悪が抱かれた。毒殺であったことが世間に広がり、間関衆に疑いの目が向けられた。そうして後に、証拠が見つかる。


 戦後間もない当時、他国と争うほどの余力など大湊にはなかった。鬼が溢れる国に、そんな余裕などない。内乱など以ての外。


 今は耐える時期だ。今ははゆまの千年桜のように。どっしりと、じっと耐える時期だとシシタケは考えた。


 これが、シシタケが死を選んだ所以である。


 シシタケと当時の火門大湊忠文は旧友の仲である。




 トドロが城から盗んだとされる手紙。それは偽物である。イワノメは本物をその場で見せた。


 トドロは、認めることしかできない。偽物とは異なり、見覚えのある字だからだ。ゼンノスケである。


 


 幸畑はやっと自由を得ると、述べた。「今、大湊に、真文様殺害に関与している可能性がある、男がいる。非常に危険な男だ」


「この件は、ヌエに任せる。我々は、我ら間関衆は、大湊でやらねばならないことがある」


 その後、いなびは新井戸屋敷でイワノメから「秘密」を教えてもらう。


 両親についてだ。お前の両親は既に死んでいる。


 そしてここからは、いなびが命を狙われた理由でもある。


 お前の母親はヌエだった。父親は、その事を知っていたようだ。




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