第13章「なんのその忍び娘」_6_END
「いいの? 仲間だよね?」
いなびは「ミドリ」と呼ばれる女の指示に従い、地上を目指す。迷いのない経路、経験を基盤とする足運び、難なく脱出は成功しそうである。
「彼なら心配いらない。それよりあなたは脱出を。ここにいてはいけない。お仲間が来ています」
「白鈴たちが? なんで?」
「急いで合流してください」
いなびは立ち止まる。なぜなら、譲れないものがあった。
「ごめん。やり残したことがある」
「はっ? ちょっと」
呼びかけがあろうと、進み続けるつもりだ。彼女は来た道を戻っていく。
「感謝してる。ありがとね」
「……急ぐか」と、ミドリは眺めてから呟いた。
「逃げていなかったのか。何しに戻ってきた」
「トドロを止めに来た」
元お社の地下、広く開けた場所でトドロは内心驚いていた。ヌエの行動を危惧し幸畑の処刑を速めたところ、檻には幸畑だけが残され、いなびの姿がなかった。手段はともかく、『彼女は逃げた』と考えた。イワノメに助けを求めるだろうと。
彼はいなびがまさか考えを改め、これから仲間になるとは思っていない。
たった一人では。勝てる見込みなどないだろう。それなのに。
「なんで?」とトドロは言う。
「私が止めたいから。それ以外にある?」
その一言で彼は納得する。「そうか。変わらないな。じゃあ、俺を止めてみろ。手加減はしないぞ」
間関衆同士、彼との勝負、いなびにとって初めてではない。追いかけっこですら、勝ったことなど一度もない。
しかし、彼女は諦めない。
ただひたすらに、希望を抱き、真剣に挑んでいた。
勝負が決まったかと思われた。勝機は見出していたが、いなびは戦いに負けてしまう。
そこに、白鈴と上井が現れる。二人はすぐに状況を詳細に把握するのは難しい。
いなびは白鈴たちに気が取られていた。好機と考えたか。どさくさ紛れに陰から、「針」が投げられる。それはまっすぐ鋭く、彼女に襲い掛かる。
毒だ。いなびは気付けない。幸畑は気付いた。だが遅かった。「おい、避けろ」と言う。
彼女を「針」から守ったのは、トドロだった。彼もその場で気付いたひとりだった。
地面に落ちた針はその長さと重さ故に音を立てる。
「逃がすな。追え」
彼の指示が響き渡る。
すると、地面が揺れる。大きな音と共に壁が崩れた。
壁を破壊したのは、「鬼」だった。大きさはともかく、トンボのような見た目をしている。
状況は悪い。ここで鬼の乱入は歓迎されるものではない。しかし、よく観察すると、壁を破壊したのは「鬼ではない」とわかる。
そこには目黒がいた。ぽっかりと空いた壁の穴からはヒグルが出てくる。鬼は既に弱っており消滅した。
「静まれ」
この波乱に満ちた夜、間関衆代表イワノメが突如と現れ、彼が一声でその場を収めた。
まさに、上井が危ぶんでいたとおりの事態となる。先にひとつ結果を伝えると、いなびを襲った忍びを捕らえることはできない。暗殺を失敗したその男は、逃亡を図り、死んだ。
「お前たちに話しておきたいことがある」
イワノメは彼らを集めた。イワノメは始めから、トドロがやろうとしていたことについて知っていた。『間関の里には不穏分子がいる』。
互いの溝を埋めるため、先代の間関衆代表シシタケの思いが掘り下げられる。
『真文様が死んだことには変わりはない』
シシタケは、この国を、この里を守ろうとして、自ら死を選んだ。それが真実である。
真文が死に、間関衆に憎悪が抱かれた。毒殺であったことが世間に広がり、間関衆に疑いの目が向けられた。そうして後に、証拠が見つかる。
戦後間もない当時、他国と争うほどの余力など大湊にはなかった。鬼が溢れる国に、そんな余裕などない。内乱など以ての外。
今は耐える時期だ。今ははゆまの千年桜のように。どっしりと、じっと耐える時期だとシシタケは考えた。
これが、シシタケが死を選んだ所以である。
シシタケと当時の火門大湊忠文は旧友の仲である。
トドロが城から盗んだとされる手紙。それは偽物である。イワノメは本物をその場で見せた。
トドロは、認めることしかできない。偽物とは異なり、見覚えのある字だからだ。ゼンノスケである。
幸畑はやっと自由を得ると、述べた。「今、大湊に、真文様殺害に関与している可能性がある、男がいる。非常に危険な男だ」
「この件は、ヌエに任せる。我々は、我ら間関衆は、大湊でやらねばならないことがある」
その後、いなびは新井戸屋敷でイワノメから「秘密」を教えてもらう。
両親についてだ。お前の両親は既に死んでいる。
そしてここからは、いなびが命を狙われた理由でもある。
お前の母親はヌエだった。父親は、その事を知っていたようだ。




