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千客万来(センキャクバンライ)  作者: つかばアオ
_2の2 近付く影 正体 蘇る記憶
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第13章「なんのその忍び娘」_5

「それは、ゼンノスケが里を捨てたから」


「大湊の奴らは、毒殺を間関衆の仕業として、その考えをすこしも変えなかった。そうだよな」


 いなびは怪訝そうな表情をする。彼女には彼が何を言いたいのかわからなかった。


「これを、お前に見せてやる」トドロはそう言って、衣服からあるものを取り出した。


 いなびは首を傾げる。


「手紙? それが、なに?」


「これは、俺が、城から盗んできたものだ。それでこの中身はというと、大湊真文殺害の計画」


「トドロ、あの城に忍び込んだの? それで。すんごっ」


「お前にはわからないかもしれないが、まあ見てみろ。これを見て、どう思う?」


 そこには、文字が並んでいる。


 とくべつ、おかしなところは見当たらなかった。いなびにはそうだ。


「どう? うーん」目を凝らしたところで、彼女に気付きはない。


「これは、ゼンノスケの文字ではない」


「うん? えっ? えっ? でも、たしか、やり取りの手紙って、ゼンノスケが書いた物だって話じゃなかった? ちがうの? ゼンノスケじゃなかったの?」


「決定的な証拠と、俺たちは言われたはずだ。あの日。シシタケから」


「ううん? 間違い、ないの? 本当に、ゼンノスケの文字ではないの?」


「ゼンノスケは、裏切ってはなかった。すべて、ヌエが作ったでっち上げだった」


 彼は『手紙』を折り畳むと、大きく息を吐く。


「お前の両親は、里を去ったというあいつを、追いかけて行ったよな」


 うん、といなびは静かに頷く。


「あれから、もう五年だ。たしか、待っててくれと、あの二人に言われたんだよな」


 彼女は何も言わない。『出かける前、二人が何かを話していた。』そのことを思い出していた。


「二人の行方についても調べた。二人とも、既に死んでいる」


 いなびは間を置く。現実を否定するように、彼から目を背ける。


「お父さんも。お母さんも。死んでるのはわかってたよ」


「そっか」彼は俯く。「そっか。スマンな」


 トドロがどうして謝ったのか。このとき、いなびには理解できない。


「いなび。俺たちの仲間にならないか。お前がよければ、歓迎する。シシタケも、ゼンノスケも、お前の両親も、ヌエに殺されたんだ」


 実のところ、『出かける前日』に、トドロもいなびの両親と対話をしている。あいつはどうすんだ。


 


 彼が見つけた真実。


 誘いには返事はもらえず、トドロはそれからその場を去っていった。


 無言を貫く二人の見張りがいるなか、そうして時は夜となり、古いお社の地下では何者であろうと、「一人」となれる不都合のない平和な時間が流れる。


 ゼンノスケは、犯人ではなかった。


 誰か来た。人の気配を感じて、たくさんの思い出をしまい、いなびは首を横に振る。


「気は変わったか?」足音の正体はトドロだった。


「私は手を貸さない」彼女の気持ちは同じである。


「どうしてか教えてくれるか」


「望まないから」


 わかった、と彼は言う。「それなら、しばらくそこで大人しくしていろ」


 トドロは彼女にほかにとくべつなことは何もしないで、静かに去っていく。


 再び孤独となり、いなびは考える。ここから脱出する方法などあるだろうか。ここで、待っているだけでは、近いうちにトドロはよくないことを実行に移すだろう。


 見張りには口をきいてはもらえなかった。一か八か、隣の檻に向かって彼女は声をかけてみる。


「それで、なんであなたまで捕まってるわけ?」


 隣の檻にいるのは、忍びヌエ幸畑だった。少し前、彼は拘束された状態で連れて来られた。


 厚い壁の向こう側にいるのは明らかだ。ところが、幸畑から返事はない。


「雑魚」


「……辛辣きわめてるな」彼は反応した。「これは、作戦だ」


「作戦?」


「俺は、殺されることが決まってるそうだ」


 いなびは聞いて、戸惑う。「なんで?」


「なんでって、おかしなことでもないだろ。情報を吐く気のない奴はいらない。まあ、俺は、戦力にはなるとは思うんだがな」


「信用されてないんでしょ」


「あの野郎は、始めからそのつもりだったみたいだぞ。つまり俺は餌ってわけだ」


 トドロは、未だ謎の多い『ヌエ』と駆け引きをやろうとしている。


 いなびはこの男が脱出を図ると踏んだ。殺されることが決まっているとするなら、なおさら彼は相手の思い通りにはならないだろう。


「だれ?」


 いなびはどうしてやろうかと計画を立てていた。するとそこで、見張りが二人同時に糸でも切れたように動かなくなる。


 女がいる。


 いなびがいる檻の前に、一人の女がやってくる。女は何も言わず鍵を取り出すと、檻の扉を開けた。


 身動きが取れない彼女は首を傾げた。「だれ?」間関衆ではない。


「動かないで」


 彼女は縄を解いてもらう。


「立てますか? いきましょう」


 手順よく運ぶ。非常に手際がいい。ここまで非の打ち所が無い。


「ミドリ?」


 しかしながら幸畑は、そんな女にたいし疑問を抱いていた。彼女が(ミドリが)、そのまま地上へと向かおうとする。


「あれ。そこでなにをしているのですか。幸畑くん」


 明らかに、彼の存在は知っていた。いなびには言動からそう思えた。


「ああ」幸畑は後ろめたい思いでもあるのか。「それはなあ、色々あってだ」


「いこう」


「おっと、鍵は?」


「ありません」


「行く気か?」


「あなたはそこで反省を」


 ミドリはそう言って、彼をその檻から出すことはなかった。

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