第13章「なんのその忍び娘」_4
白鈴は思考を進める。
「上井、なにか、知っているのではないか?」
「なにをだ」
「間関とヌエについて。いなびは以前に、『真文殺害』には黒幕がいると言っていた。毒殺は、はっきりと『間関衆ではない』と。間関とヌエの間にある問題は知らないが、なんの根拠もなく、そのとき、いなびが言っているようには聞こえなかった」
彼は歩みをやめる。
そして、少し休むか、と彼は言った。
「間関衆に、『ゼンノスケ』という男がいた。まだ若く、純粋な男だったと聞く。その男が、『毒』を仕込んだ者で間違いない」
「間関の里を去ったという忍びか?」
上井は頷く。「使用された『毒』は、扱いを心がける『忍び』であれば、とくに珍しくもないものだ。知らぬ者だと、己を殺める。体の大小関係なく、そのくらい確実なものだった」
「他国とのやり取り。証拠となった、手紙の主とは」
「そのゼンノスケだ。行方についてはわかっていない。勿論、死体もみつかっていない」
穏やかな風が吹く。
「まんぷくに、トドロという男がいただろ」
「あの男が、なんだ?」
「真文が死に、大湊は混沌の淵に沈んだ。身分など関係なく近いものから徹底的に調べ上げられた。間関衆に疑いの目が向くなか、間関の里のなかでいち早く、ゼンノスケを怪しんだのがあの男トドロだった。トドロはゼンノスケと親しい仲でもあった故に、日常生活の中で、不審に思えたところがあったそうだ」
彼は少し間を置く。
「あの男は口にしていただろ。『どうして、あの人が、死なないといけなかったのか』」
「友である故、でもあったか」
「今も、友であると考えているのかは怪しいがな。里を去っている。証拠の手紙もある。この一件で、間関衆はシシタケだけではなく、大事なものを失っている」
白鈴の考えは、変わらなかった。彼の言葉から彼女にはそう思えた。
「シシタケは、その当時、真文様が死んだことには変わりはないと言った。そう言って、死を選んだ」
見せしめとして間関衆里長であるシシタケは殺された。真文様が死んだことには変わりはない。白鈴は違和感をより覚える。
「ここで、下屋敷いなびの両親についても話しておこう」
「なにか関わりがあるのか?」
「いなびの両親は、当時まだ十一の娘を里に残し、裏切ったとされるゼンノスケのあとを追いかけている。父親は母親に、里に残るようそのとき説得したようだが、最終的には二人で行動することにしたようだ。二人とも、何者かの手によって殺されている」
「川にいたあの男が見せた反応は、そういうことか」
「彼らは、『死』に関しては知らないだろう。だが、あれから五年が経過している」
「いなびは、この五年」
「そのあたりは、里にいるいなびの幼馴染にでも聞けばいいだろう。それより――」
上井は悪い想像が脳裏をよぎった。
「幸畑。間関。いや、うがち過ぎでないといいが」
「なんだ?」
「いなび、彼女に危険が迫っている」
「どういうことだ?」
「死んでいることも、本人は知らないはずだ」
長く手入れがされていない老朽化したお社、その朽ち果てた境内を黄金色の夕焼けが照らしている。一見、木々が揺れるだけで人影がないように見える。しかし静かに忍びが集まっている。そんな建物で、いなびはというと、地下にある檻のなかにいた。
彼女は忍びヌエ幸畑を追いかけて、ここまでたどり着いた。
「何が目的? トドロ。ここから出してほしいんだけど」
「見られてしまったからにはしかたない。いま、お前に下手に動き回れては困る」
身動きを封じられ、いなびは暴れず、格子の向こう側にいる相手をじっと見上げていた。
「ふうん。そう。じゃあわかった」
彼は意外だと首を縦に振る。「素直だな。里を離れているあいだに、大人になったか」
「それならさ、ここで何をしているのか、それぐらいは教えてくれない? 同じ間関衆として。悪いことしてるんでしょ? ヌエと、なんで仲良くしてるんですか?」
「あの男は協力者だ」
「協力? 答えになってない」
「俺は、ヌエを壊滅に追い込むつもりでいる」
「そんなの無理だと思うけど」
似たような質問を、いなびは里長であるイワノメにもしている。彼女は新井戸屋敷から「幸畑」が出てくるのを目撃していた。そして。
こんな状況でも、トドロの家族のような振る舞いは変わらなかった。「お前の、コソコソ嗅ぎ回るとこ、直したほうがいいぞ」「ふっ。忍びなもんで」
彼はそこで胡坐を組んで座る。
「じゃその忍びさんよ。お前はどうだ。仲間になるか」
「わたしはイヤ」
「そう言うだろと思ってたよ」
「……本気なの?」
トドロは檻の前で一度視線を外すと、彼女を見詰める。
「なに?」といなびはその目が気になり問いかけた。
「いなび、シシタケがなぜ殺されなければならなかったのか。考えたことはあるか」




