第12章「暴れ馬の悪癖」_6_END
最奥へと向かうあいだ、目黒は語る。「彼の記憶」についてである。ことのは村で過ごした日々、村の最後、馬男になっていた時のもの(屋水での一件など)、色々と思い出したようだ。
そのうえで彼は警告する。不自然な高熱もそうだが、馬鬼は相手の体を奪う「力」を持っている可能性がある。
『村の最後』、必死に逃げようとしたなかで――恐怖とかではない――追い詰められ体が石のように固まった。その際、抵抗ができなかった。
話を聞いて、白鈴はひとつの答えにいきつく。村人に現れた症状、その謎を解く手掛かりは、「キガラ」という女性にあるのではないか。押し入れには、発症から免れた子供がいた。
彼らは馬鬼との戦闘が長引かないよう、戦術を立てて、挑む。
一方その頃、いなびは残りの二人と行動を共にしていた。彼らはことのは村の過去を知り、共感を覚え、白鈴たちの意向に沿うかたちで見えぬその後ろを追いかけている。
彼らも村に巣くう馬鬼を倒すつもりでいた。四年程前に村を襲った、倒されたはずの鬼。
ところが意志とは別に到着は困難となる。彼らの行く先を邪魔する「鬼」がいた。馬鬼の指示と考えるべきか。それは単なる深読みか。環境を考えれば、どうともいえる。
急がねばならないだろう。
彼らには危機感があった。
彼らの前に立ちふさがる鬼たちは、黒く歪だがイヌのように見えた。
白鈴の計画は端的に言えば、村人と同じ状況にはならない、というものだった。クチバから聞いた話と目黒の経験から推測できる。ことのは村に来た時から彼女は実感している。ともかく考慮すべきなのは、既に馬鬼の手中にあるということ。
症状がいまのところ現れていないだけで、直に動けなくなる状況が訪れる見込みが高い。
子供を守ろうとした。村人たちが次々と倒れていくなかで、キガラはなぜ「押し入れ」であれば、そこであれば『安全』と考えたのか?
身近なもの? 足元にある『影』、ではないか?
「この地から去ってもらうぞ」
馬鬼との戦闘は、静々と始まる。それは、黒い煙に包まれた姿。全体が見えるわけではない。馬男にやや似ている。目玉が飛び出しており、口が大きい。頭がもう一つある。舌が長い。人間らしさは薄い。
白鈴は見破っていた。これは、やつの本当の姿ではない。
鬼が見せる容姿――。彼女にとって、どうでもよかった。それよりも。
彼女の力では、強大な力を持つ鬼を斬れなかった。戦略上重要だ。故に反撃も受ける。
手こずっていると、危惧していたとおり彼らにも症状が現れる。一番初めに倒れたのはヒグルである。彼女は馬鬼との戦闘が始まる前から傾向はあった。安全な場所で休んでもらう。
白鈴は自身の体に意識を向ける。恐れていたことが起きた。一瞬、石のように固まった。
馬鬼に殴り飛ばされたあと、彼女は決心する。同じように、遅れて飛ばされてきた目黒にそっと語りかける。
「大事なもんを奪われちまう。どうしたもんか。どうすりゃいい。何ができる。あんときと一緒だ」
「あの手を使う」
「あの手?」
「いまの私では、斬るだけで精一杯だ。斬るだけでは駄目だ」
彼は察しがつく。「いいぜ。のった」
「機会は一度きり。――やるぞ」
「おう」
白鈴は立ちはだかるように馬鬼の前に現れた。たびたび、体を奪おうとする鬼をはねのけて、彼女は最後に構えを取る。
屋水での時ほど、それはお世辞にも洗練されたものではない。しかしながら、強いられる苦しい戦い、明暗を分けるにはこれ以上のものはなかった。
鹿角。猛然一撃をも捌く、白鈴が振り下ろした刀は、相手を切り裂いた。
目黒が止めを刺すことで、事態は収束に向かう。
戦いを終え、糸七たちとも再会する。彼の背には(動けないのだろう)いなびがいた。
「やはり間に合わなかったか」彼は加勢する気でいた。
「目黒、みんな、平気?」シュリはひどく心配している。
目黒は過ちを認めており、だからこそ彼らの態度で心が動く。伝えたいことはあるが、言葉が出ない。
「どうした?」
「なんでもねえ。お前たちと、旅を続けたくなった」
呪いは消えていない。馬鬼の本体は別のところにある。彼は落ち着いてから、過ちは過ちとしてその思いを彼らに伝えた。
ことのは村に、ようやく美しい空がやってくる。そこに鼻の長いテングのお面を被った男、上井ヒユウが姿を見せる。彼は白鈴たちとこれから同行したいと述べる。「リュウは心配しなくてもいい」
いなびは彼が忍びヌエであると知る。
何も告げず、彼女は彼らのもとを離れた。




