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第12章「暴れ馬の悪癖」_5

「ことのは村、生き残りの男。その男こそ、あなたたちと共にやってきた彼のことです。彼は馬鬼から呪いを受けて、ここまでひとり生きてきた」


 女はこれまで過去を淡々と述べてきた。それら、ことのは村で起きた出来事は現在に繋がっているように白鈴は思えた。


「それは、『呪い』」とクチバは呟く。


「鬼ではない」


 彼はその心を利用されたのだろう。彼だけでもないのだろう。そして、最悪これからも。


 はっきりとした。馬男は、馬鬼ではない。


「倒す方法はあるか?」白鈴は静かに問う。


「馬鬼を? 倒すことはできません。ここの村人たちと同じく無残に殺されるだけ。呪われ、操られる、あの男でさえまともに傷を付けられないお前たちでは」


 白鈴は彼がいるであろう方向に視線を向けると、小さく息を吐き、歩き出した。


「どこにいく?」


「目黒を、正気に戻す。そして馬鬼を倒す」


「無理だ」


「目黒を見捨てることはできない。四年前に、倒されているんだろ?」


「倒せてはいません」


 白鈴は間を置く。「まあいい。どちらにしろ、やることは変わらない」


 ヒグルは言う。「いなびはこの事を糸七とシュリに伝えてくれる?」


「わかった。任せてくだされ。こんな霧。イナビにかかれば、ここほれわんわんですよ」


「本気?」クチバは呟いた。


「目黒は必ず連れ戻す」


 うん、といなびは頷く。


「馬鬼も倒す」


 


 馬男はあれから呼びかけに答えるように、一直線により深い場所へと向かっていた。なかなか消えない怒りや、いくぶん悲しみを含んだ声を辺りに響かせ、利用されているともつゆ知らず。


 目黒の意識はほとんどないと言っていい。


 そこに、二人。彼の行動を阻むように、白鈴とヒグルが現れる。


 白鈴は彼を止めに来た。このまま、馬鬼のもとまで行かせるつもりはなかった。


 ヒグルもそうだ。二人は、見す見す彼を失うような状況を望まなかった。


 いつもの彼と、目黒延幸という男と、もう一度、進むことをふたりは望んだ。


 戦いは滞りなく始まった。馬男との戦闘は変わらず苦しいものである。


 斬るにはそれなりの技量がいる。魔法であろうと、動きを止めるには似たようなものだ。


 相手の行動を理解してきた白鈴は、その小さな体で応戦する。見た目からわかるだろう。体の重さだけじゃない。明らかに相手に分があるにもかかわらず、彼女は腕力を弾き返す。


 彼女が地面に叩き落されたところ、ヒグルは間髪を容れず、魔法を打ち込む。それは「槍」だ。村のなかで使われていたものだろう。「心残りはないか」手入れはされておらず、状態は悪いが、使えるだろうと二人で考え、こうして作戦の一部として実行に移した。


 馬男は腕を盾にして、攻撃を防ごうとする。魔力を含んだ凄まじい槍は、男に傷をつけていく。だが、刺さりそうにはない。拮抗している。


「許せ。目黒」


 白鈴は近付いた。この好機を活かそうとする。


 しかし、予期せぬ事態となる。馬男はなんと「槍」を活かす。


 その攻撃を――白鈴に向けることで窮地を脱した。


 彼女の体に槍が刺さった。油断していた。何もできまいと斬りつけようとしていた白鈴は、いくらなんでも瞬時に己を守る行動まではできなかった。


 隙が生まれる。逃げるのも難しい。馬男に捕まってしまう。みなぎる太い腕、大きな手。つぎに相手は握り潰そうとする。


 白鈴は苦しそうな表情で彼の顔を見た。


「いい加減。目を覚ませ。バカモノめ」


 彼女は乱暴に投げ飛ばされる。


 


 猪武者。この戦い。意志がある。彼女の技が決め手となった。


 


「巨体」から、徐々に人の姿に戻っていく。目黒は、大きく息を吸っている。戦闘で負った傷は残りそうなものだが(そのくらい酷かった)、なにか別の力でも働いているかのようにとき短くきれいさっぱり癒えていく。


 白鈴は言った。「戻ったな。立てるか?」


「スマン」


「礼はいい。まだ、戦えるか?」


 目黒は間を置く。「俺を、信用してくれるのか? 俺は、お前を。またいつお前らを」


「その時は止めてやる」


 ブレのない言葉だった。


 彼は聞いて、何も言わない。


「馬鬼を倒せば、呪いはなくなる」


「……じつは、ずっと隠していた。俺は、お前たちの知らないところで、あの姿になっていた。説明は難しいが、自分から姿を変えると、不思議と我を忘れないんだ。だから、溜まったものを発散でもするように隙を見計らって」


 彼女は思考する。「柄木田は、知っていたと思うか?」


「どうだろうな。少なくとも、大湊に捕まる前までは、俺は人間だったと思ってるが。その頃に呪いなんてのは」


「私は、鬼だ。死人しびとだ。話しておきたいことがある」白鈴はヒグルを僅かに一瞥する。「少しずつ、昔の記憶を失っている。もし私がそうなった時(・・・・・・)は、お前が、私を止めてくれるか」


 目黒は少しだけ表情が和らいだ。


「お前を止めるのは、骨が折れそうだな。ああ、全力で。そのときは力を貸してやる」


「頼む」


「私も」


 白鈴は静かに頷いた。


「よそ者を、村から叩きだすぞ」

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