第12章「暴れ馬の悪癖」_4
雨が降る日のこと、ことのは村で見て見ぬ振りは難しいちょっとした騒ぎがある。少女の名はクチバ。クチバは、この数日、体調を崩していた。昨晩にようやく、病気は快方に向かっていた。朝には、いつもの元気を取り戻し、誰もが普段の彼女が村のなかで見られるのだろうと考えていた。
昼頃、彼女は再び苦しみを訴える。これが始まり。明らかにそれは謎の病だった。高熱、震え。
ハザンにミツなど、村人たちは異常だと話し合う。これはありふれた病ではない。
では、どうするべきか。クチバの看病をしていたキガラは、解熱の作用がある薬草を取りにいくべきだと主張する。助ける方法はほかにない。村にあるものでは、効果が薄い。
作物のできが悪いことを調べに来た彼女は、そういったものにも詳しい。
雨は止まない。村から離れる。鬼がいるだろう。キスケは言った。村人たちの意見はそうだ。それでも彼女は向かおうとする。
目黒も、その時、キガラと共に薬草を取りにいくと述べた。二人で川辺へと向かう。
雨は強まるなか、目黒は「キガラの過去」に触れる機会を得る。危険を冒す理由。
彼女はクチバと似た症状を経験している。不自然な高熱。
そしてそれは村に広がる可能性があると睨んでいる。
いまだに揺れ動いていた。これを機に、(そうでありたいと)彼の気持ちは固まる。
騒ぎが治まった後、二人は夫婦となった。病の原因は『鬼』。大湊の侍が来て、鬼は退治される。キガラの機転のおかげで村への被害も最小限となった。
月日は流れ、虫の音がよく聞こえる、夜。
目黒は『あの夜』についてキガラに打ち明ける。豊穣への感謝、祈りのお祭り。もとはその気はなくて、酒のせいで告白してしまったとまじめに告げる。
「ほらっ、やめとけとか、周りから言われてただろ? もちろん。いま、俺は、お前を愛している」
キガラはすぐにとは返事をしなかった。彼には、彼女が驚いているように見えた。
「今になって、あの夜ことは、忘れてくれとは言えない。でも」
「知ってましたよ?」
「知ってたのか? それなら、なんで」
彼にとってそれは長いあいだ疑問だった。この日に、この時間、ついに聞けると思える。
「知っていました。でも、いいんです。だって私は。いまとても、幸せなんですから」
キガラの微笑みを見ても、彼の疑問はうまく晴れない。
彼女は続けた。
「きっかけは、何でもいいんです。立派なものなど、いりません。些細であろうと。笑い転げるものでも」
「俺は、変わりもんだ」
「私も変わり者です」
鈴の音が聞こえる。はい、とキガラは頷く。
「私も、愛していますよ」
こうして目黒は、未来は輝いていると確信する。彼の心は晴れやかとなった。
「あっ。でもお酒は、ほどほどに」
いっそう注意はしていた。しかしながら、夫婦となってからは、自宅で悪酔いしている姿はなんどかあった。
キガラとしては、それは彼の健康を気にしての言葉だった。
ある日のこと、ことのは村は霧に濃く包まれていた。多くが、終わったものだ、と考えていただろう。村人たちは今も記憶に新しい怪異に襲われる。
最初の出来事。少女クチバが姿を消した。彼女は前日、これといって変わった様子などなかった。
村人たちは、霧で視界の悪い森を探す。
大人数人で探したが、クチバを見つけることは叶わない。村のなかであろうと、森のなかであろうと。
成果得られず彼らは村へと戻る。どこに行ったと思う? 相談をしていると、新たな問題が発生する。村人のなかで高熱を訴える者がいる。それも、一人ではない。
以前と似た症状。状況。少なくとも、キガラはそう判断した。彼らは村を襲った鬼が近くにいるのではという考えにいきつく。
どういうことだ? 倒されていなかったのか?
話し合いがつき、目黒とハザン、キスケは武器を携帯し川辺へと薬草を取りにいく。戦いだ。これからを踏まえると、数に余裕がなかった。
男が三人。目黒にとって思い出のある川辺に向かうと――そこにはクチバがいる。
少女の様子が変だ。
ハザンは彼女を見て、思いつく。クチバは鬼に操られているのではないか?
「これ以上、鬼の思い通りになってたまるか」
クチバの体が川の底へと沈んでいく。ハザンは咄嗟の判断で、少女と共に川へと落ちる。
「来るな。クチバは必ず俺が連れ戻す。お前らは先に村へ帰れ」
悩みはした。彼らは責務を果たす。ハザンの言葉は、激励であった。
目黒たちが戻ると、村は急転していた。いったい何が起きているというのか。目の前では、村人たちが倒れている。息がない。
みんな、高熱を発症したようだ。実を言うと、目黒たちもそうだった。
キガラを探す。動ける者は、それぞれ行動していたはずだ。この惨状が、その結果だというのなら。
ミツがいる。彼女は屋外で、動けなくなるまで病人の世話を続けていたようだ。
キガラは既に息絶えていた。
――生存者はいない。そう思われた。だが。
隠れていてって。そこならきっと安全だからと。押し入れに、子供が一人いた。
見たところ症状はない。村のなかで、たったひとり。
「しっかりしろ」
彼らは鬼を恐れ、生きるため、村を離れた。キスケは振り絞り、限界だった目黒に向けてそう言った。
逃げることは叶わない。霧からは出られない。助けを呼ぶこともできない。
最後、彼らは捕まってしまう。
熱を帯びた体は石のように固まった。




