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第11章「戦士たちの賛歌」_6_END

「得物が見えんな。いや、本当に持っていないのか? どうなっておる」


 ウゴウは呟いた。彼が戦場で見極めようとしているのは、糸七と争う「鬼」である。


 体の大きな幽鬼だ。戦う二人の姿が、夜の森に浮かび上がっている。


 糸七は力強い足取りで敵に立ち向かっている。相手はどっしりとした体躯を持ち、闇の中でさえも圧倒的な存在感を放つ。だが、その手には「得物」が見えなかった。時間は短く、暗く、観察は難しく、ウゴウにはそうだった。


 


「相手になろう」


 糸七の槍が空を切り裂き、鋭い音が響く。


 敵はそれを巧みに避け、咆哮のような笑い声を上げる。腹の底から出ているかのよう。


 青年は息を吹き返し、敵に立ち向かう。彼の目は燃えるような情熱で輝き、戦意を示している。夜の森には彼らの激しい戦いの音が響き渡り、闇が揺れ動く。


 敵の特徴的な姿勢や攻撃方法は、糸七にとって謎であった。その巨体からは想像を絶する力は感じられるが、どのように立ち向かえばよいのか、彼には見当がつかなかった。しかし、彼は諦めることなく、敵との一戦を続ける覚悟を胸に秘めていた。


 空では雲がかかる。森は、闘志に満ちた二人の姿が交錯し、物語の舞台となっていた。


 白鈴が複数の幽鬼を倒し終えた後、彼女が休むことなく援護に向かう頃には、ひとりで糸七は決して軽視できない『見えない敵』を打ち倒していた。


 生前は名の知れた武人だったのだろう。


 彼らは森の奥にある屋敷の庭まで訪れると、まず歴史を感じさせる風景に触れる。


 ウゴウは言う。


「さらに強くなったな。勇ましく戦う姿を見たら、お前の父もさぞかし喜んでおろう」


「まだまだだ。まだ、これでは。父には」


「あれが、容易い相手ではなかったのは、いまのお前を見ればわかる」


「それで、ウゴウ。私に見せておきたいものとはなんだ? ここでいいのだろ?」


「糸七、旅を続ける気はあるか?」


「旅か……。私はこの地ノボリで、父と同じように、生きていこうと思う」


「人を斬れぬのにか?」


 糸七は黙る。


「お前に話そう。話す時が来たようだ」


 彼は屋敷へと歩んでいく。


「お前の父も、母も、お前と同じだよ。糸七」


「父と、母と、同じ?」


「たとえ、どれだけ周りから、心無いことを言われようが、お前の父も母も、お前を否定するようなことは一言も言っておらんだろ」


「……そうだな。父は何も言わなかった。母は」


 構いません。喜秀。自分を信じて、前を向いて、進みなさい。振り回されてはなりません。失敗を恐れず、失敗から学びなさい。あなたの夢はあなただけのもの。誰も、あなたの志を否定することはできません。


「喜貞は私に、『仮にだ。人を斬らないというなら、それのどこに問題がある』と笑いながら言っていた。あと、こんなことも言っていた。『好き勝手周りは言うが、あいつはけっして、人を斬れないのではない。得意げに見抜いたつもりかもしれんが、人を斬らないだ。いずれ、奥底にある信念を変える時もくるだろう』とな」


 その日が来た時は。寄り添えるか。


「父が」


「お前の父と母は、子の背中を押してあげられる親でいたいと、そう望んでいた。子供の自信を失わせてしまう存在は、親自身ではあってはならぬと。どのような時も、勇気を与えられる親でいたいと。どのような時も、子の傍にいると。糸七、同じだ。お前は両親が辛い思いをすると、お前も辛かったかもしれない。お前が、試練を乗り越え、認められたと知った時の、あいつの顔をみせてやりたいもんだ」


 お前の未来は明るい。


 糸七は溢れる思いから言葉が出ない。


「糸七。喜貞の言葉と同時に教えておこう。信念を変えることは、時に人生を大きく変える一歩だ。新しい視点や考え方を取り入れることで、自分自身や周囲の状況に対する理解が深まり、成長の機会となる。この先、あいつの言葉通りであるなら、信念を柔軟に見直すことで、お前にとってきっとそれは新たな可能性が広がると、私は願う」


「ウゴウ。私は、白鈴たちについていこうと思う」


「ああ。私も、そう言おうとしていたところだ。いや、自ら言うだろうと考えていた。知らぬうちに、短い間に、彼らがお前を変えてくれたように。この先も、お前にとって理想へと繋がることだろう」


「戦いを終わらせ、必ず、ノボリに帰ってくる」


「行ってこい。黒槍。石隈糸七喜秀。藤十郎には私から伝えておく」


 糸七はノボリの街に戻ったあと、白鈴たちには出発をすこし待ってもらい、心穏やかに実家に顔を出した。




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