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第11章「戦士たちの賛歌」_5

 そこで彼女の行動をヒグルが止める。首を振った。構うべきではないと考えたようだ。


「行こう」と糸七が空気を読み促すと、わざとらしい柄木田の声が聞こえてくる。


「おや、これから、森に行くのか? では、言っておこう。気を付けて進むんだ。ノボリで噂されているぞ。夜な夜な、大量の鬼たちが、喧しく暴れているようだからな」


 倒すつもりなのだろ? やってみろ。そんなふうな言いぐさだった。


『ノボリ西の森は安全ではない。』親切心からではないだろう。そんな警告されなくとも、白鈴たちはあらかじめ知っていたが。まさか、なにかしら関わっていたりするのか?


 わかり切っていた。べつにノボリ西の森に限る話でもない。道中彼らは鬼に襲われる。


 手こずる敵はいまの段階ではいなかった。数はいるとしても、それでも三人だけでどうにかなる相手ばかりだ。『見えない敵』以外は。


 ひと段落がついたところでウゴウが現状を語る。


「多いな。ここは三年前ぐらいに強力な鬼が現れるようになってから、立ち入ることを許されていない。今となっては大人だろうと危ない場所だ。身を引き締めろ」


「強力な鬼とは、風門共では倒せないのか?」


「いや、その鬼は倒しはした」ウゴウは答えた。「だが」


「きりがないとわかった」糸七が言う。


「きりがない。要するに、鬼たちの巣でもできあがっているのか」


「ひとまず放置でも問題ないだろうと判断したわけだ」


 ウゴウはそう言って、再び歩み出す。彼にはここまで怯えるようすはない。戦いに参加する気はないらしく刀は抜かず、信頼しているのだろう、糸七に任せている。


 ヒグルは彼らのなかで特に用心している。


「こういうのもなんだけど。不気味な場所、だね」


「私も、ここには十四の頃に来たことがある」糸七は周囲の木々に目をやった。「その時はこのような場所ではなかった。鬼の影響だろう」


「カシワみたい」


「修業する場とは聞いた。具体的にはどんな場所なんだ」


「まだまともに刀を振るえない者たちが修業する。ここからもっと奥に古い屋敷があるんだ。そこで認められたものが、今ノボリで、風門の下で、刀を持っていると言っていい」


「そうか。なるほどな」


 しかし、とウゴウは耳を傾ける。「なんだ、思いのほか、活発な気もするな」


「そうなのか?」糸七にはその感覚はわからなかった。


「町の人が、夜に足音がするとか、声がするとか言ってたね」


 火門を目撃したという女が口にしていた。『ノボリの鬼を退治しに来たのか?』


 柄木田はいた。知らないと言っていたが、この森に火門がいるというのだろうか。白鈴は思う。


「ノボリの町から遠くはないから、私たちで少しでも減らせるなら、そのほうがいいよね」


 集まった鬼たちが町を襲わないとは限らない。これまでにそれは無かったとしても。


 城下町の周辺部で暮らしていたヒグルらしい意見である。


「そうだな」と白鈴は答えるだけだった。


 ウゴウは頷いて、歩みを止める。


「ところで、糸七、覚えているか」


 糸七は警戒を解く。


「お前は八年前にここへとやってきて、そこで立派に試練を乗り越え、認められた。その時にすでに、突如と現れた、試練とは関係ない鬼と戦っていたな」


「周囲に大人がいなかった。あのときはもう戦うしかなかった」


「私はあの出来事があったからこそ、今のお前がいると思っている。無論、褒められた出来事ではないがな。修業場に鬼がいるべきではない」


「先生の言葉があったからですよ? 恐れず、鬼と戦えた」


 ウゴウは感謝された者がするような表情ではなく(言葉や思いは受け取っているだろう)、難しい顔をする。


「私は時々、間違ったことを教えていたのではないかと考えることがある」


「それは」


「お前に限った話ではない。これまでの教え子を含めてな」


 ウゴウはふたたび歩き出した。彼は「屋敷まで、もうすぐだ」と告げる。


 無理に会話を終わらせ、それからの彼は口を開かなかった。


 糸七も、疑問はあっても、尋ねようとはしない。


 森で鬼と戦うあいだ、白鈴は静けさのなかに複数の足音を感じていた。町の人が言っていたものだろう。


 そして、いくつかの声がする。そんな気がする。鳥の声ではない。確かだと言えるものではない。ただ、生き物の声ではなかった。


 森を進んでいくと、騒がしさの正体がわかってくる。


 男がいる。「人」のように見える。状況を整理していると、武装した幽鬼が次々と現れ、彼らを襲っていった。


 人型だからという単純な理由ではないだろう。彼らの前に現れた武装した幽鬼たちは、一筋縄ではいかない強さだった。ノボリ西でこれまでに攻撃してきた鬼たちとは比べようがない。たとえば動物の姿をした鬼とは異なり、野性的ではない激しさのなかに過去に人であったと思われる的確さを感じられる。


 糸七と同じで槍を使う。


「この人たちって、この森で死んだ人?」


「違うな」白鈴はヒグルの考えを迷わず否定した。


「えっ、だとしたら。それじゃあ」


「遠くどこからか、やってきた者たちだ」ウゴウが落ち着いて説明する。


「ヒグル。村瀬ウゴウを頼めるか」


「うん」


「この戦い――。私も参加させてもらおう」

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