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第11章「戦士たちの賛歌」_3

「あいつは、頼りになるだろ」ウゴウは話を続ける。


「そうだな。ここまで何度も助けられている」


 彼がいることで、シュリを救出し大湊城を脱出できたと言ってもいい。大型の鬼と気後れせず戦えるほどに非常に心強く、故に町から離れた山道や洞窟でも、突然闇から鬼が現れようと安心できる。カシワでの戦いでも立派な戦果であった。


 旅の間、誰にも邪魔にはならない場所で、黙々と鍛錬に励む姿があった。「希少」といえよう、鬼と対等に争える彼の技は、日々の蓄積によるものだろう。


 ウゴウは頷く。「いま大湊を旅するには、打ってつけだ。糸七は」


 白鈴は問う。「両親とは、仲が良くないのか?」


「糸七の父親と母親か? なぜにそう思う?」


「いや、少しばかり気になっただけだ」


 推察であり、そこまで踏み込む必要もない。気になった。それだけだった。


「これ以上、迷惑をかけられない?」シュリがゆっくり繰り返す。


「さっき言ってたね」ヒグルも聞いていた。


「糸七が、『これ以上、迷惑をかけられない』と言っていたのか? そうか」


 ウゴウには心当たりがあるようだった。


 反応から、それは深いものかもしれない。


「糸七は、風門のなかで、ここノボリで、『人を斬れない侍』として異端とされている」


 人を斬れない侍として異端。白鈴は聞いて、体の奥底から届いた何かが軋む音を耳障りと感じ、表情からはわずかに暗い感情が出た。


「『人を斬ることを躊躇う侍』。武器の扱い、その腕は相当なはずなのに、稽古から鬼退治からも認められているはずなのだが、あいつは真剣を使った戦いでは極端に弱い。めっぽう弱い。そこを問題視されている」


 ウゴウは口をぴったり閉じると、最後に「糸七ほど、『心気』を使いこなしている者は多くないのだがな」と小声で言う。


 白鈴は言った。「だからか。周りから、父親の姿とでも比べられているのか」


「あっておる。というべきか?」


「うん?」


「七年前の戦から今は亡き糸七の父槍仕『石隈いしくま喜貞よしさだ』は、生前戦場だけでなく、武術の指南役としても活躍していた。しかし、己の不甲斐なさとか周囲の目というよりも、糸七の場合、親が辛い思いをすると、自分のことのように辛いのだろう」


 彼の『鬼』と戦えるほどの技量には、日々の鍛錬だけではなく、裏付けとなるものがあるようだ。


 ウゴウは少しのあいだ思い耽ると、糸七と彼の両親に関しての話をそこでやめた。


「火門を止めるつもりなのだろ? では、知っておいてもいいだろう、屋水姫についても話しておくか」


「頼む」


 


「この国ではほとんどの者が、屋水姫とは『神様』という認識をしていると思う。それについて、お前たちはどう思う?」


「神様だよ。屋水にいる、神様」


「でも伝説では、『小さな女の子』、なんだよね? 人だった」


「皆は、その女を今では『神様』、『屋水姫』と呼ぶが、実際のところは、その存在をよくわかってはおらん。残っている伝説では、その女には『屋水姫』、『水琴窟すいきんくつ』という呼び名しか残っていない」


「水琴窟?」


「別の国での呼び方だよね」


「屋水姫は昔話より以前から、もっとその昔から、大湊にいる神様、という話もある。そうだ、『物の怪の類』、だとかな」


「どういうこと?」


「伝説に残っているその女は、『本当の名』も『出自』もわかっていない。屋水姫とは、『屋水姫という女がいた』、という話だ。裕福な生まれだろうと予測はあるが、誰もが知っているように、当時の権力者からの縁談をすべて断っており、結婚はしていない。美しく、そして刀を振るえた女。鬼をも魅了した女。それ以上の情報はない」


 ウゴウはふと視線を外した。


「刀を振っていた女とは、当時その時代ではありえないのではないかという見方がある。一部で、作り話だという者がいるようにな。習うもおろか、まず歳がそもそも十二だった。鬼を斬れるほど刀を巧みに振り回せるような体ではないはずだろ?」


「白鈴ぐらいの女の子が、刀を振り回してたんだよね。大人にも負けないくらいに」


「ばったばったと倒してた」


「まあそこは疑わなくていい。鬼を斬っていたことは事実だ。そこは、その腕を見込まれて、今も揺らがない証拠が残っている。多少は盛っているかもしれんが」


「屋水姫は、見た目が子供というだけで、『人ではなかった』ということか」


「どうかな。もしかしたら、その歳で、心気を使いこなしていたのかもしれん。たとえば枯れ谷の巫女ハユキのように」


「『心気』は、人ならざるものを倒す為の技であり、極致だ。程度によるが、有り得るな」


「屋水姫は、今でいう一番月見櫓のある場所で、『化け物』と戦ったとされておる」


「そうなんだ。それは知らなかった」ヒグルは三人で訪れた日を思い出しのか、白鈴のほうを見た。


「そのとき、屋水姫は負けた。これまで送り込まれた鬼に敗北することはなかったのに」


「負けた? 返り討ちにした、ではなくて?」


 シュリは呟く。「……負けた原因は」


「敗因は、毒を盛られたこと。鬼の毒は効かなかったというのに、人の毒に屋水姫はやられた。よって『化け物』は欲しくてたまらなかった女をようやく手に入れた。しかし同時に、屋水姫は死に、化け物は屋水姫を手に入れたが、屋水姫の全ては手にできなかった。化け物は屋水姫を諦められず悪さを続けたため、結果、他の神の怒りも買ってしまい、ツキビトによって退治され、大湊の大地に封印されてしまう」


「封印。屋水姫とツキビトが、共に協力して、やったわけではなかったんだ」


「うん。本当は。皆が知っているのとは違う」


「化身は自由を奪われても尚、他の鬼を使い、屋水姫を探している。これも大湊で鬼が減らない理由とも言われておる」


 その後も、ウゴウの話は続いた。


 枯れ谷の白蛇は、屋水姫が生きていた頃から枯れ谷を住処としているようだ。

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