第11章「戦士たちの賛歌」_2
立ち話を終えて、彼らは移動を開始する。目黒はノボリに個人的な用事があるようで、二言三言残して別れた。買い物とかではなく、彼には調べたいことがあるようだ。
糸七は目指していた家屋が近いので、残りの三人を置いて一人で先に向かう。『あわせたい人』とは、「ウゴウ」という名らしい。ノボリへと帰ってきてそれは唐突な訪問になるので、彼は確認を取る。
ここまで来れば、迷うことはない。そう言われたが。
すると、白鈴は道の真ん中で傘をさす女を見つける。横にはもう一人、若い女がいた。
「タマキ?」
シュリはそう言うと、傘をさす彼女の元へと近付いていく。
傘の陰に隠れていたが、たしかに見間違いではなかった。
「シュリではないか」タマキは驚いていた。「屋水以来か?」
「そうだね」
「鬼を追いかけると言って心配していたが、見る限り、何事もないようで安心したぞ。白鈴も元気そうだな」
「ああ」
「そこの者は、初めてか?」
「名前はヒグル。友達」シュリが答えた。
「そうか。タマキだ。よろしくだ。ヒグル」
「うん。よろしく」
「今日は緑川さんと一緒なんだ」
「緑川といいます」横にいた女は寡黙で控えめである。
「ミドリも、屋水でもいたんだぞ。あの時はいなかったが」
「屋水と来て。ノボリには……?」
「うん? ああ、ノボリにはすこしな。ほんとうはカシワに行くつもりだったのだ。しかし。シュリも聞いたか? カシワは危ないらしいぞ」
「鬼?」
「それ以外にあるか? ノボリで護衛を増やして、日を改めて行くことになった」
豊かさを失うカシワ。あのような場所にどんな用事があるというのだろう。
「話に聞いていたとおりなんだろうな。はゆま村まで馬でかけた時は、本当に運が良かったのかもしれん」
偶然の再会を後に、白鈴は探しに戻ってきた糸七の案内により、村瀬ウゴウの屋敷へと足を運ぶ。ウゴウは在宅していた。彼とは、糸七が子供の頃からの長い付き合いらしい。関係を表せば教師だったとか。
その男は、この国、大湊の国で「現在、幽鬼が増えている理由」を知っている。
白鈴は屋敷内でさっそく老齢ともいえよう男から話を聞いた。
「結論から話そう。大湊は亡びへと向かっておる。まさに、死者の国だ。どれだけ減らそうが、鬼は減らない」
「いくらやつらを倒しても減らない。それはなぜだ?」
「カシワから来たのだろ?」
カシワがいい事例だろう。波はあれど、明るいうちはいなかった――真っ暗な夜に鬼の群れがどこからかやってきて、幾度もあの町を襲っている。
「では、鬼たちはどこからやってくるか。お前たちも、予想はつくだろう。七年前の大国との戦のつけが回ってきておる。人も。人だけではない。生き物が、死に過ぎたんだ」
ウゴウ、彼の口調は重々しいほどのものではなかった。単調ではない。認識を合わせようとしている。
「鬼は、どうやって生まれていると思う」
「幽鬼は、生き物たちの『精神』から生まれている。から?」ヒグルは静かに言う。
「そのとおり。おまえは……。そう、大昔の、海を渡った遠い国の魔女が生み出した教えらしいが、実はこの国にも、似たようなものであればある。もともと、昔から、大湊は鬼の多い国だった。そこは、土地特有ものだろう。十八女家や金雲家が残した文献にそう残っておる」
彼は少し間を置いた。
「妖精は魂から生まれ、鬼は精神から生まれる。悪魔は感情から生まれる。人というのは、肉体と精神、魂からできているという考え方だ。精神とは心の核であり、魂は心に働きかけるもの。三つのいずれかを失えば、もうそれは別の人。欠けることなく、肉体、精神、魂があることで、我々は心が生まれ、感情が生まれる。鬼は負の塊だ。これが、鬼をいくら倒そうが、大湊で鬼が減らない仕組みとなっておる」
「鬼を操れることはできるのか?」白鈴は方法を知りたかった。
「火門はやっているようだな。知らん。知ってたら、わしなら今頃やつらを国から追い出している。まことに人には過ぎた力だ。制御しているつもりかもしれんが、ただ欺かれ、己を見失っておる。大地が侵食されていることにも気付いておらん」
「白鈴たちに、あの『屋水姫の伝説』についても、話してあげてもらえないか? 白鈴たちは火門の行いを止めようとしている」
「止める、か。そのようなこと、できようか」ウゴウは呟くように言った。
「役に立つかもしれない」
「糸七、聞いているが、風門のもとへ行かなくていいのか?」
「行ってくる」
糸七は言葉通りすぐに屋敷を出て行った。




