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第11章「戦士たちの賛歌」_1

 ・11



 火門の野望を阻止するため、彼らは旅を続け、次の町へと足を運んだ。彼らの足元に広がるのは、「やまかぜ風門ふもん藤十郎とうじゅうろう」が治める土地ノボリである。時間としては昼頃、町は人々の声、にぎやかな市場の音で溢れていた。


「秩序の乱れを感じます。世界は均衡を取るべきでは」


「なんの話かと思ったら、食い物のことか」


 カシワの町で別れた男、諸国を漫遊する沖加五六は今もあの町にいるのだろうか。雲残、アマダ、奇妙な本「ボンボン」、カシワの住人――。あれからどれだけ日は経てど、白鈴たちはカシワでの『あの夜の戦い』を忘れられそうにはなかった。


 白ぼっくりがかつて大湊で現れた時というのは、火門の弟次男である活真かつまさが戦い、最終的に相打ちとなっている。


 新たな町へと訪れて、興奮と緊張が入り混じった感情に包まれる。忍びヌエ幸畑が言うには、火門は城を離れてノボリ方面へと向かった。


 計らずも、新たな手掛かりを手に入れる。ノボリの住人と思える女が、火門を見たと口にしていた。「ノボリに火門様がいた。でも、見間違いよね。あのかたが、一人で、こんなところ歩いているわけないもの」


 糸七はこの地へと訪れた目的を果たそうとする。


「ひとまず、風門に会いに行くのが先決だと思う」


 目黒は懸念があるようだ。「風門に会うと言っても、いうなら大湊の侍で、部下みたいなもんだろ。火門と暗躍してんじゃねえのか」


「それはありえない」


「どうして、ありえない?」


「風門の人柄を知っている。あの方は、この地に住む、住民の多くと同じように、鬼に好意的ではない。あの方は根っからの武士だ。『鬼は減らない』と口にしてはいるが、今も鬼を減らそうとしている。共に戦おうとな」


「私も、話した方がいいと思う」シュリは同意する。


「今、鬼の心を持った火門の暴走を止められるのは、あの方ぐらいしかいない」


 しかし、こうして「話をする」といっても、そう簡単なものではないだろう。数人を除いて、白鈴たちは国から追われている立場である。安易な行動を取るべきではない。信じてもらえるかも怪しいものだ。


 糸七は『一人で』、風門のもとへと行くつもりのようだ。


 いなびは先を急ぐ彼の背中を眺めた。「『別れの時』が、近いね」と、彼女ははっきりと言う。


 白鈴とヒグルは同時に、そんな彼女へと目をやった。


「だって、糸七って、大湊の侍だよね? 風門『の』。ずっと思ってたけど、私たちと一緒にいることのほうが不思議じゃない?」


「いなびは、どうするの?」ヒグルは問う。「ノボリに到着したけど」


「ああ。わたしは……。どうしよっかな?」


 それから、案内をする糸七の後ろを追いかけていると、彼がふとその歩みを止める。彼は目的地などではなく、首を傾け、じっと遠くのほうを見詰めた。


 白鈴は横顔から推し量る。「両親か? 妻か、思い人か? 顔ぐらい見せてきたらどうだ」


 彼は俯くと、何も言わず考えていた。


「いつ死ぬかわからない。真面目な話だ」


 糸七は低い声で答える。「これ以上は迷惑をかけられない」


 彼は歩み出す。おかしなことに、目的地とは別の方角へと向かっていく。見詰めていた方角でもない。


「あわせたい人がいる」


 唐突な発言だ。『あわせたい人』。それは、ともかく嵐風門ではなさそうだ。


 


 


 いなびと別れた後(彼女は買い物がしたいようだ)、白鈴は橋の上で見知った女と出会う。その女が、このノボリにいる理由はわからない。一人で歩いている姿はとても目立っており、重さを窺えるその背中の薙刀はとくに街なかの彼女と同じく隠すことのできない強めの存在感がある。


 枯れ谷の巫女ハユキだ。彼女は気付いたうえで警戒する様子もなく近付いてきた。


「紙崎以来ですね。聞きましたよ。無事にリュウ様を守られたようで」


 六円館付近、洞窟入口あたりで争った時の彼女とは端的に違う。声に振る舞い、その気がないのか、周囲への配慮か。「戦おう」という感じではなかった。


「なんとかな」白鈴はそれだけを言った。


「ハユキ。教えてくれて、ありがとね」


 シュリとハユキはお互いに面識はあったのだろう。大湊の国、巫女という関係から、シュリが屋水の巫女リュウの妹であると知っていても変ではない。


「いいえ。私は、なにも」


 彼女には、屋水襲撃について、初めから教えるつもりはあったのではないだろうか?


「それよりも。困ったことがありまして、ですね」ハユキは白鈴を見る。「どうですか? 白蛇と、会ってみようという気にはなりませんか?」


「断る」


「おやおや。それは。では、これはもう。勝負しかないですね」


「なぜそうなる?」


「私は、あなたの力を認めているからです」


 嬉しそうな表情は、どこにでもいる若い女と変わらない。美味しそうに団子でも食べる女だ。ブリの天ぷらでもいいだろう。声もそうだ。言葉だけが物騒な雰囲気だ。


 本気なのか。揶揄っているとは思えない。


 圧から逃れようとしていると。


「ハユキ」とシュリは呼ぶ。「あのね、儀式のことで、いくつか聞きたいことがあって」


「すみません。それについて。のんびり話してはいますが、ここ最近の出来事で、なにかと予定が崩れてしまって。急いでいるのです」


「そう。そっか。わかった。じゃあまた今度」


「申し訳ありません」


 ハユキは軽く頭を下げると、その場を離れていく。そして、少し距離を置いたところで振り向いて「いずれ、また、戦える日を楽しみにしていますよ」と大きな声で言った。


 彼女は去っていく。


「なんつうか、侍に負けず劣らずの気迫みたいなのを感じるな」


 目黒には少しの間で感じ取れるものがあったようだ。


「おい、いまの。お前、枯れ谷の巫女と戦ったのか。どんな感じだった」


「できれば、戦いたくない相手だ」


 シュリも、ヒグルも、共に相手しただけあって同じ意見だった。シュリに関しては、ハユキを高く評価する。歴代の枯れ谷の巫女のなかでも引けを取らず武勇に優れた人物だと。

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