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第10章「鬼の国 かしわの木」_6_END

「『行かなくていいのか?』」


 カシワの町で、奇妙な本はそう尋ねた。雲残が用意したガラス製の瓶には白鈴がいる。


「『にしても、赤ぼっくりがいるのか。雲行きが怪しくなってきたぞ』」


 町には、出陣はせず残った戦力がいる。彼らは前線からの報告に、様々な感情を抱く。


「『おい。そこの者。戦況はどうなってる』」


 奇妙な本は見張りの男たちに定期的に問いかけていた。


 片方の男は、特にいても立ってもいられないように見えた。


「苦戦すると思ってたが。思いのほか優勢のようだぞ」


「『おお、優勢か。これは。くうあやつら。どうなることやらと思ってたが。もしかすると戦力が増えたことが、一番の要因かもしれないな』」


「そうだな。だが――芳しくはないかもしれない」


「『なに?』」


「白ぼっくりが確認された」


「『白ぼっくりだと? 赤だけではなかったのか?』」


「負傷した者の中に、やつの姿を見た者がいるようだ。見間違いでいてほしい。信じたくはない。しかし」


「『これは、下手すると、全滅の可能性ないか? 一時撤退はできないのか。それが本当だとすると、死にに行くようなもんだぞ』」


「撤退してどうする? それで俺たちは、日の出まで戦えるのか?」


 見張りは仕事に戻っていく。




「『ナント。行くのか』」




 瓶を破壊した白鈴は頷くと、早速行動する。


「バツならあとでいくらでも受ける。通してくれ」


「ならぬ」


 彼らは恐れている。


「『我からも頼もう。この女は、我には、こんなところにいてはいけない人のように見える』」


「すまない」


「『まあ、止められるわけないか』」


 たとえ槍で刺されようと、彼女の水の体には通用しない。


「必要なんだろ? ほら、持っていけ」


 そのあと、シノハラからかげかげを受け取った彼女は前線に赴いた。






 歪な森で、白ぼっくりはいた。長い手足、骨と皮ばかりに痩せこけた大きな体、担ぐ袋の中身は鬼がいると言われている。


 白鈴が発見した頃には、既に味方が何人かやられていた。食われている。


 そのなかで彼女は加五六の刀を見つけると、躊躇わず戦いを挑む。


 彼らの領域で壮絶な戦いが繰り広げられた。


 埋火蝶。彼女は己の技で確実に仕留めることに成功する。彼女が最後まで立っていた。




 言葉を吐き、力尽きてもげたげたと笑う白ぼっくり。白鈴は眺めていると、夜鬼ホタルに奇襲される。体幹と手足、自由を奪われた。首を落とされそうになっていると。


「『我が魂、我が肉体は不滅なり』」


「遅れを取ってはなりませぬぞ」


 奇妙な本が攻撃を防いだ。雲残がカシワの町から持ってきたようだ。






 加五六は生きていた。朝を迎えるにはまだ早いが、この日の戦が終わり、白鈴はカシワの町でそれを知る。


 鬼の力によって生み出された「森」も雪消えのように、失われた状態に戻った。


 勝ちを我が物とした彼らは戦の余韻がまだ体に残る中、カシワの中心に集まり、勝利の宴を始める。自分たちの努力と信頼を称え合う。ささやかな宴の喧騒が広がる。


「この夜も乗り越えた。これからもだ。俺たちは」一人の武士が仲間に向かって笑顔で言うと、周りの者たちは心からの笑顔で応えた。彼らの中には、この瞬間を待ち望んでいた者もいれば、一時凌ぎの戦いを終えて安堵していた者もいた。


 戦の傷跡は彼らの体に深く刻まれていた。だがその痛みも、いまは勝利の喜びに包まれている。彼らはお互いを見つめ、互いの存在を確認し、一緒に笑った。「酒だ」その笑顔は、戦いの疲れを癒し、心をほぐし、新たな力を与えた。


「なんだ。もう飲まないのか?」


 目黒が酒を断った。彼はその表情からも十分満足しているように見える。


「酒はあまり飲まない。飲み過ぎちまうと、相手を見つけては愛の告白をしてしまうんでな」


「告白か。そりゃあ大変だ。ああ。そのほうがいい」


「あの時も、酔ってたのか?」白鈴はそっと問う。


「いいや。酔ってるように見えたか?」


 彼女は間を置くと、(強引に、再度同じ言葉を言われる気もして)別のほうへと視線を移動させる。


「お前、やればできるんじゃねえか。見直したぞ」


 加五六は酒を片手に糸七へ語りかけている。彼のなかで糸七の評価が一変したようだ。初めて顔を会わせた時、鬼を庇う侍など大変おかしなものだっただろう。垣間見えた躊躇いも。


 シノハラの呼びかけから、彼らは戦いで倒れた仲間たちの冥福を祈る。


 しばらくして白鈴は気配を感じて、その場を去ると、雲残とシュリに声を掛けられ行動を共にする。


 彼も不気味な気配に酒の手が止まった。


 人目のつかない場所には、女の子が二人いた。宴には交ざらず遊んでいる。


「来た来た。やっと来た」


 一人はそう言うと、雲残のほうに一瞥を投げる。


 白鈴が刀を取り出すと、少女は続ける。気にする素振りもない。


「お前、知りたいことがあるんだろ。それ、白蛇様なら教えてくれるよ」


 隣にいた女の子は遊びをやめた。「教えてくれるかな」と彼女は言う。


「教えてくれるさ」


「だって、半端者。白蛇様はお会いにならないよ」


「会ってくれるさ」


「どうかなあ。駄目だと思うけどな」


 二人は楽しそうに揃って声をたてて、姿を消す。


 白鈴は刀を握りながら、正体について考えた。


 雲残は言う。「鬼のようにも思えたが。しかし、『白蛇様』か。そういえば聞いた話では、枯れ谷に住まう蛇は、屋水姫を探しておられるとか。もしかすると、枯れ谷の蛇なら、この大湊の国で鬼が増える原因や突破口を知っているのかもしれませんな」


 宴席に戻ると、白鈴はボンボンにこのようなことを言われる。


「これは仮な。まあなんだ。どうしてもって言うなら。まず金だろ。あとお」


 奇妙な本はヒグルのほうを見て、態度を変える。


「我も酒を所望する。ああ、しみるう」


 すると、「風門に向かわないか?」と糸七が次の目的地を提示し意見を乞う。




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