第10章「鬼の国 かしわの木」_4
長い洞窟をついに抜けて、彼らは目前に広がる美しい風景に驚嘆の声を上げる。そうして鬼の巣でもあった山を離れると、彼らが次に立ち寄った場所は「カシワ」と呼ばれる町である。
白鈴が知っている「カシワ」とは、草木が繁茂し、非常に穏やかで、安らげる所だ。
しかしながら、彼女の予想とは異なる状況だった。
「今、カシワはなかなか人が入れる状況ではない」
糸七は説明した。彼が言うには、ここ何年か、緑は減り、鬼との戦場になっているようだ。鬼が群れを成し、カシワを襲っている。カシワに住む人たちは底知れぬ相手に屈服せず、脅威に抗い続けている。
門の前まで来ると、監視していた者が呼び止めて一問一答に目を光らせる。
明らかに警戒していた。(人だろうが)突然の来客は望まれていないようだ。なぜなら、彼らのその日の予定から準備を容易に変えてしまう。
「カシワ」の町には入れないかと思われた。すると、彼らの背後から集団がやってくる。
「今、カシワは、要塞になっとる。入るのには、骨が折れるぞ」ふくよかな男はそう切り出した。五十歳前後、得物は刀か、特異な雰囲気を持つ男だ。
少なくとも彼の後ろにいる男たちは、彼に会話を任している。
「みたいだな」白鈴はちらりと見て言った。
目黒は腕を組む。「ここは、いつもこんな感じか?」
「お前たち、どこからきた」
「紙崎から来た」
「紙崎か。ほお、紙崎。おお、おお、なるほど」
男は門前まで来ると、見上げた。
「おーい。この者たちも入れてやれ。武器を所持してはいるが、どう見ても、野盗には見えん。ここも時期に暗くなる」
「よそ者は入れるなと代表から言われている」監視は譲るつもりはない。
「ワシもよそ者だ。なんだったらここにいる、連れのアマダだってよそ者だぞ? 彼らをこのまま追い出すつもりか。ワシにいい考えがある。ちょうど人材不足で悩んでたところであろ?」
「何かあったらイケない。何かあったらでは遅い」
「何かあったらその時はワシが責任取ろう。シノハラにはワシから伝えておく。それじゃあ駄目か?」
白鈴たちは町への立ち寄りに許可が降りる。
そして、カシワの代表シノハラという男と対面することになる。
シノハラにはすでに情報は伝わっていた。監視が目視した時点で、「カシワに近付いてくる者がいる」と報告をしていた。
シノハラからも、門を開けるよう指示があったようだ。くわえて、連れてくるようにと指示があった。
「単刀直入に聞く。力を貸すか否か」
糸七から聞いた通りのようだ。しかも、この夜、鬼の群れがやってくる。その規模は大きいと予想される。
「お前たちがカシワに訪れた時点で選択できるものは限られている。期限は差し迫っている。逃げることはできない。今日死ぬか、明日を生きるか。俺たちと、カシワと一緒に死にたくなければ、手を貸せ」
拒否するわけにはいかない。彼らは承諾した。
「では、カシワはお前たちを歓迎する。特に男手が欲しかったところだ。飯に風呂、寝床、他に必要なものがあれば言うといい。用意しよう」
風門(ノボリ)からの支援はあっても、それは完璧ではない。
「おっ風呂。おっ風呂。あったかい、おっ風呂」
「幸せそうだな」
いなびの歌に白鈴は呟いた。彼らは相談後、手分けして行動している。彼女の傍にはヒグルもいる。
カシワの町に「喋る本」があるという。白鈴はそれを確かめにノボリから来たという調達班のいる家屋に向かっていた。その奇妙な本は、鬼の群れがどこから来て、なぜ群れがカシワを襲うのか原因について知っているようだ。
他の三人はというと、『雲残』の手伝いをする。戦のため、念入りに。
それとどうやら「よそ者」は雲残、アマダを含めても他にいる。諸国を漫遊し修行する武士、若い男のようだ。これから共に戦うことになる。会いに行けと言われた。名は沖加五六。
調達班は喋る本を見せてくれた。
話では、誰の物とかではなく、喋る本自らがカシワに連れて行ってくれと申し出てきたようで。元は人間。迷惑しているとか、なんとか。
「『キスさせろ』」
「何言ってるんだ?」
手に取ると奇妙な本は確かに喋った。しかし白鈴にはわからない言語があった。
「なにこのエロ本。燃やしましょう」
「ヒグル?」
「『なんだなんだ。やるのか? 我を燃やす気か? やってみろ。我は燃えぬぞ。落ち着くんだ小娘』」
奇妙な本は述べたとおり、灰になることはなかった。余計な傷もつかない。
「『ひどい目にあった。異国ではそういった男と女の物語があるというのに』」
「ありません」
「『吐息をもらすほどのとろけるような甘美、情緒のわからぬおなごよ』」
ヒグルの対応からして奇妙な本を信用するべきではない。鬼の群れはどこから来るのか? いくらでも来る。なぜカシワを襲う? 奴らはかしわの木を狙う。群れの勢いが増しているのは? 傾きだした。星のない夜でもないのだから、別の要因がありそうだ。
奇妙な本に、名前はない。
「ボンボン」といなびは名付けた。




