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カラダカシ  作者: 山芋わんこ
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1話~カラダカシのお仕事~

山芋わんこです。幽霊に体を貸す仕事をする者達の物語になります。素人の初投稿ですが頑張りますので見守って頂けると幸いです。よろしくお願いいたします。

カラダカシとは幽霊達に体を貸すのを生業(なりわい)とする者達である。




名古屋の繁華街から少し離れたビルの前に1人の女性が立っていた。3日間だけの短期のバイトだが給料が魅力的だった。深呼吸をし、ビルのエレベーターに乗り込んだ。


4階に降りて扉の前に立ってノックをした。中から「どうぞ」と声が聞こえた。中に入ると1人の男性が座っていて、その後ろに男性と女性が立っていた。


「きょ、今日から3日間お世話になる市倉実来(いちくら みく)23歳です!よ、よろしくお願いしますっ」勢いよくお辞儀をした。


座ったままの男性がにっこりと微笑んで「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。僕は香月零斗(こうづき れいと)18歳です」18歳!?若っ!!と実来は驚いた。「そして後ろにいるのが……」そう言って零斗は後ろの2人に自己紹介するよう促した。


藤岳江河(ふじたけ こうが)、年齢は25歳です。よろしくお願いします」黒スーツに眼鏡でまるで執事のような出で立ちで何故か黒い手袋を嵌めていた。


「俺…………いや私?は和乃栗奈(わの くりな)?つーか何で年齢も言わなきゃいけねーんだよ?」ポニーテールの美少女だが何故か自己紹介が疑問系だった。


「彼女は21歳、口調は男っぽいけど体はちゃんと女性ですからね」 「だから俺は男だっつってんだろうが零斗!!」 「はい、はい」実来が2人のやり取りをぽかーんと見ていると目の前のテーブルにコーヒーとケーキが差し出された。


「あの2人はいつもの事なのでお気になさらずに」

藤岳が冷めない内にどうぞと実来に言って零斗と栗奈の分も用意した。


「じゃあ食べ終わって落ち着いたところでさっそくなんですけど…………」


きた……………。実来は忘れていた緊張が一気に襲ってきた。


「カラダカシの意味をちゃんと分かった上で来られてますよね?」 「………………はい」実来は覚悟を決めた。


上着を脱ぎ、ボタンを1個、1個外そうとした時「ちょっ!?何脱いでんの!!?」さっきまで敬語だったのにタメ口で零斗が立ち上がり制止をした。


藤岳も目を見開き、栗奈はギャ~と両手で目を隠していた。


実来は3人の態度にぽかんとなって訪ねた「えっと……カラダカシという…………風俗店ですよね?」「………………違います」藤岳が答えた。


「え~~~!?幽霊に体を貸すレンタル業~!?」実来は今日一番の大声をあげた。零斗は藤岳に「ちょっと江河!!求人にちゃんと書いてあるんだよね?」 「求人に幽霊なんて書ける訳ないでしょう。普通に体をレンタルで貸せる人募集にしました」藤岳がしれっとネットの求人を零斗と栗奈に見せた。


「まぁ勘違いだったけどとりあえず3日間は働いてもらうって事でいいですか?」


「働かせてもらえるなら有り難いですがカラダカシって実際どんな事をするんですか?」


「簡単に言うと幽霊に体を貸してちょっとした望みを叶えてあげるのが僕らの仕事です。カラダカシはただ霊感があれば出来る訳ではなくて…………来た」


そう言った途端、急に寒気に襲われた。零斗は自分の口に指を当て、喋らないようにと指示を出した。


まるで金縛りにあったかの様に動けなかった。そこには1人の女がいつの間にか立っていた。


「いらっしゃいませ。カラダカシへようこそ。僕は香月零斗です。今日の依頼は何でしょうか?」


女はゆっくりと口を開いた。「カラダヲ……カシテ………ユメ………カナエタイ…………」


「どんな夢でしょうか?」


「ワタシノ…………アカチャン………アイタイ……」


「わかりました。では、僕の手のひらに手を重ねて下さい。そしておでこをくっ付けます」女は言われた指示に従った。すると白いモヤのようなものが出て、女は零斗に吸われるように消えた。


実来はただ、その様子を見る事しか出来なかった。藤岳や栗奈も見守っているだけだった。


女が消えた事でさっきまでの寒気は消えていた。


「もう動いても大丈夫ですよ」藤岳が実来に囁いた。


「今のは一体…………。香月さんはどうなったんですか?」


零斗はうつ向いたまま立っていた。すると零斗の瞳から涙が溢れていた。


自分の体を抱き締めるかの様に抱え込み、「ありがとう…………ございます」と呟いた。


そう言った途端、零斗は何も言わずに走って扉を開けて出ていってしまった。


「!!俺らも追いかけんぞ!!」栗奈が叫んで実来の腕を掴んで走り出した。


「どういう事なんですかっ!?和乃さんっ」


栗奈の男口調に気にする余裕もなく訪ねた。


「さっきの女が零斗の体を借りて動いてるんだよ!俺達はそれを尾行して悪さしねーか監視すんだよ」走りながらなので大声になっていた。


「それって乗っ取られたって事じゃないですか!?香月さんは大丈夫なんですか!?」


「説明は後でする!とりあえず今は零斗を追いかけんだよっ」


まさか大人になって全力ダッシュで走るなんて夢にも思わなかった。栗奈は体力があるのか走るのが早かった。すると目の前に黒い車が止まった。窓が開き「乗って下さい!!」藤岳だった。後ろの座席に乗り込み、車は発車した。


「はぁ、はぁ、来るの遅せぇよ。藤岳」「これでも急いで来たんですがね。市倉さん大丈夫ですか?すいません。訳も分からず巻き込んでしまって」


「私は大丈夫ですけど香月さんが…………」


「あの方なら大丈夫ですよ。(なん)せ、香月家は代々伝わるカラダカシですからね。市倉さんはご存知ないかもしれませんがカラダカシは自分に憑依した幽霊を自由自在に操る事が出来るんですよ。自分の中に取り込めますし、簡単に追い出す事も出来ますから心配は入りません。ただ………」(さえぎ)るように栗奈がストップと言った。


車は停止し、目の前には玄関でインターホンを鳴らし、開けて!と零斗が叫んでいた。


すると扉が開き、1人の男性が出てきた。「一体、なんなんだっ?君は」すると零斗はあなたっと言って抱き着いた。


「私よ。早奈英(さなえ)よ!今はこの男性の体を借りて子供に会いに来たの!」「…………………早奈英?まさか、そんな訳………………」男性は見るからに動揺していた。とりあえず中にと零斗(早奈英)を家の中に招き入れた。


「家の中に入っていきましたけど私達はどうするんですか?」実来が聞いた。


「零斗さんからの指示が出るまで待機です。彼の人差し指には小さな押しボタン付きのリングをしていて親指で押すだけなので周りにバレずに救助要請が出来るんです」


「でも乗っ取られているから出来ないんじゃ………」実来は疑問に思った。


「カラダカシは幽霊に憑依されてても自分の意思で体を動かせるんですよ。脳内で幽霊と会話も出来ますしね」待機中だからか藤岳は丁寧に説明してくれた。


さっきから会話に参加していない栗奈の方に視線を向けると…………ね、寝ている!?栗奈は腕を組み、足を広げて寝ていた。


「それにしてもカラダカシって凄い職業ですね。お二人も香月さんと同じ事が出来るんですか?」


「いえ…………。私は零斗さんの秘書兼お世話係です。和乃にいたっては………」ドンっと栗奈が後部座席から誰も座っていない助手席に蹴りを入れた。


「余計な事言うんじゃねぇよ。藤岳」そう言って栗奈と藤岳はミラー越しに睨みあった。険悪な雰囲気に実来はどうしようと思った時、ビービーとアラームのような音が鳴り響いた。


「零斗さんからの救助要請です!行きますよっ」


~30分前~


家の中に入った零斗(早奈英)は部屋中を走り「春斗(はると)ー」と言って探し回った。


台所にいた男性の元に戻って「春斗はどこ!?」早奈英は男性に()めよった。


「まずは説明してくれないか?早奈英だと言われても信じられないんだが………」


「僕が説明します」と言って早奈英から零斗に戻り、事の経緯を説明した。


「…………ということになります。早奈英さんは今興奮状態でお子さんを探しています。この家にはいないようですがどこにいるんですか?」


「そんな………だって早奈英は俺が確実に殺したのに………まさか幽霊になって現れるなんて…………」男は頭を抱えてブツブツと(つぶや)いた。


(私を…………殺した?)零斗を通して脳内で聞いていた早奈英は何を言っているのかさっぱり分からなかった。


「やはり、あなたが早奈英さんを殺してお子さんも殺したんですね」


「………そうだよ。まず早奈英に睡眠薬で眠らせてから殺して春斗と一緒に山の中に埋めた」


「どうして殺したんですか?」


「ちょっとした口論になったんだ。すぐに謝ったんだが無視をされる日々が続いて耐えきれなくなって………」


「そんな理由で私を殺したの?ましてや春斗までも!!」姿は零斗だが早奈英に代わっていた。


「警察に通報しましょう。零斗さんっ、この人には罪を一生償ってもらうから!!」すると男は台所に置いてあった果物ナイフを零斗(早奈英)目掛けて振りかざした。瞬時に零斗が右腕で庇い、血が吹き出た。


「殺してやる!!また俺が殺してやるよっ早奈英~~」男は高らかに笑いながら叫んだ。先ほど体を動かしたのは零斗だが意識は早奈英なので腰を抜かし床に尻もちを着いて倒れこんでしまった。男は零斗の上に股がり、もう一度ナイフを振りかざした時、パリーンと窓ガラスが割れる音がした。栗奈が蹴りで割り、藤岳が「動くな!警察だ!!」と言って銃を構えた。男はナイフを床に落とし。観念したのか両腕を上げた。


数分後、駆け付けた警察官達に男は連行されていった。


「香月さんっ血が!!」実来が鞄から拭く物を探した。


「すいません。私のせいで怪我までさせてしまって………」早奈英は零斗の姿で涙を流し体を震わせていた。(あなたは何も悪くありません。春斗くんは赤ちゃんなのですぐに成仏してしまったようです)零斗は脳内で早奈英に伝えた。


「あの子がいないのなら私はもうこの世に未練はありません。零斗さん、そして皆さんありがとうございました」そう言うと白いモヤのようなものが部屋中広がり上に舞って消えていった。


すると零斗が倒れそうになるのを藤岳が支えた。


「香月さんっ!?」零斗は意識を失っていた。藤岳は零斗を抱き上げ「後は任せます!!」と言って車で行ってしまった。


残された栗奈と実来は警察に事の事情を説明し事務所へと戻る途中、栗奈が話し掛けた。


「お前、辞めねぇの?」「え…………?」栗奈の唐突な質問に実来は戸惑った。


「元々勘違いでうちに来たんだろ?言っとくけどこんな事は日常茶飯事だからな」


「私は………辞めません。と言っても3日間だけですが……霊感なんてないから私に出来る事なんてないかもしれません。でも………」


「金のためか?」「夢の(ため)です」2人は数秒見つめあった。


「夢…………ね。俺にも夢あるぜ?」「………何ですか?」


香月零斗(こうづき れいと)の体を手に入れること」


一方、病院で治療し、事務所の零斗の部屋に入り、藤岳は優しくそっと零斗をベッドの上に降ろした。


零斗の頬を触り温かさを感じた。そして座り込み零斗の手を握り、はぁ…………と息を思い切り吐き出した。


「本当にあなたって人は無茶ばかりする……そんなんじゃお父様に顔向け出来ないんですよ」聞こえていない零斗に藤岳は零斗の唇に自分の唇を重ねようとした時、事務所の扉が開く音がした。


「だ~~~疲れた~~~」そう行って栗奈はドカッとソファーに座り込んだ。


「ちょっと栗奈さんっ香月さんが起きちゃいますよ」小声で実来は言った。


扉が開き、藤岳が出てきた。「お帰りなさい。2人とも」「ただいまです。あの、香月さんは大丈夫でしょうか?」実来はずっと零斗が心配で(たま)らなかった。


「彼ならぐっすりと眠っていますよ。朝まで起きないと思いますから今日はもう帰って大丈夫ですよ」


「でも怪我までして気を失うなんて心配で……………」


「彼が気を失ったのは怪我のせいではなく体を貸すと副作用的な感じで眠ってしまうんです。カラダカシには様々な方がいて香月家は大々伝わるカラダカシなので眠るだけで済んでマシな方です。中には死んでしまう方もいますから」藤岳は冷静に説明をした。「カラダカシがそんな危険な事なんて…………」「さ、暗くなる前にお帰りなさい。あなたに何かあっては私が彼に責められてしまうので」実来に帰るよう(うなが)した。


「………わかりました。今日は帰ります。香月さんによろしくお伝えして下さい」実来はぺこりとお辞儀をし事務所を(あと)にした。


~翌日~


「ふあ~~~。良く寝た」零斗は伸びをした。起きたと同時にノックをして藤岳が入ってきた。


「おはようございます。零斗さん」


「はよ。…………市倉さんは?」


「昨夜帰りましたよ。あなたによろしくと言われました」藤岳は持っていたホットレモンティーを零斗に渡した。


「絶対昨日のひかれたよな~。あんなん日常的にあり得ないよな…………」零斗はため息を()いた。


「ずっとあなたの事を心配していました。さ、もう朝食が出来てますのでリビングへ行きましょう」


2人はリビングに向かった。


リビングには栗奈が先に朝食を食べていてテレビを観ていた。


「よ、零斗。テレビ観ろよ。昨日の事ニュースになってんぞ」栗奈はテレビのボリュームを少し大きくした。


「昨夜未明、犬飼早奈英さんとその息子、春斗くんの遺体が山の中で発見されました。その夫、犬飼忠久(いぬかい ただひさ)容疑者が関与したとして逮捕されました」藤岳はテレビを消した。


「お、今日は俺の好きなコロッケパンだ」そう言って零斗は幸せそうにコロッケパンを口いっぱいに頬張った。


「…………もう来ないかもな」朝食を食べ終えた零斗は暗い顔をして言った。


「今まで来た方達は1日で辞めていきましたからね。何とも言えませんね」藤岳はコーヒーを置いた。


「…………案外、来るかもだぜ?」栗奈は実来が来るのを確信していた。


すると事務所の扉が開き「おはようございます!!今日もよろしくお願いします」元気良く実来は挨拶をした。


リビングにいた零斗は事務所の部屋に急いで入り実来の姿を確認した。


「あ、おはようございます。もう起きて大丈夫ですか?怪我の具合は……………」会った瞬間、心配する実来に零斗は少し泣きそうな、でも満面の笑顔になってこう言った。


「お帰りなさい。そしてようこそ、カラダカシへ!!」



~2話へ続く~































ここまで読んで下さりありがとうございました。まだまだカラダカシの物語は続きます。まずは自分が書いてて楽しい!って思えるものを考えていきたいと思います。

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