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(仮題)傭兵王   作者: 一狼
1/5

◆◆プロローグ◆◆

ガキの頃、テレビの戦隊ヒーローに夢中になった。


自分も正義の味方になると心に決めた。


小学校から大学まで剣道、柔道、弓術と、ありとあらゆる武道を学んだ。


おかげで様々な大会で軒並み上位入賞を果たした。


勉強もした。


家は裕福ではなかったが、親父もお袋も、一人息子に惜しみ無い愛情を注いだ。


その両親は、俺の大学卒業を待っていたかのように他界した。

交通事故だった。


俺は両親に報いたかった。


国立大学を出て、俺が仕事として選んだのは『警察』だった。


最高学府を出た俺は、権力構造の中枢に触れるのに時間はかからなかった。


そこに『正義』は無かった。


三十歳を目前に、俺の手は様々な不正に塗れた。


自発的に手を染めたのではない。


そこに居ることで『不正』が追い掛けて来るのだ。


戦隊ヒーローならどうしただろうか?


俺は内部告発に踏み切った。


しかし、あっという間に揉み消された。


仕事も干された。


そして行き着いたのが、某県警の暴力団対策部。

マル暴だ。


三年が過ぎた。


あるヤクザとの出会いが俺の運命を変えた。


「本当の正義は何処にもない。だが、俺達は俺達の信じる正義を遂行するために集まっている。

毒をもって毒を制す。昔の人は良く言ったもんだ。」


そのヤクザはそう言って笑った。


警察は手を出さない、いや、見て見ぬふりをして甘い汁を吸う。


少なからずそういった輩が居る。


そう、見てきたじゃないか。


上層部の権力と金への執着を。


俺は警察を辞めた。


そしてそのヤクザの舎弟となった。


そして更に三年が過ぎた。


兄と慕い、行動を共にしてきたそのヤクザが死んだ。


対立組織が放ったヒットマンにやられた。


俺もその場に居た。


そのヒットマンを身体を張って押さえた。


そして、密着した銃口から放たれた銃弾は、俺の心臓を撃ち抜いた。


◇◇◇


「ブアッ!」


止まっていた呼吸が戻る。


早鐘なんてレベルの鼓動じゃない、人間の心臓はこんなにも早く脈動するのか?


「クソ野郎ッ!」


そう言って撃たれた胸に手を当てた。


だが、俺の手は硬い金属の感触に阻まれた。


「!?」


「隊長!!隊長!大丈夫ですかっ!?」


「ああ、大丈夫だ▪▪▪」


「この間抜け野郎!部隊の足引っ張るなら俺がブッ殺すぞ!」


なんだ?


隊長?


誰がだ?


俺だ▪▪▪


いや、俺は▪▪▪


「俺の名はジュウゴだ▪▪▪

いや▪▪▪」


記憶が混乱している。


そこへ戦斧が振り下ろされた。


咄嗟に反応した。


身体が重かったが、何とか叩き下ろされた戦斧を掻い潜った。


「なんだこりゃ?」


俺はガチガチの分厚い鉄板を身に纏っていた。


鎧と言うにはあまりにも華美なオーバーサイズの装飾品だった。


そして右手には片刃の長剣が。


これはそこそこの名物らしく、見事な刃紋を浮かせていた。


「こんなもの着てちゃよぉっ!」


俺はガチャガチャと鎧とは言いづらい不細工な鉄板を脱いだ。


「なんだこりゃ?」


そして更に愕然とした。


何に?


自分の身体に。


長身だが肉が細く貧相に四肢が延びている。


「俺の身体じゃねぇっ!」


そう叫んだが、俺の目はしっかりとさっき俺に戦斧を振り下ろした髭面を捉えていた。


分厚い鎧に身を包んだ髭面は、俺の貧相な身体を見て嘲笑った。


確かに、この身体じゃあの髭面と対峙しても1分が限界だろう、普通ならばな。


俺は刀を鞘に収め左刺しに構えた。


この刀の素性に賭けるしかない。


良くわからねぇが、少なくとも今、あの髭面は俺を殺そうとしている。


「ならば▪▪▪」


俺は細く長く息を吸った。


一刀。


チャンスは一度。


俺を舐めくさっている今だけだ。


「何のつもりだ?貴族様は館に籠って女の尻でも舐めていろっ!」


髭面はそう叫んで突進してきた。


巨体にしてはスピードが有る。


だが驚く程じゃねぇ。


あとは、この身体が反応してくれるかどうかだなっ!


髭面が間合いに入った。


右足を半歩進める。


ちっ!


やっぱりだ。

この身体、鈍っている、いや、一度も鍛えたことがねぇんだろ?

だが、今はそんなこと言っているばあいじゃねぇ▪▪▪

「▪▪▪んだよっ!」


髭面が振り下ろした厚刃の剣を間一髪すり抜けて、すれ違いざまに抜刀一閃!


だがこの腕力じゃ弾かれる▪▪▪


儘よ▪▪▪


非力な腕だけでは髭面に致命傷は与えられない。


ならば▪▪▪


俺は鍔本の峰に左腕と上体を預けて、なけなしの体重を掛けた。


『ギィィィンッ!』


と刀が鎧にぶち当たった金属音、金属と金属がぶつかり散る火花。


だが流石に金属の鎧は切れなかった。


切れなかったが『滑った』。


鎧の腹にぶち当たった刀の刃は、そのまま滑って髭面の鎧の隙間、腹に入った。


『ギィィィィッ!』と金属が擦れる音が途切れた途端、柔らかな感触が刀から腕に伝わった。


そしてその感触も消えた。

と同時に、圧力に身体を預けていた俺は揉んどり撃って転がった。


「ブッファァァァッ!」


心臓の音で周りの音が聞こえねぇ。

早く起き上がらねぇと髭面が来る。


だが、生まれてこのかたまともな訓練などしたことが無いであろう身体は、指一本動かせなかった。


辛うじて首を捻り髭面を見ようとした。


そこには髭面とは違う顔の男達が数人居た。


全て笑いながら、手を叩きながら俺に近付いてくる。


何言ってるんだ?


聞こえねぇ▪▪▪


その男達の後ろでは、ひどく怯えた顔をした髭面と同じような鎧の男達が慌てて走り去ろうとしていた。


どうにでもなれ▪▪▪


俺はそう思った▪▪▪途端、意識を失った。

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