第332話 試練
332話〜
次に目を開けると、俺は床の上に転がっていた。そして眼前にはアリスのにこやかに微笑む顔が……。
「どうだったかな?」
「今のが参の太刀……。」
「そ、陽炎と同じ歩法で生み出した残像を使って全方位から急所へと向かって刺突を繰り出す……それが時雨。」
そう説明すると、彼女はキン……と剣を鞘に納める。
「本当は即死を狙う技なんだけど、まぁこれでもアリス流剣術の始祖だからね〜。ちゃんと手加減してあげたよ?」
そして俺へと手を差し伸べようとしていた彼女だったが、突然その手を目にも止まらぬ速さで一度納めた剣に伸ばすと再び剣を抜いた。
それと同時に振るわれた深紅色の剣とぶつかり火花を散らす。
「ん〜?キミも闘いたいの?」
何食わぬ顔で鍔迫り合いしながら、アリスは深紅色の剣を握るアルマ様へと問いかける。
「アルマは……カオルのご主人様だからッ!!カオルを護らないといけないんだよ!!」
「へぇ、キミが彼のご主人様……ねぇ。」
興味深そうにアリスはそう呟くと、鍔迫り合いしていた剣をずらしてアルマ様の体勢を崩す。
「うっ!!」
体勢崩すと同時にポンと軽く手で体を押され、アルマ様は自ら距離を取る形になってしまった。
そして間合いが開いたところでアリスがアルマ様へと語りかける。
「さっき、自分が主人だって言ってたね。キミには本当に彼の主人としての力はあるのかな?」
「……っ、うるさいッ!!」
アリスの言葉を掻き消すような勢いで再びアルマ様が剣を振るう。
しかし、アリスは自分へと向かって放たれる剣の軌道を全て完璧に読み切り躱す。
「剣の軌道も単純、フェイントもバレバレ、力は確かにあるみたいだけど、体幹が悪いね。ほらカックン。」
「あっ!?」
攻撃を躱したと同時に、アリスはいつの間にか納めていた剣の鞘でアルマ様の膝の裏を押して膝をつかせた。
そして立ち上がろうとしたアルマ様の眼前に剣の鞘が突きつけられる。
「ほら死んだ。そんな実力で誰かを護るとかほざいてるのかい?甘ちゃんもいいところだね。」
先程までは明るかったアリスだが、今アルマ様を見下ろしているその目は厳しいものとなっている。
「大方、もともと持ってるその有り余る力でのし上がってきたクチでしょ?でも、力だけじゃ……護れないものだってあるんだよ。」
そう説くアリスに、アルマ様はギリリと歯を食いしばり闘志を剥き出しにしながらあることを口にした、
「なら教えてよ!!力だけじゃ護れないものを護る方法ってやつをさァッ!!」
感情を爆発させたようなその言葉を聞いたアリスは一瞬ポカンと呆気にとられた表情を浮かべたが、次にはクスリと笑っていた。
「へぇ、その意志は本物みたいだね。」
そうポツリと呟くと、アリスはくるりとアルマ様に背を向ける。そして道場の壁に飾ってあった木刀を手にとり、再びアルマ様の前に立った。
「これ、持ってみなよ。」
「これを?」
アリスからその木刀を受け取った瞬間、アルマ様を中心に床が大きくへこみクレーターを作り出した。
「〜〜〜〜〜っ!?!?」
「その木刀は力じゃあ持ち上がらないよ。魔力でもね。」
「うっ……くぅっ!!」
「それを持ち上げられたらキミが望んでるものを教えてあげる。」
「い、言ったから……ね?」
「あぁ、もちろんさ。これでも永い時を過ごしてきたけど約束を違えたことはないよ。」
そしてアルマ様を放置すると、アリスは俺の方へと歩み寄ってきた。
「まぁやらないとは思うけど、手助けは無用だよ?あの子の為を思ってるなら、見守ってあげなよ。」
「…………わかりました。」
「うんうん、聞き分けが良くてよろしい。さぁさぁ、こっちに来て座りなよ。なにせここに人が来るのは久しぶりでね。それも私の剣術を受け継いでいる人間なんてさ、聞きたいことが山ほどあるんだ。」
流されるがまま座布団の上に座らせられると、どこからか彼女は熱い緑茶を持ってきた。
「さて、少し落ち着いたところで……カオルくんと言ったかな?」
「はい。」
「キミにその剣術を教えたのは誰?私の剣術は名前こそ有名だったけど、私が上にいたころは使える人間はいなかったはずだよ。」
「俺にあの剣術を教えてくれたのはナインっていうアンドロイドです。」
「ん?アンドロイド?それって……ミラがなんとかに備えて作ってたアレ?」
「ミラ博士を知ってるんですか?」
「知ってるも何も友達だったからね〜。長い付き合いだったよ。ミラは紛れもなく天才だったからね〜、どっかで私の剣術を読み取ったのかな。」
ズズ……と熱いお茶を一口飲むと、やれやれと一つため息を吐いた。
「まったく、いつの時代でも天才には敵わないね。」
そう彼女が呟くと同時に俺の背後でバチッ!!と稲妻が走ったような音が鳴った。
咄嗟に後ろを振り返ると、そこには先程渡された木刀を持ち上げ、赤い瞳を光らせているアルマ様の姿が。
それを見てまたアリスは苦笑いしながら言った。
「これだから天才は困るね。」
それではまた次回お会いしましょ〜




