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第003話 魔王との出会い

第003話です。プロローグ最終話になります。


 突如として真っ白になった視界が徐々に戻ってくる。


「う……いったい何が。」


 ゆっくりと目を開けると、俺は自宅ではなく、とんでもなく大きな西洋風の造りの城の前に立っていた。

 

「はっ!?こ、ここはいったい?」


「ホッホッホ、驚きの連続で理解が追い付いていないようですな。」


 突然変わった目の前の景色に混乱していると、横からジャックの声が聞こえてきて今の現状が現実であることをより痛感させられる。


「さっきまで俺の自宅にいたはずじゃ……。ここはいったいどこなんです?」


「カオル様、ひとまず落ち着いてください。」


 混乱し動揺する俺を落ち着かせるべく、ジャックが冷静に声をかけてくる。彼の冷静な声、そして対応のおかげで俺は少し落ち着きを取り戻す。

 俺が少し落ち着いたことを彼は見抜くと、今の現状について少しずつ話し始めた。


「まず大前提に知っていていただきたいことが一つございます。ここはカオル様が住んでいた世界ではございません。」


「俺が住んでいた世界じゃない?」


「はい、ここはカオル様が住んでいた世界の()()()()でございます。」


(俺が住んでいた世界の裏の世界?にわかに信じがたいが、そんなものが存在するのか?)


「この世界について話せば長くなりますので、詳しいお話は中でいたしましょうか。お城の中はとても広いので、迷わないようにしっかり私の後ろに着いてきてください。」


 目の前の現実を受け入れきれていない今の俺は、ただ彼の言葉に従っていくしかなかった。そして彼の後ろに着いていき城の中へと足を踏み入れると、中はまるで迷路のように複雑になっていた。

 迷路のようになっていたとは言っても、城の中はいたるところに豪華な装飾が施されていたり、高そうな絵画が飾ってあったりと、外観に引けを取らない内装となっている。


 城の中を見渡しながら彼の後ろに着いて行くと、これまた豪華な一室へと案内された。その部屋はどこか彼と最初に出会ったときにもてなされた部屋に似ている……ような気がする。家具も似ているし、何よりこの椅子の座り心地はあの時と全く同じだ。


 案内されたこの場所に既視感を覚えていると、こちらの考えを見抜いたかのように目の前に座ったジャックが話し始めた。


「ホッホッホ、カオル様が感じている既視感は間違ってはおりませんぞ?最初私がおもてなしした部屋はこのお城の中にある一室なのですから。」


「え、でもさっきこの世界は……。」


「そうです、あちらの世界とは全くの別世界でございます。ですが二つの世界は一本の境界線で仕切られているだけなのでつなげることは容易なのですよ。」


「つまり、この世界とあっちの世界を自由に行き来できるってこと……ですか?」


「察しが良くて話が速いですな。今、カオル様が言った通りでございます。」


 なるほど……そうだとしたらあんまり焦る必要はないのかもな。落ち着いて今の状況を整理しよう。


「少し落ち着いてきたようですので、説明を続けましょうか。」


「お願いします。」


「世界が違えば、常識というものも大きく違ってきます。例えばカオル様の世界は()()というものが大きく発達した世界ですが、この世界は先ほど来る前にお見せした()()というものが大きく発達しているのです。」


「魔法!?」


(確かにあれはトリックとかでは説明がつかないとは思っていたが、まさか魔法だったなんて……ファンタジーすぎるな。架空の存在と思っていた魔法が実在するなんて。)


 あちらの世界ではまずお目にかかれなかった魔法という存在に胸を躍らせていると、ジャックが満面の笑みで言う。


「こちらの世界に肉体が順応してくれば、いずれはカオル様も使えるようになりますよ。このように……。」


 ジャックはそう言うと、手のひらの上に突然拳ぐらいの大きさの炎の玉を作り出した。そしてそれを様々な形に自由自在に動かして見せてくれた。


 ひとまず彼のわかりやすい説明のおかげでこの世界についてのことは少しわかった。今なら彼が頑なに勤務場所について話さなかったのも納得ができる。

 まぁこの世界が本当に現実なのかどうかはまだ実感が湧かないが……。


 一先ずこの世界が現実の世界だとして、あと一つだけ俺の中には解決していない問題があった。


「ひとまずこの世界のことはわかりました。それを踏まえたうえで質問なんですけど、俺がこの世界で料理を振る舞う人って……いったいどんな人なんです?」


「それをお伝えするのは、カオル様と()()をしてからにいたしましょうか。」


 すると彼はどこからか丁寧に丸められた紙を取り出してテーブルの上に広げた。その紙に羅列している文字は日本語とは遠くかけ離れた物であり、英語などの外国語でもなさそうだ。


「これは……もしかしてこの世界の言葉ですか?」


「あぁ、これは失礼いたしました。私としたことがご配慮が足りませんでしたな。この国の言葉……いえ、文字はカオル様が住んでいらした日本の言葉とは違います。この国独自の言語でございます。」


「なるほど。」


「こちらの配慮が足らず日本語の契約書はご用意しておりませんでしたので、私がこちらの契約書の内容を説明させていただきます。まず契約内容からですが、契約後は私のご主人様の専属の料理人として基本的には毎日三食の料理を振る舞っていただくことになります。できればご主人様からの要望に沿ったものを作ってください。それから…………。」


 淡々とジャックは仕事の契約内容について説明する。


 事前に話を聞いていた通り、俺がここでやるべき仕事は彼の()()()()という存在に料理を作るということらしい。その他に、頼まれごとをされたときにはできる限り対応してほしいとのことだ。

 報酬はこちらの世界のお金を手渡されるらしい、それは彼に頼めば日本円に換算できる何かしらに変えてくれるらしい。


 そしておおかたの説明を終えた後、彼は()()()と付け加えるように言った。


「最後に、契約を満了……もしくは契約の継続が不可能と私が判断した場合、こちらの世界での記憶をすべて消去して元の世界へと戻っていただきます。それでもよろしければこちらにサインを。」


 最後に留意事項を話すと彼はこちらにペンを手渡してくる。


(この枠に自分の名前を書いたら契約完了ってことか。……迷う余地はないよな。)


 俺は迷わずその契約書に自分の名前を書いた。すると、目の前に座るジャックが真剣な表情から一変ニコリと微笑んだ。


「カオル様ならば迷わず契約してくださると思っておりました。それでは本日より()()()へのお食事を作っていただきますので、どうぞよろしく────。」


「ちょっと待った!?」


 おもわず俺は彼の話を遮って待ったをかける。彼の言葉の中に聞き逃してはいけないワードがあったのだ。


「い、今……誰に食事を作るって────。」


 改めて聞き返そうとしたその時、部屋の外から子供の声が聞こえてきた。


「じぃじ?ここ?」


「はい、私めはこちらに居りますよ。」


 部屋の外から聞こえてきた子供の声にそう答えると、ジャックは微笑みながら席を立って部屋のドアの方へと歩いていく。


「ん~っ!!ん~~~っ!!」


 そしてジャックが扉を開けると、そこには幼い少女がいた。さっきの踏ん張るような声は、手の届かない位置にあったドアノブに必死に手を伸ばしていた声だったらしい。


 とことこと部屋の中へと入ってきたその少女と俺は、目があってしまう。


「じぃじ、この人誰?」


「この方の名はカオル様でございます。これから魔王様のご飯を作ってくれるお方ですよ。」


「カオ……ル?」


(ま、まさか魔王って……この女の子なのか!?)


 すぐさまジャックに確認のアイコンタクトをとると、彼はこちらの意図を察したのかコクリと頷いた。


 呆気にとられていると、少女がとことこと小股でこちらに歩いてくる。


「えと、んと……アルマ!!まおーなの!!カオル、アルマにご飯作ってくれるの?」


「あ……は、はい。よろしく……お願いします。」


 たどたどしい言葉で自己紹介をするアルマという少女。


 どこからどう見ても俺の知っているような魔王らしさはなく、ただのいたいけな少女なのだが……。


 そんなことを思っていると――――――。


 きゅるるる……。


「あっ、お腹鳴ったの!!カオル、アルマお腹すいた!!ご飯作って~♪」


「あ、わかりまし…………たぁっ!?」


 可愛らしい音をお腹から鳴らしたかと思えば、次の瞬間大の大人顔負けの馬鹿力で俺は彼女に引っ張られる。


「ご飯っごは~ん♪カオル早く行くよ~♪」


 ずるずると引きずられ、ジャックの隣を通りすぎようとした時、彼はにこりと笑いながら話しかけてきた。


「ホッホッホ、早速魔王様に気に入られたようで何よりです。それではよろしく頼みましたぞ?」


 この時ばかりは、爽やかなジャックの笑顔が悪魔のように見えた。


 斯くして俺は、この魔王城で魔王アルマ()のために料理を作ることになったのだった。

それではまた次回お会いしましょ~。


あ、言い忘れてました次回から一章開幕ですφ(゜゜)ノ゜

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