第028話 アルマの嫉妬
028話~
初の依頼を終えた翌日の朝、何か体にずっしりとのしかかっているようなそんな感覚で目が覚めた。
「んん……。」
重たい瞼をゆっくりと開けると、目の前にぷっくりと頬を膨らませ、不機嫌そうなアルマ様の姿があった。
「アルマ……様?どうしましたか?」
「ラピスから聞いた。カオルとラピス昨日美味しいもの食べたって!!」
どうやらアルマ様が朝っぱらからお冠な原因は昨日のスケイルフィッシュの試食会にあるらしい。
「あ───っと、それはですね。実は新作の料理の試食をしてもらったんです。」
「なんでアルマに声かけてくれなかったの!?」
「それはアルマ様には未完成の物ではなく、完成したものを食べてほしかったからですよ。」
朝一で働かない脳を無理やり回転させ、アルマ様が納得する理由を絞り出す。
すると、アルマ様はきょとんとした表情を浮かべ問いかけてきた。
「じゃあアルマにはもっと美味しいの食べさせてくれるの?」
「もちろんです。」
にこりと笑って答えると、アルマ様の表情が一気に明るくなった。
「じゃあ今日の朝ごはんはそれねっ!!アルマ待ってるから!!」
ぴょんと俺の腹の上から飛び降りると、アルマ様は走って部屋の外へと行ってしまった。
「ふぅ……なんとか誤魔化せたか。」
とは言っても、問題はこれからだ。自分でハードルを上げてしまった以上、それを飛び越える必要がある。
朝食を食べるのは何もアルマ様だけじゃない。昨日あれを食べたラピスも共に食べるのだ。仮に同じものを出そうものなら、口の軽いラピスは言ってくるだろう。
「にしてもまったく……ラピスのやつ口を滑らせたな。」
恐らくはアルマ様に昨日のことを自慢をしたのだろうが……厄介なことをしてくれたものだ。
そんなことを思いながらコックコートに着替えると、俺は厨房へと向かった。厨房では既にアルマ様とラピスの二人が朝食ができるのを今か今かと待ちわびていた。
「おぉ!!カオルよ、聞いたぞ?昨日食ったものよりも美味いのを作るのだろ?楽しみにしておるぞ!!」
「はいはい。」
「カオル、アルマは大盛りでね?」
「我も大盛りで頼むぞ!!」
「わかりました。」
アルマ様は魔王として一つ成長してからというものの、食欲が更に旺盛になった。それだけでも量を作らないといけないのに、そこに更にラピスという大喰らいが現れたからな。一回の料理での食材の仕込みが大量だ。
まぁでもそれだけやりがいを感じるし、苦だと思ったことはないけどな。
昨日何匹か譲ってもらったスケイルフィッシュを捌いて昨日とはひと味違うフィッシュアンドチップスを作って二人に提供した。
しかし、目の前に提供されたそれにラピスは首をかしげる。
「む?カオルよ、昨日と見た目は変わらんようだが?」
「見た目は……な。食べてみれば違いがわかるよ。」
「そうか、ならば食ってみるのだ!!」
豪快にラピスはスケイルフィッシュのフライを口いっぱいに頬張った。そんな彼女の姿を俺とアルマ様が眺めていると、ラピスの表情が変わる。
「ん?ん!?何かトロトロで美味いのが溢れてきたのだ!?」
「それはチーズだ。昨日はなかっただろ?」
「うむ!!確かにこれは昨日のよりも美味いのだ!!」
そうしてガツガツと食べ進めるラピス。それを眺めていたアルマ様に俺は声をかけた。
「如何しましたか?」
「あ、えと……やっぱりカオルは凄いなーって思ってて。ラピスは昨日同じようなやつ食べてるんでしょ?それなのに、あんな風に驚きながら食べるってことは、それだけ味が変わってるってことなんだな~って。」
そうポツリと言ったアルマ様。そんな彼女の隣でジャックがにこりと笑った。
「ホッホッホ、カオル様は宛ら魔術師のようですな。」
「んね~!!」
「ありがとうございます。」
ペコリと頭を下げると、アルマ様はフィッシュアンドチップスに目を向けた。
「えへへ~、それじゃあアルマも食べよ~っと。いただきま~す!!」
待ちきれなかったのだろう。アルマ様はまるで貪るように料理を食べ始めるのだった。
アルマ様とラピスに朝食を振る舞った後、俺はジャックとともに、城の中のとある一室に足を運んでいた。
「こちらが転移魔法陣でございます。」
部屋の真ん中には大きな魔法陣が描かれており、妖しげに光を放っている。ジャックはそれを転移魔法陣だと言った。
この魔法陣がどこに繋がっているのか……それは俺が元いた世界地球だ。それも日本へと繋がっているらしい。
今回これを使って、あっちの世界から調味料を買い足しに行くのだ。
「此度は私めも共に参りましょう。」
「アルマ様はいいんですか?」
「ラピス様がついておられますからな。それに魔王様はもう、四六時中私めが目を配っていなければならないほど幼くはありませんから。」
「なるほど。」
こういうことをジャックが言うのは、恐らくアルマ様が魔王として一つ成長したからなのだろう。前までは確かに付きっきりだったもんな。
「さて、それではカオル様。魔法陣の上にお乗りください。」
促されるがまま魔法陣の上に乗ると、急に体が軽くなったような不思議な感覚に包まれる。そして俺に続いてジャックも魔法陣の上に足を乗せた。
「では参りましょう。」
ガコンと彼が壁に備え付けてあったレバーを引くと、魔法陣が輝き始める。そして視界が光で覆い尽くされようとしたその時……。
バン!!と音をたてて部屋の扉が開き、アルマ様とラピスが駆け込んできた。
「ラピス捕まえたっ!!」
「むぐぐぐっ、この姿ではスピードが……。」
「なっ!?ま、魔王様!?」
突然の出来事にジャックは思わず驚いた表情を浮かべた。
「ほぇ?ジャックに……カオル?」
アルマ様が首をかしげると同時に視界が光で覆い尽くされていった。
それではまた次回お会いしましょ~




