第017話 獲得!!黄金林檎!!
017話~
マシュルドラゴンの背中からキノコを一気に引っこ抜くと、途端に動きが鈍くなり、終いにはピクリとも動かなくなってしまった。
「お?お?動かなくなったぞ?」
「よくやったカオル。」
上空から音もなくラピスが下りてきた。
「これ、生きてるんだよな?」
「この程度で死ぬほどドラゴンの名を冠するものは軟ではない。ただ一時的に動けなくなっておるだけだ。その証拠にキノコを抜いた痕を見てみよ。」
言われるがままマシュルドラゴンの背中を見てみると、そこにはすでに小さなキノコがぴょこんと顔を出していた。
「えぇ!?もう生えてきてるのか!?」
「ドラゴンを侮るなかれ。生命力はピカイチなのだ。」
まるで自分のことのようにラピスはそれを誇る。
「あと数十分もすれば再び目覚めるだろう。それよりもカオル、黄金林檎だ!!」
口元からよだれを溢れさせながらラピスはすぐに黄金林檎の木の方へと向かう。そして黄金林檎にそのまま嚙り付いた────しかし。
「はぐぅっ!?か、硬すぎてこんなもの食えんぞ!?」
まさかまさかの、ラピスの強靭な牙ですら黄金林檎に傷一つつけることができなかったのだ。
硬いものを思いっきり噛んでしまったラピスは瞳をウルウルとさせながら地上に降りてきた。
「はぅぅぅ……痛いのだぁ。」
「ラピスの牙でも通らないってことは、普通じゃ食べられない食材ってことか。」
だが俺にはジャックに渡されたあのナイフがある。
リュックの中からそのナイフを取り出すと、俺はおもむろに黄金林檎に近づきヘタの部分に刃を当てた。すると、あっさりと切れてしまったのだ。
「これは……このナイフじゃないと切れない林檎ってことなのか?」
まだ木にたくさん林檎は実っている。試しに一つ剥いてみようか。
手にした林檎に刃を当てると、スルスルと滑るように皮がむけていきあっという間に手の中には皮の剥けた黄金林檎が。
その黄金林檎からは林檎のものとは思えないほど濃厚で、良い香りが放たれていた。
試しに食べてみようかと口に近づけると、俺の目の前にラピスのうるんだ顔が大きくドアップで入り込んできた。
「…………。」
無言でくるりと後ろを振り向くが、振り向いた先にはまたラピスの物欲しそうな顔がある。何度も視線を振りほどこうとするが、ラピスはとんでもないスピードで俺の目の前に回り込み、その度に潤んだ瞳から放たれる眩しい視線を俺は浴びることになった。
ついには俺の方が折れて、ラピスに黄金林檎を差し出してしまった。
「良いのかっ!?」
「良いも何も、俺があげるまで永遠に付きまとってくるだろ?」
「そ、そんなことは無いぞ~?…………多分。」
多分じゃないかッ!!
と、そう突っ込みたいのはやまやまだが、突っ込んだ暁には何をされるかわかったものじゃない。
「むっふっふ、今はそんなことはどうでもよい!!今は食後の甘味を楽しむのだ!!」
そして黄金林檎を受け取ったラピスは大きな口を最大限に開けて、黄金林檎を丸っと口の中に放り込んでしまった。
しゃくしゃくと小気味の良い音があたりに響くと同時に、噛めば噛むほどラピスの表情が崩れていく。
「むふぅ~♪なんという甘味……噛めば噛むほど口の中に広がる芳醇な甘さ。そして後味をさっぱりとさせるこの絶妙な酸味……まさに幻という名にふさわしき林檎だ。」
食レポ上手いなオイ!?とてもじゃないが、ドラゴンにそれは似つかわしくないぞ?
それが口から出そうになるのをグッとこらえ、俺はアルマ様に持っていくために黄金林檎をまた1つ摘んだ。
そんなに多くはいらない。この黄金林檎は多分……あそこに寝転がってるマシュルドラゴンに無くてはならないものだろう。それを無闇に奪い去るのはお門違いだ。食べる最低限の数でいい。
衝撃を吸収するクッションのようなものに黄金林檎を包むと、俺は優しくリュックの一番上に乗せた。
「いよいしょっと……。」
そしてその場を立ち去ろうとすると、夢心地の中にいたはずのラピスに声をかけられた。
「ハッ!?カオルどこへ行くっ!!」
「どこへって、俺の目的はこれを持って帰るだけだったからな。今から帰るのさ。それじゃ、世話になったよラピス。」
「うむむむむ……。」
そう言ってラピスに手を振ると、俺は来た道を戻ってアダマスへと向かうのだった。
まあ、また縁があればどこかで逢えるだろ……多分な。
幸運なことにも城下町行きの馬車はすぐに見つかり、これから出発するとのことだった。何人かいる乗客とともに椅子に腰かけると、馬車にパチンと鞭を打った音が聞こえてくる。どうやら出発らしい。
(さて、また少し仮眠をとるか。)
そう思って目を瞑ろうとしたその時だった……。
タッタッタッタッ……ピョン!!
「ん?」
ゆっくりと動き出していた馬車に、青い髪の毛の女の子が飛び乗ってきたのだ。ゆっくりとは言ってもある程度の速度は出ていたし、そんな簡単に飛び乗れるものではないと思うのだが……。
まぁこの世界に生きる人達はどこかしら人外じみたところがあるからな。あの子もその例に漏れないのだろう。
そう高をくくって、目を閉じようとしたその時……一瞬その女の子と目があったような気がした。そしてその視線はどこか見たことのあるもののような気がしてならなかった。
(瑠璃色の髪……か。まさかな。)
そんなに早い出会いになるはずがない。それにアイツはドラゴンだ。人ではない。
そう割りきって馬車の中で軽く仮眠につくのだった。
そして次に目を開けたとき、既に俺以外の乗客は全て降りており、残るは俺一人となっていた。
いなくなった少女に俺はホッと胸を撫で下ろす。
「だよな。」
運賃を払うと、魔王城へと俺は歩みを進めた。物陰で何者かが俺のことを見ていたことに気付かずに……。
そしていざ帰ってくると、アルマ様がすごい勢いで飛び付いてきた。
「カオルお帰りっ!!」
「ただいま戻りました。朝食は……問題ありませんでしたか?」
「うん、美味しかったよ。」
それは何より、こうして早く帰ってくることもできたし……お昼からは俺が――――――と思っていたその時だった。
「ねぇねぇカオル?」
「はい?」
「その子だれ?」
「はっ!?」
突然背後を指さされ、驚きながらも振り返るとそこには先ほど馬車で居合わせた青い髪の女の子が……。
そして俺が振り向いたのを見て、彼女は笑った。
「むはははっ!!カオル、我はおぬしを逃がさんぞ?」
「そ、その声……まさかラピスなのか!?」
「そのとぉ~り♪」
「な、なんでここにいるんだよっ!!」
「むはははっ、簡単なことよ。おぬしに着いていけば食いっぱぐれることもあるまいと思ってな。」
「お、お前なぁ……。」
堂々とそう語ったラピスに俺がガックリと肩を落としていると、笑いながらジャックが近づいてきた。
「ホッホッホ、なにやら騒がしいご様子ですな。カオル様?」
「ねぇ、カオルその子だれ~?ねぇ~っ!!」
「あっと……えっと~…………。」
そんなことがあり、俺はこのラピスのことをアルマ様とジャックに話すことになったのだった。
それではまた次回お会いしましょ~