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第110話 vsブラックスネーク

110話~


 ナインが警告した次の瞬間、辺りの木々の間から黒い皮膚や体毛を持つ大量の魔物がなだれ込んできた。


「っ!!これはなかなか多いな。」


「マスター、向かってきている多数の魔物が変異種であることを確認しました。すぐに空間を切って移動すれば逃げられますが、いかがしますか?」


「いや、戦おう。」


 俺からしたらボーナスだ。全部倒してギルドに素材を売って、あわよくば報酬に色目をつけてもらおう。


「了解しました。数が数ですのでナインもご助力します。」


「助かる。」


 ナインに背中を預けると、俺たちのことを囲んでいた魔物が一斉にとびかかってきた。


 すぐに収納袋からアーティファクトを取り出し魔力を籠めると、魔物の群れへと向かって薙ぎ払う。その一撃で何体かまとめて倒すことはできたが、それでも魔物はその死体を乗り越えてとびかかってくる。


 死んだ仲間に目もくれずに突撃してくるのは、どこか狂気的な何かを感じるな。


「今ので怯みすらしないか。」


 ホントはブラックスネークに残しておきたかったが、魔力を節約している場合ではないな。


「ふっ!!」


 二度、三度とアーティファクトを薙ぎ払い、向かってくる魔物をバタバタと倒していく。剣戟をすり抜けてきた魔物は体術で対応し、弾き飛ばす。


 そんな流れを何度も繰り返していると、ようやく魔物の流れが少しずつ収まってきてナインのことを気にする余裕も出てきたのだが……。


 チラリと後ろを軽く振り返ってみると、ナインは無表情で危なげなく大量の魔物を倒していた。


(流石だな。)


 俺も負けてはいられない。もともと俺が受けた依頼だ。ナインよりも頑張らなくてどうする。


 自分を鼓舞して目の前に迫る魔物を倒し続けていると、後ろにいるナインが口を開いた。


「マスター、大きな生体反応がこちらにとてつもない速度で近づいてきています。」


「騒ぎを聞き付けてお出ましかな。」


 そう俺が言った瞬間……バキバキと木を薙ぎ倒しながら、巨大な蛇の魔物が姿を現した。


「黒い鱗の蛇……こいつがブラックスネークで間違いないな。」


「シュルルルル……。」


 チロチロと真っ赤な舌を出しながら、俺とナインに視線を向けてくるブラックスネーク。口からはピンク色の吐息のようなものが溢れだしている


 それを見たナインが再び口を開いた。


「マスター、気を付けてください。その魔物の口内から幻惑毒が放出されています。」


「あのピンク色の吐息みたいなのがそれか。」


「吸い込むと意識が混濁する恐れがありますのでご注意下さい。」


「了解っ!!」


 ナインから情報を得た俺は、向かってきていた魔物の群れをアーティファクトで一掃し、ブラックスネークへと向かって飛び出した。


(蛇の構造はウツボとか穴子と同じ……。)


 俺は頭の中にあるイメージを思い浮かべて、アーティファクトを一閃した。


「背開きっ!!」


 鱧や穴子を捌く際に使われる背開き。反対に腹開きというのもあるが、俺は背開きしかしたことがないからな。一番こいつがイメージしやすかった。


 アーティファクトを一閃すると、ブラックスネークの背骨のラインにビシャリと音を立てて一本の線が入った。そして徐々に体が背中から真っ二つに割れていく。


「効果抜群だな。」


 そして勝利を確信していると、突然時間の流れが一気に遅くなった。


「っ!!」


 その理由はすぐにわかった。胴体を真っ二つにされながらも、ブラックスネークはその大きな牙で俺に噛みつこうと、飛びかかってきていたのだ。


 それを見て、俺は日本にいたときに聞いたあるニュースを思い出す。


 それは、とある蛇料理を扱っている中華料理店で、頭と胴体を切り離した毒蛇に手を噛まれたというものだった。


 そのときは蛇を自分で取り扱うことになるなんて夢にも思ってなかったから、蛇ってのは生命力が強いんだな~ってしか思ってなかったが……まさかこの世界に来て自分がこんな状況に陥るとはな。


 生きてるといろんな事が起こるものだ。

 

「だが……。」


 俺は遅くなった時の中で、飛びかかってきているブラックスネークの頭上に飛び上がるとアーティファクトに魔力を籠めて、脳天へと向かって投げつけた。

 流石に脳天の骨は硬いらしくアーティファクトは先端しか刺さらなかったが……少し刺されば俺にとっては十分だった。


「これでトドメだ。」


 空中から落下する速度と、体重、そして遠心力を乗せた踵落としを、刺さったアーティファクトへと向けて放つ。

 すると、重い衝撃とともにアーティファクトはブラックスネークの脳天に深く突き刺さった。


 それと同時に時間の流れがもとに戻り、脳天を突き刺されたブラックスネークは、目から光を消して地面へと倒れた。


「ふぅ……討伐完了。」


 額から伝ってきていた汗を一つ拭うと、周りの魔物を殲滅し終えたナインがこちらに歩み寄ってきた。


「お疲れ様ですマスター。」


「あぁ、ナインも手伝ってくれてありがとな。」


「問題ありません。」


「これで今日の依頼は終了だ。」


 さ、後片付けを…………。


 そして辺りに目を向けると、ブラックスネークの内臓やら、魔物の血やら色んなものが飛び散っていてかなり凄惨な現場になっていた。


「……後片付けのこと考えて倒すべきだったな。」


 今後戦闘で背開きはなるべく使わないようにしよう。後片付けが面倒だ。


それではまた次回お会いしましょ~

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