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 雅楽様の糧になる。

 それはもちろん、子を産んだ後だろうけれど。


「……糧? 恐れながら、意味が分かりかねます」

 玲凛は、ゆっくりと瞬きをした。

「それに花嫁は、花嫁様おひとりです」

「……え?」


 玲凛の言葉に今度はこちらが瞬きをする番だった。


「主は、今まで花嫁を迎え入れられたことはございません。だからこそ、貴女が十六になる今日この日を指折り数えて心待ちにしておいででした。これらの着物も主自ら選ばれたお品です」

「そんな……」


 想定していなかった返しにどう対応したらいいのかわからない。だって、玲凛の言葉だとまるでーー。


 愛している。

 旦那様のさっきの言葉に嘘はなかった。


 でも、それはいつか私が旦那様の糧になるからで。そのことを感謝しての感情かと思っていた。


 それに、旦那様は妖の王。


 力を増すための花嫁ーーつまり糧はいくらあってもいいはず。

 それなのに、私しか花嫁がいない?


「……ほんとうに、愛されているみたい」

 

 ぽつりとつぶやいた言葉は、ゆっくりと空気に溶けた。

 


 愛されている、なんてそんなことあるはずないのに、錯覚しそうになる。


「? 私には生憎、愛というものは分かりかねますが……」

 玲凛は相変わらず無感動な瞳で私を見つめる。

「この着物一つとってもそうですが……主は、花嫁様のために心を尽くしておられます」


 ーーそれを人間は愛、と呼ぶのではないのですか?


「……、玲凛」

「はい」

「私は、雅楽様の子供を産んだら、雅楽様に食べられる……と思ったのだけれど」


 どうかそうであってほしい。

 そうでないと……困る。

 だって、私は旦那様に愛される理由がない。

 あろうことか、他の男への情を心のうちに飼っていたし、そして今まで一度だって、旦那様にあったことはなかった。

 

 そんな私が、本当に旦那様に愛されているわけない……。


「主がそう言ったのですか?」


 玲凛の冷たい声に、はっとする。

「主が、花嫁様をそう扱うと?」

「いえ……違うわ。いつか雅楽様の子供を産んでほしいとは言われたけれど。でも……」


「でも、?」


 玲凛は先ほどの無感動な瞳とは裏腹に怒っているように見えた。


「妖は、人を喰らうと力を増すと聞いたから」

「……なるほど」


 剣呑な色を瞳から消して、玲凛は小さく頷いた。


「花嫁様はまだこの世界についてご存じないですものね。主は、この妖閻の界の王。つまり、糧としての人は必要ございません」


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