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「……ん」

 微睡みから、目を覚ます。何だか随分といい夢を見ていた気がする。そう思いながら、ぱちぱちと瞬きをしていると、黒の穏やかな瞳と目があった。


 その瞳を見て、思い出す。私は『花嫁』として、この方に嫁いだんだわ。

「……雅楽さま」

「ああ、美冬。目覚めたんだね」


 旦那様は、まるで宝物みたいに私の名前を呼ぶ。私はそれが気恥ずかしくて──、それに申し訳なくて目を伏せる。


「美冬?」


 そんな私の頬に白くて長い指が触れた。私にとって心地いい体温を感じながら、いえ、と軽く首を振る。

「あなたを悲しませる何かがあるなら、教えてほしい」


 ここは、あなたを守り慈しむ場所であって、傷つける場所であってはならないのだと、旦那様は付け加えた。


 私は、何と言っていいのか分からず、一度言葉を飲み込んだあと、ゆっくりと息を吐き出した。

「……雅楽さま」

「うん?」


「私は……『花嫁』でありながら、他の男性を──」

 言いかけた言葉は、唇に当てられた人差し指によって遮られる。

「美冬。それ以上は、いけないよ」

 そう言った旦那様の瞳は相も変わらず穏やかだ。美しい顔で、旦那様は言う。


「そうでないと──、俺はその男を殺さなくてはならなくなる」

「っ!」


 それは、駄目だ。亮平さんは、私の初恋の人で──お姉様の婚約者だ。そして、いずれ筝蔵を継ぐお方。そんな方が殺されていいはずない。


 それに。それに、簡単に人を殺めるという言葉がでてくるのは──こんなに美しく、穏やかな顔をしていても、旦那様は妖なのだ。


 私は、血液が、足元まで下がるのを感じながら、唇を噛み締める。

「そんな顔をしないで、美冬」


 旦那様は、そんな私の唇をそっとなぞると、額と額をくっつけた。

「言っただろう。俺は、あなたの心が俺に追い付くまで待つと」

「……はい」


 頷く。旦那様の言葉を忘れたわけではなかった。私も旦那様のことを知りたいと思ったのは、事実だから。

「その言葉を嘘にさせないで」


 心臓がどくり、どくりと脈を打つ。体を密着させているせいか、旦那様の鼓動も聞こえてくる。……妖にも、心臓はあるのね。

 旦那様の鼓動を感じると、私自身の鼓動も共鳴するように、脈を打っている気がした。……なんて、気のせいだけれど。


「わかりました」

「うん。俺は、あなたを愛しているよ」


 掛け値なしの愛の言葉。それに何か違和感を覚えた。なぜだろう。


 ……私が、子を産むまで、という期限つきの言葉だからかしら。


 そう自分を納得させ、私は、はた、と自分の格好を見て、気づく。

「雅楽さま」

「どうした?」

「白無垢をいつまで着ておくべきでしょうか」

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