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本来なら、許すも何もない。私は、既に旦那様のモノだし、どう扱われたって文句は言えない。心の中に他の男性への情を飼っていることだって、許されるべきではない。それなのに、旦那様は、なんて優しい方なのだろう。


 黒い瞳を見つめる。相変わらず、穏やかな瞳だ。どこまでも深いその色に吸い込まれてしまいそう。

「雅楽様、私は。私は、あなたのことが知りたいと、そう思います。不束者ではありますが、私をおそばにおいてはいただけませんか?」

たとえ、それが子を産むまでの間だとしても。

「つまり、俺を許す、と」


 黒い翼をもつ、妖の王の旦那様。



 旦那様は、ひとつ笑みを零すと、私の横に寝転んだ。黒い翼は、それと同時に消える。

「え――」

「いっただろう。あなたの心が追いつくまで待つと。それまで、何も――いや、こうして触れることくらいは大目に見てくれ」

旦那様の骨ばった大きな手が私の手を包む。手を引かれていた時はそんなになにも感じなかったけれど。私は、いずれ妖に嫁ぐ花嫁として、男性との接触はほぼない。こうして、手を繋ぐことも初めてだ。


 旦那様は妖だからか、体温はそれほど高くない。けれど、私にとってとても心地いい温度だった。まるで、ずっと前からこの温度を知っていたような。触れた部分から熱が混ざり合って、一つになるような気がした。そのことを意識したのを最後に意識が遠ざかる。


「おやすみ、美冬。……いい夢を」




◇◇◇

 「背の君」

私は、背の君を見つけて駆けだした。背の君は、橋の上で現世を眺めている。

「ああ、妹」

私の存在に気づいた背の君は楽しげに笑う。その笑みを愛しくおもって、それと同時に嫉妬心がわきあがる。背の君は、いつも現世に夢中だ。

「そんなに現世が気になりますか?」

頬を膨らませた私に、背の君は苦笑して答えた。

「妹が過ごした世だから、気にはなる。どんな暮らしをしていたのかと」

「ならば、次は現世での私の生活を背の君の夢と繋げましょう」

「それは楽しみだ」


 背の君が、笑う。背の君の笑みは、もちろん、私は、『次』を肯定してくれたことに安堵する。背の君の隣は、誰にも渡せない。


 そんなことを考えていると、背の君の顔が近づいた。背の君との口づけはどこまでも、甘美だ。その甘さに溶けそうになった私を支えてくださる。とても、幸福だとそう思った。


お読みくださり、ありがとうございます。もし、よろしければ、ブックマークや☆評価などいただけましたら、今後の励みになります。

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