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 旦那様の手をとると、一陣の風が私たちを包んだ。風がやんだとき、そこは自室ではなかった。


 私たちは朱い橋の上にたっていた。空を見上げると、紫の雲に覆われていた月が姿を見せる。さっきまで夕日を浴びていたのに。そう思ってから、思い出す。妖閻の界に、太陽はない。それなのに、なぜ月が輝くのか不思議ではあるけれど。


 けれど、ここはもう現実世界ではない。それだけで、その不思議を片付ける理由にはなった。


「花嫁、名を、聞いても?」

旦那様が、私を見つめた。黒く穏やかな瞳と目が合う。

「美冬、と申します」

「そうか、美冬。よき名だ」

そういって、ふわりと笑った。何度か舌に馴染ませるように、私の名を呼ぶ。



 「美冬、俺の名は、雅楽。名を呼んでくれないか」

雅楽。それが、私の旦那様の名前。

「……雅楽様」

ただ、名を呼んだだけ。それなのに嬉しそうに目を細めて、私の頬に右手を当てた。そうされて、気づく。旦那様の右手の小指にも私と同じ黒い糸がからまっており、その糸の先は私と繋がっていた。



 「ずっとあなたを待っていた。ようやく、会えた」



 それは、やはり、人を喰らうと妖は力を増すからだろうか。力を増すための道具が来るのを待っていた──?


 どんな風に喰らわれるのだろう。


 頭から? それとも──。


 「美冬、こちらへ」


旦那様に手を引かれ、橋の上を歩く。朱い橋を渡り終えると、大きな屋敷の前についた。門を潜ると、多くの人──いいえ、妖たちが、頭を下げて整列していた。


 「おかえりなさいませ、我が君。そして、妃殿下」


 妃?


 妖は、花嫁のことを妃と呼ぶのかしら。疑問に思いながら、横の旦那様の顔を見上げる。


 旦那様は苦笑して、お面を外した。


 お面を外すと、再び、風が吹く。風がやんだとき、旦那様の姿は変わっていた。その背には、とても大きな黒い翼がついている。それに──。お面を外したことでわかる。旦那様はとても美しい。なにより、目尻に金の刺青があった。


 金の刺青。それは。


 妖の王に受け継がれるモノだった。

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