十四
だって、妃殿下は奥さんだもんね! そういって、きらきらした瞳で私を見つめる。
「僕たちは、渾名だけど名乗ってもいい?」
「もちろん。あなたたちの名前を教えて欲しいわ」
微笑むと、鬼の子から渾名を教えてくれた。
二つの赤い角が印象的だ。
「僕は、紅玉」
次は妖狐の子。ふわふわな銀の髪がとても綺麗だ。
「おれは、時雨だよ」
そして、最後は鴉天狗の子。水色の瞳が可愛らしい。
「オイラは、飛翔」
みんな得意げな表情で自分の胸を叩いた。
「紅玉、時雨、飛翔。……みんなよろしくね」
さて、子供達をもう一度座らせなきゃ……。
「妃殿下」
「時雨? どうしたの?」
妖狐の時雨が私の手を掴んだ。
そして、すん、と私の手を嗅ぐ。
「おれ、匂いに敏感なの」
「そうなのね?」
手汗とかかしら?
ショックを受けつつ、慌ててハンカチで手を拭おうとすると、時雨は首を振った。
「違うよ、妃殿下。汗とかじゃなくて……えっとね」
時雨は言葉を探すように、うーん、と唸った。
「僕はなにも感じないけどなー。飛翔はどう?」
鬼の紅玉は、首を傾げた。
「オイラも別になにも」
鴉天狗の飛翔も首を振って、時雨を見る。
「おれの……勘違いかも」
時雨はしょんぼりとしてしまった。
柔らかそうな尻尾もぺたりと垂れている。
「時雨、大丈夫よ」
私は微笑むと、時雨の頭を撫でた。
「何か教えてくれようとしたのよね。ありがとう」
「……うん」
時雨は不安そうな顔で俯いた後、小さく首を振り、顔を上げた。
「それで、それでー? 妃殿下、何か教えてくれるんでしょ?」
鬼の紅玉の言葉にはっとする。
とりあえず、今度こそみんなを席に座らせ、教壇の前に立つ。
旦那様には、将来子供たちが花嫁を迎える時のために、色々教えて欲しいと言われたけど……。
「みんなは何が知りたい?」
この子達は何を知っていて、何を知らないのか。
そこをまずは把握しないと。
「えとねー、花嫁が喜ぶこと!」
みんな口を揃えてそう言った。
一人一人違う意見が出るかと思っていたので、予想外だわ。
「だってだって、現世からわざわざこの世界に来てくれるんだよー!」
「せっかくなら喜んで欲しいなー」
「嫌われたくないもん」
そうね、と頷きながら、そういえば……、と思う。
「この世界の妖がみんな『花嫁』を迎えるわけではないのよね?」