十一
慌てて指輪を引き抜こうと触れると、指輪は消えてしまった。
「ふーん、なるほど。『指輪』は僕が初ってことは、今代の王サマはずいぶんとお優しい」
銀葉はそういうと、私の左手の甲に口づける。
「またね、美冬――」
振り払った手をあっさりとかわして、銀葉は窓枠に足をかけ飛び降りた。
慌てて下を見たけど、銀葉の姿はどこにも見当たらない。
「……は、ぁ」
息を吐く。
何だったのかしら、いったい。
でも……。
左手の薬指を触っても、いつもの指があるだけだ。
でも、先ほどの指輪をはめたときの冷たい感触をまだ体は覚えていた。
……花嫁、狙いかしら。
妖の力を増すために、私を喰らいたかったのかしら。
それにしては、すぐに食べなかったのが不思議だけど。
ひとまず、さっきのことを報告しなければ。
玲凛からもらった藍色の鈴を取り出して振る。
すぐに玲凛はやってきた。
「はい」
「あのね――あの、ね」
銀葉のことを話そうとした。
でも、不思議と声にならない。
はくはく、と口を開けたり閉じたりしている私を不思議そうに玲凛が見つめる。
「花嫁様?」
銀葉、の言葉も、妖狐、の言葉も口から出てこない。
だったら――。
「ねぇ、玲凛。さっき私以外声がしなかった?」
「いいえ、聞こえておりませんが……」
「……そう」
指を見つめる。
指輪の感触はまだ、残っている……でも、玲凛の不思議そうな瞳を見ていると、だんだん自分が疑わしくなってきた。
私は本当に、何かを見たのだろうか。
何かをされたのだろうか。
薬指に指輪がはまっていないし、銀葉の名前も言葉にならない。
「花嫁様?」
「……いえ、なんでもないわ」
小さく首を振る。
「急に呼び出してごめんなさい」
「謝罪は不要です。それが私の仕事なので」
無感動にそう言うと、玲凛は、またご用命の際は鈴を鳴らしてください、と退出した。
「……はぁ」
一人残された部屋で、月に右手をかざす。
右手の小指の先には旦那様へと繋がっている黒い糸が、絡まっていた。
「白昼夢でも……見たのかしら」
私は、旦那様の『花嫁』だ。
旦那様から箏蔵の家に与えられたものに報いるために、ここにいる。
それなのに夢とはいえ、別の男性に指輪をはめられるなんて。
……最低だわ。
自分に呆れかえりながら、布団に横になる。
さきほど旦那様の前でうたた寝をしたものの、なんだか体が疲れていた。
今度こそ、白昼夢のような夢を見ませんように、と願いながら、目を閉じた。
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