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「糧としての人が必要ない……」

「はい」


 玲凛は頷くと続けた。

「妖の中には、人を喰らうというものもいるそうですがーー主はこれまでの妖の王の中でも最も力が強いお方です」

「そう……なのね」


 じゃあ、でも……本当に?

 本当に、あの言葉に嘘がないというのなら。


「では、玲凛は、『運命の花嫁』という存在を知っている?」

「……? いえ」


 藍色の瞳は本当に知らないと語っていた。

「……そうなのね」


 もし、本当に旦那様が私を愛する理由があるとすれば、それは、私が……特別な存在だからなのではないかと思った。私が生まれるずっと前から嫁ぐことが決まっていた花嫁。だからこそ、旦那様にとって特別なのではないかと。


 ……なんて、思い上がりがすぎたみたいだ。

 たまたま箏蔵に産まれて、この黒い糸が絡まったさきが私だった。

 それだけ、のことだろう。


 何となくがっかりするようなほっとするような相反する気持ちでないまぜになる。


 ……私は、何をしたいのかしら。

 食べられなくてほっとする、ならわかる。

 これは自然な感情だわ。

 死ぬかもしれないと思って嫁いだら、実は死ぬ必要が元よりなくて、安心するのは普通だもの。


 でも、愛される理由がわからなくて、不安だなんて。

 そんな理由を、玲凛に求めても仕方ない。

 気になるなら旦那様に聞くしかないのだ。


「ところで花嫁様」

 玲凛に呼ばれてはっとする。

「どうしたの?」

「こちらをお持ちください」


 玲凛は、私の手の中に藍色の鈴を落とした。

「こちらを鳴らせばいつでも花嫁様の元へ駆けつけます」

「ありがとう、玲凛」

 鈴を無くさないように、そっと、胸元にしまう。


「いえ。……本日はお疲れでしょうし、一度私は退室いたします。何かご用命がありましたら、鈴を」


 ぺこりと礼をして、玲凛は去っていった。


「……」

 玲凛も、旦那様も、この部屋からいなくなってしまった。


 開け放たれた窓からは、相変わらず月明かりが差し込んでいる。


 窓枠に手を置いて、月を眺める。

 煌々と輝く月は、今まで見てきたものとそう変わりはないように見える。


 でも、その月の周りの紫の雲が、体にまとわりつくような空気が、この世界が元の世界とは違うのだと示していた。


「お母様、お父様……春美お姉様」


 私はどうやらまだ生きていて。

 これからも、食べられる予定は今のところはないようです。だから、安心してくださいね。


 家族には聞こえない言葉を、そっと呟く。


 そのときだった。

 月明かりの中、はらりと部屋の中に何か舞い落ちてきた。

いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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