第91話 異名
村に海鮮食材を持ち込んで、今日の苦労を労う。頑張ってくれたので俺も頑張ろう。
...
「うむ。これは美味い!」
「ほんと...醤油との相性抜群だわ」
「ウフフ、本当ですわね。なんだか嬉しくなりますわ」
「あたし達とは相性悪かったのに!醤油に負けた!これは完敗ね!」
「ぴぉ?」
「シーアなんだそりゃ!」
ランドオクトは塩茹でし、ぶつ切りに切り分けた。帆立は網で炭火で焼き、フツフツと美味しそうに焼きあがっている。蟹は薄目の加減で塩茹でしたものを大皿に並べている。色味が鮮やかでこちらもとても美味しそう。
「アガダデに食感が似てるけど全然美味しいな!なんだこりゃ?」
「玄武様、これはタコというものですのよ」
「帆立...バター醤油も美味しいぃぃぃ!」
「...蟹初めて食べた...美味しい...」
「ハマグリも美味しいですわ」
「ぴぇぴぇー!」
「タコもプリプリですわね!苦労のかいがありましたわ」
「うむ。食感もいいな」
「蟹のここはなんで焼けてんの?」
「それはリネアの火炎の槍:(ヒート・ジャベリン)かな」
「焼かれ具合からみてもダメージ入ってたんだね」
「えぇ!?本当でございますか!?当たっても全然へっちゃらで動いてましたので、がっかりしてましたのに」
「効いてるなら効いてるって言って欲しいものですわ!」
「ハハハ...あぁそうか、蟹は直火で焼いても美味いよきっと!焼く?焼く?」
「「『 焼くー 』」」
「しかし蟹のこのタレがうまいなぁ」
「これはねぇ、カノンさんに教えてもらったのぉ」
「醤油とお酢ですわね」
「へぇ。こんな食べ方もあるんだなぁ」
「たくさんあるからさぁ、明日馬車乗らない人は、また村人に作ってあげてよ」
...
...
「カノン!次の予定は?」
「次はダンジョンの街、ルーレットだっけ?」
「そうね...カリオールとの国境まですぐの街で、ダンジョンのある街よ」
「うむ。ワシは行ったことがない街だが、ダンジョンで栄えてるということであるか?」
「ウフフ、そうですわね」
ダンジョンのメンバーをどうしようか考え中だが、リリルルだけは一緒にダンジョンに入って欲しくないものである。薄暗いダンジョン...何度も迫る魔物...そこにリリルルの阿修羅モード...。
考えただけでも身震いするし、リネアが蹲ってしまいそうである。丁重にお断りしたいものだ。
...
...
その後ピピンでメガクラブの討伐証明となるハサミを提出し、依頼を完了させる。その足でメガクラブと戦った場所からルーレットを目指し、一日半でルーレットの街に到着した。
ルーレットはアロンソ領の東部に位置する街で、隣国カリオールとの国境近くにある街だ。
ルーレットはダンジョンを抱える街で、ダンジョンに出入りする冒険者が使うお金を目的に、街が形成されていったらしい。街の由来はルミナーゼに似ている。ルミナーゼに比べると粗野な感じがするが、それは事実だ。今まで行ったことのある街の中でも、特に冒険者が多い街なのである。
冒険者ギルドに入り、支部長さんに挨拶しようと、職員の方に呼び出して貰った後、支部長さんが出てくるのを待っている間、他の冒険者の声が耳に入ってきた。
「おい...あれって「氷の魔女」じゃねぇのか」
「それより...ほら「エルフの原石」だろ...」
一部の冒険者には、デザイアやユウリを知っている者もいるようだ。
「ばっか、それよりあいつだろ...このあいだ王都の討伐ですげえ魔法使った...」
「あぁ、「戦艦と城壁」のカノンだ...」
...地底湖の討伐の際には、余り顔も名前も売れて欲しくなかった為に、わざわざ仮面を用意したり、ハインケルさんに討伐の条件として「名前を伏せること」を条件にしていたのだが、今となってはむしろ、名前も顔も売れて欲しいとは思っているのだ。そのほうが、俺達がまだ見ぬエルフが見つかる可能性が高くなるからだ。
少し安直かなとは思いつつも、異名とか二つ名がついたことは、これからの冒険者としての活動を鑑みればいいことだと思う。ただもう少し捻りが欲しかった。そう思ったのである。
暫くすると支部長のイルムスさんが出てきて挨拶をしてくれた。明日以降ダンジョンに入ることを伝え、挨拶を終えた。
「ねぇ、ちょっと聞いてた?ユウリが「エルフの原石」だって!」
「ウフフ、素敵な異名ですね」
「少し恥ずかしいのですが...」
「あたしも異名が欲しい!」
「シーアだと...「お喋りシーア」とかか?...痛っ!」
「うむ。でも流石デザイアだな、特にこちらの地域では高名なようだ」
「...魔女とか可愛くない...」
「それよりカノンさんだろ」
「「戦艦と城壁」だって!そのまんまじゃん!」
「この間、だいぶ目立っちゃったからねぇ」
「なんで戦艦と城壁なんですの?」
「あぁ、それは多分、魔法の見た目だけだね...」
「あら?そんな魔法...聞いたことないけどねぇ?」
「まぁ...それは秘密ですから...」
ダンジョンは明日以降の予定となる。ダンジョン内での食事の準備もあるし、どこかで買い物でもして村に戻るとしよう。
思いがけず、ルーレットの街はこの先結構出てくる予定です。トライデント国で一番東に位置するため、その先の国に渡る時の拠点になる予定です。
あと数話で新章に切り替わる予定です!またステータスの設定資料なども用意のつもりですので、いま暫くお楽しみにお待ちください!
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