第86話 目指すは東
食事会は大いに盛り上がり、お腹を満たした面々はルメリオさんが持ち込んだ、リバーシに興じている。
「ふむ。これはチェスに比べて、単純であるが...単純ゆえにまたこれも良いものだな」
「これは一般向けと...ほう。流石だな。よく考えられておる...。これもカノンの販売戦略とな?」
国王様の受けもよく、ルメリオさんは満足気だ。国王のお墨付きとして宣伝できることだろう。
...
リバーシも何となく興味が一巡したころ、続いてロックの買取の件となる。
「ふむ。カノンよ。貴重な魔物素材だ、できるだけ国で買取りたいと考えるが、いかがだろうか?」
「えぇ。国王様、私達はその「羽」の一部で装備を整えたいと考えていまして、それと...処理できない分の肉がありましたら、持ち帰ろうかと...まぁ...希望としてはそれくらいでしょうか」
「そうか、すまないな。ではどうであろう。羽による装備は、王宮で抱える職人に作らせよう。さすれば手間もかかるまい。準備する分は...カノン冒険者一行で十着ほどの装備を準備させるようなイメージでどうであろう?」
「えぇ。国王様ありがとうございます。ではその十着分。それと別で二人分程度の羽も、素材のままお返し頂けると助かります。職人の方とは私どもで直接希望を申し上げても良いのでしょうか?」
「うむ。問題ない。職人と打ち合わせて、現状の装備の強化をするのも良いだろうし、全く新しいものを作ってもよい。」
「無論、買取り分は金貨で支払いもするが、その装備を整える分の費用も、国で負担しよう。せめてもの礼だ。リネアを迎えに来るタイミングで、職人と打ち合わせて、採寸などすませても良いだろう。」
「ちなみに二名分の羽はどうするつもりだ?」
「はい。ありがとうございます。二名分の羽の用途は、まだ考えていないのですが...。一人分はブランケットの文をくださった女性に、お渡ししても良いかなと思っております」
「ほう。参考までに何故なのか聞いてもよいか?」
「そうですね。今回の討伐対象、ロック鳥はこれまで対敵した魔物の中で、一番の強敵でした。間接的に人間の敵となった魔物でしたが、その強さも美しさも、こう...言葉に表現できないものがございましたので。」
「文をくださった女性は服を仕立てていらっしゃるようでしたので、記念というか...その魔物が存在したという証に、何か服を仕立てていただけたらとも思うのです。」
「まぁ、お肉の一部は唐揚げで食べちゃったわけですから、何言ってんだって感じなのでしょうが」
「ふむ。魔物の美しいところを感じたと...。そうか、なかなか聞く話ではないだけに...わからんでもないな」
「ロック鳥の素材を、初めて目の当たりにしたが...特に羽と嘴、爪は見事なものだったからな」
「なかなか面白い話だ...。そうだな...宮廷画家にでも、そんな絵を描かせてもいいかもしれないな」
「宮廷画家ですか」
「うむ。普段は肖像画や人物の彫刻などをしている、画家だな。興味があれば提案しても面白いかもしれんな」
...
こうして無事に食事会と報告会は終了を迎えたのだった。ノクトームさんとルメリオさんと別れ、レイミー、ナージャ、ミディは村に送った。俺達一行はまた明日、リネア王女を迎えにいかないとならないが、装備の新調のためもあるので、宿に泊まることになる。今は宿の酒場で軽く打ち合わせ中だ。
「カノン?あんな貴重な素材で俺達の分もいいのか?」
「うん。持ってるだけじゃぁ意味ないし、お金もまだ十分でしょ?」
「えー、じゃああたしどうしようかなー」
「羽がさ、すっごい防刃効果があるからさ、前衛のみんなは多分、装備の裏地とかにいいかもしれないし、ベストとかインナーとかでもいいかもな」
「ほんで後衛はローブとか、インナーとかそんな感じかな」
「ウフフ、そんなに凄いのですか?」
「俺のね、本気の一撃で刃が通らなかったからね...」
「完全に奇襲だったのに...ちょっとショックだった」
「えぇ!?カノンさんの一撃でぇ?」
「...それは凄い...」
「あと、もしかすると、氷属性とか雷属性に耐性もあるかもしれない」
「ふむ。耐性とな」
「そうなんですよ、ロックが氷属性の魔法を放ってきたのと、放った雷属性の魔法の効きが良くなかったので」
「カノンさん、でも他は試してないんだろ?ロックだし、他の耐性もあるかもな」
「あぁ、言われてみるとそうかも...」
「カノン様、楽しみですわね、ありがとうございます」
「カノンあなた...わたしの分はあるのかい?」
「え?ダウラスさんの分はないですよ?」
「えぇ!?カノン...わたしは傷ついたわ...」
「だってダウラスさんは冒険者じゃないじゃないですか!」
「あぁ、でもリンドルさんには素材をお渡ししようと思ってまして...」
「カノンあなた...わたしを差し置いて...、でもリンドルに言って、それでわたし用を作ってもらってもいいわけね?」
「じゃぁいいですよ、ダウラスさんの分も明日お願いしてみますから!」
「多分、断られたりはしないでしょうし」
「えぇ?ほんと?嬉しいわ」
「じゃぁ...わたしも今晩は、ここに泊まらないとならないわね?」
「ムムム」
「それより、リネア王女の件はどうなるのよ?」
「うーん。まぁ普通でいいんじゃないかって思うんだよね?」
「...普通?...」
「うん。国王様も預けるってのが、どういうことかは十分理解されているだろうし...」
「本人の希望だって言うんだからね」
「カノンさん?ゲートはどうするんだい?」
「あぁ。ゲートも大丈夫でしょ。一応、王宮にも口外しないでということにはするけど」
「ウフフ、まぁわたし達もそうですからね」
「それに...ロックの羽装備を整える中に、リネア王女の分も入れておいたし」
「万一にも、自分から危険に飛び込むようなことがなければ大丈夫でしょ」
「それで...カノンさんは明日以降はどうされるんですかぁ?」
「うーん、そうだよねぇ。まだ国内でも回ってない地域もあるしなぁ」
「だったら!東の地域を目指さない!トーレとかピピンとか!カリオール方面!」
「東の地域?」
「そう、トマトとか野菜が美味しいのよね!」
「あ、わたしもいきたいなぁ」
「トマトかぁ、村にはないもんなぁ」
「うむ。ピピンとかであれば海産物も期待できるな」
「海産物!いいですねぇ!」
「よっし!決まり!あたし絶対行く!」
「わたしも行きますぅ」
「じゃぁ...わたしもいこうかしらね」
「ムムッ、ダウラスさんはお仕事ありますわよね?」
「ギルドの?ううん。あれは大丈夫...元からわたしがいなくても回るくらい、ちゃーんと教育していますからね」
(ファンか...)
(ファンだな...)
(たぶんファンだろうな)
「お嬢ちゃん達の指導も...お仕事の内よ...?」
(ムムッ、反論しづらいですわ...)
「じゃぁリンドルさんのとこに素材置きに行ったらそんな感じかな?」
「行けるとこまで行って、夜はゲートで戻ってくる感じだね」
「ウフフ、そうしましたら途中で交代してもよろしいですわね」
「そうだね、身体が鈍ってる人はラクレットのギルドで依頼こなしたり、東を目指したり?」
「「「「「「「「「さんせーい!」」」」」」」」」
リネアに冒険者としての旅や経験を積ませる意味で、ゲートではない普通の冒険者の旅をする予定です。
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