第9話 ユウリとラクレット
俺はいま、ユウリと一緒にラクレットの街のそばまで来た。
といってもゲートを使ったのでほんの一瞬のことだったけど...。
街に直接ゲートでいくのはまずいと思ったので、初めてアリアと会った場所に出たのだ。
「どうしたの?ユウリ?」
少しユウリの表情が暗い。
「いえカノン様問題ございませんわ」
「ただ...街に来るのが久しぶりでして...。」
「まあ基本的に交流しないってことだったからね」
(一応ユウリも耳だけ人間に寄せて、深めのフード付きのコートを羽織っている。
でもユウリの顔立ちならエルフとわかるんじゃないかな)
(まぁ、いざとなればゲートでユウリと逃げることもできるし...。)
(それに...。)
チラッと俺の手を確認する。
...
「おおい!なんだか久しぶりだな!まだここいらにいたのかい」
門番の男性が手を振りながら近づいてきた。
「ええ、数週ぶりに戻りました!」
「なんだい俺が知らない間にいなくなっちまったもんだから、少し心配したんだぜ?」
「それより、医者がどうのとか。大丈夫だったのかね?」
「まさかそちらさんが...。」
とユウリを覗き込む素振りだ。
「いえいえ、このお方は途中でお会いしたので、
聞けば行く先が同じ方向でしたのでご一緒したまでですよ」
「ふーん。しかし兄さんもアレだね?なかなか隅におけないね!」
「こんな美人さんと一緒だなんてな!」
バシバシっ
(普通に痛い...。)
...
「ハハ...」
「じゃあちょっとアレなんで...。」
そそくさとラクレットの街に入る。
…
(あぁそうだ、宿屋の女将さんにも挨拶だけはしとこうかな)
「すいませんこんにちはー」
女将さんがいらっしゃいませーとカウンターに出てきた。
店には他に誰もいない様子だ。
「ああ、あんたこないだの!」
「なんだかすぐにいなくなっちまうんだもの!あんた心配したんだよ?」
「ああ申し訳ない」
「一週間分も払って貰ったってのにすぐにいなくなっちまうんだから!」
「お金は返せないけど、数日なら融通するし、なんなら食事だけでも
だそうかね?」
「あぁいえ、今日は結構ですので機会があるときにお願いします」
「そうかい?なんだか悪くてねえ」
「じゃあ腹が減ったりしたら遠慮なくウチにおいで!」
「あそうそう、このあいだあんたからいただいた魚は随分評判よかったよ」
「そっちも仕入れることがあったら声かけとくれ」
(相変わらず距離感の近い女将さんだな)
「じゃあ食事の代わりに少しお話し聞いてもいいですか?」
「うん。構わないよ」
カウンターの席に腰をかけ、女将さんに質問する。
「今度は冒険者になろうと思って、冒険者登録をしようと考えているのですが、
この街で冒険者登録ができるギルドとかはあるのでしょうか?」
「おや冒険者にねぇ」
「いっちゃなんだけどあんたは冒険者にみえないけどねぇ」
「ハハハ」
乾いた笑い
「まあ冒険者登録はだれでもできるみたいだし、いいんじゃないかい?」
「ただこの街にあるのは支部だから、この街のギルドじゃ登録はできなかったと
思うよ?」
「それよりあんた!隣のこちらさんはどなたなんだい?」
「目鼻顔立ちからするとエルフさんだよねぇ?」
「随分美人さんじゃないか!」
一瞬ドキっとしたが、悪意はない様子だ
それを察してユウリが返事をした。
「私はエルフで間違いございません。何かご気分を害してしまったでしょうか?」
ユウリがやや不安な様子で声にした。
「いやいやごめんなさいね。気分を害するなんてとんでもない!」
「この街にもエルフが訪れることは知っているんだけど、
なかなかこうして話す機会がなくってさ!」
「門番のアンソニーさんが気付いて、街にエルフがくる度に話にはなるんだけど、
エルフの方達も私たちに遠慮しているのか、そそくさといなくなってしまうだろ?」
「まあ昔あった出来事を考えれば、人間が警戒されても当然なんだろうって、
ひとりで訪れるエルフには皆気づかないふりをしているのさ」
「だからあんたも安心しな!」
「この街にはエルフを特別な目でみる人間なんていやしないんだから!」
「そんなやつがいたら街中の人間でそいつを追い出してやるさ!」
女将さんの言葉は温かく、ユウリにもそれが届いている様子だ。
「女将さん、ありがとうございます」
「村の皆にも伝えたいと思いますわ」
本当に嬉しかったのだろう。ユウリがうっすらと涙目になっているようだった。
「じゃあほらこれはあたしのおごりだよ!なんかあったら頼ってくるんだよ!」
と言って、女将さんは温かいスープをだしてくれた。
せっかくの厚意だし、スープをいただきながら女将さんとしばらく談笑した。
...
「またくるんだよー!」
...
「ユウリ、良かったじゃないか」
「ハイ、カノン様」
「なんだかこれだけでも街に来た価値があったというものですわ」
優しい笑顔をユウリがするもんだから、俺も凄くうれしい気分だ。
「ところでカノン様、この街では冒険者登録ができそうもありませんでしたね?」
「あぁ、まぁ魔物の素材の買取はやっているみたいだから、ギルドにはいってみようか」
...
「女将さんが言っていたのはこのあたりだよな...。」
そう言ってあたりを見回すと、ちょっと先に少し大きな建物を発見した。
「ここで間違いなさそうだね」
俺たちはこうしてギルドを訪ねたのだった。
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