第82話 巨大妖鳥ロック
第82話と第83話の同時公開です。
(あ...やば...飛び立つかも...)
そう思った時には、ロックはすでに羽搏きはじめ、軽く飛び上がり宙に浮き始めていた。普通なら逃げられて討伐失敗という感じのシーンだ。
だけど...ここでもうひとつ俺の仕掛けが作動し始めていることを理解した俺は慌てない。
ロックは巣のある小高い丘の先端、そのグランドレベルから十メートルくらいの高さまでとんだところで、その魔法に完全に捕まることになる。
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴゴゴゴゴゴッ!!
合成魔法
土星の重監獄改:(サターン・グリズディ)
マジックリング
★4 罠:(ザ・トラップ)
岩操鉄槌:(アース・マニュアル・ハンマー)と重力監獄:(グラビティ・プリズン)の合成魔法である。重力監獄:(グラビティ・プリズン)の重力、圧力だけでは、SS級の魔物、しかも巨体が飛び立つほどのエネルギーを秘めた魔物を、その魔法力で潰す、または封することはできないかもしれない。なのでそれに加えて、岩、土の重さも加え、魔力で岩を強固に練り上げ、堅牢に固めるという魔法である。
普通の魔物なら跡形も残らないほどに「潰される」だろう。しかしこの魔法の実力はそれだけではない。普通ではない今回のような大物であっても、確実に拘束され、身動きが取れなくなるのだ。氷拘束:(アイス・バインド)とはわけが違う。
ロックぐらいの巨体の全てが埋まるほどの質量の岩と土に、重力と圧力が加わり圧縮されるのだから、その巨大な塊は、もうほど地面...「大地」と比喩できるくらいの代物である。いうなれば地中深くに埋められたようなものなのだ。
ロックは莫大なエネルギーを使い、羽を羽搏かせることで空を飛ぶわけだが、そのエネルギーを生み出す羽が、地中に埋められたの如く重く固まり、ピクリとも動かない状態になるのだ。飛べるわけがない。
そして今回のポイントがマジックリング★4 罠:(ザ・トラップ)である。
初手でこの魔法を放てば、完全にロックを縛り、封殺できたかもしれないが、今回は奇襲...魔剣のその一撃でロックの首を刎ねてしまう方が決着は早かったので、それをしなかったのである。
そしてもしも、この魔法を初手とした場合だと、発動から拘束されるまでに多少時間がかかるのもネックだったのだ。折角のチャンスが奇襲にならないのだ。だからこの魔法は奥の手として...★4 罠:(ザ・トラップ)として発動させたのだ。
これだけの巨体である。羽搏き、空を飛び始めるのにも、ハトやスズメのように瞬間的に飛び立つことはできないだろう。羽搏くまでのその時間を利用すれば、土星の重監獄改:(サターン・グリズディ)のネックとなる発動の「遅さ」は気にならないだろうと思ったのだ。
...完全にその巨大な塊に囚われたロックは、飛び上がった十メートルほどの高さから、今度は百メートルくらいある崖下に、塊ごと落下する。
ドガーンッ!
高さが相当にあるので、崖下で落下死しているだろう。
そう思ってカミュに運んでもらったが、ここでもSS級の凄さを感じる。まだ完全には死んでいなかったのだ。
もう動かないし、動けないのは明白である。あんなに大きく立派だった羽はひしゃげ、鋭く巨大な嘴も割れてしまっている。
こんなにも間近で対敵した俺だからこそ、この魔物の強さは理解しているのだが、今はもう、その陰もない。実に無惨である。
せめて安らかにとどめを刺してやろう。
★4 吸血:(ヴァンパイア)の効果を付与した魔剣を首元の傷にたて、首を刎ねるように突き刺す。
強靭な羽が邪魔をし、首を刎ねることはできなかったが、絶え絶えだった息はやがて静かになり、決着が着く。
何も直接人間を襲ったわけではなかった。ただ本能的に家畜を餌とし、生きていただけの鳥だっただけに、俺を全力で威嚇してきたあの瞬間、羽を大きく広げた、あの強さと逞しさと美しさが、頭に残る。
だが、もしかしたら俺が知らないだけで、もしかしたら人間を直接襲ったこともあったかもしれないし、家畜がいなくなれば、近い将来そうしたのかもしれないのだ。
そう思い、少し複雑な気持ちで亡骸をゲートに格納した。
リンドルさんやダウラスさんにも、そういう魔物だったと伝え、ロックの怖さ、強さ、逞しさが何か後世に向けて、記録や記憶に残ってもらいたいものである。それくらい...ある意味で、完成された巨大で美しい鳥だったと、自信を持って言える魔物との戦いだったと思うのだ。
合成魔法土星の重監獄改:(サターン・グリズディ)+マジックリング★4 罠:(ザ・トラップ)は第80話中盤、主人公が奇襲をかける際に、念のため魔法を発動している描写があります。
★ご覧いただきありがとうございます★
☆すでに評価/ブクマ下さっています方、ありがとうございます!
☆ご新規の方、モチベに繋がりますので、よろしければブクマと評価頂ければ幸いです!




