第75話 三つの実績、三つの希望、三つの褒美で一つの結果
雨期が明け、数日が経過するタイミングで、王宮内で軽い催しものが行われた。
参加者はトライデント国王様と大臣とその配下、領主様方、王直轄の騎士団、そして国内冒険者ギルドの各支部長の一部とギルドマスター数人、そして俺の仲間の冒険者達と、村から連れてきたエルフ数人にルメリオさんだ。
なるべく重くない形でとお願いしていたのだが、結局俺を知る関係者はひと通り集まったようだ。むしろ知らない顔はあまりいない。そういった意味では内輪に留めてくださったわけだが、思ったより参加者は多かった。
国王がこの催しに際して、その内容を会場の皆に宣言する。
国王が見守る中、騎士団長に代わり、アイオロスさんから勲章を授与される。
授与される側は代表として俺とユウリとなった。
「カノン殿、おめでとう!」
「ユウリ殿、おめでとう!」
アイオロスさんは皆に聞こえる程度の大きな声でそう言い、少し俺の顔をみて笑顔を見せる。
知っている顔が多いこともあり、流石に俺も照れくさい。
そしてアイオロスさんがユウリの顔を見る時、顔がでれていることは完全にわかったのだ。
...
...この催しは国王様が俺の褒美の希望を聞き届けて下さった結果だ。
俺の褒美の希望は三つ。
三つって多くないか?って感じだが、内容はそうでもない。
一つが、ユウリを含む、俺と俺の冒険者仲間に、騎士に準じる程度の勲章の授与
一つが、国内で開かれる催しものへの俺とユウリの参加(ただ会場に入れる程度の形式的な権利)
一つが、俺の持ち込む食材で軽食をする
サブレスさんが「やや突飛」と表現していたのは、希望が三つになることだ。
しかし、これは半分「洒落」なのである。
今回の褒美への俺の実績は三つ。一つがチェスの件、一つが調査団救援、一つが大型魔物の討伐。
なので、一つの実績につき一つのイメージでの希望である。
内容が重ければ俺の評判を落とすものとなるが、内容が軽いだけに、国王にもこの「洒落」が効いたようだ。
アイオロスさんが言うには、国王もこの内容を聞き、少しの間、笑いをこらえていたそうだが、やがて笑いがとまらないほどに笑ったとのことだ。
ここにはサブレスさんの協力もあった。サブレスさんが俺の狙いを理解してくれていたからだ。
それは「エルフの存在を公式に認める、または国として認知する」ということだ。
以前、サブレスさんと初めて会った時、トライデント国、そして国王もエルフに対しての偏見がないことを教えてくれた。またサブレスさん自身が、何かあった時の相談に乗ると言ってくださったことから、この褒美の機会を利用して、エルフの存在を認知させようと、俺は計ったのだ。
それを知っているサブレスさんだから、「俺だけでなく、エルフのユウリを含む、軽い勲章の授与」という、重い勲章だと叶わない、あくまで「軽い勲章」というポイントを国王に共有してくださったわけだ。
だから国王からでなく、騎士団長に代わるアイオロスさんからの授与なのである。
勿論、トライデント国としてもメリットはある。さして重くない勲章の授与なのだから、公開する必要はないのだ。だが、これを逆手にとって公開はしないが閉じもしない、むしろこんなことが行われました程度の宣伝をすることができれば、国内の平和を民にアピールすることもできる。
そしてその中に、エルフがいるのだから、「差別のないトライデント国」を宣伝する機会にも成りえるのだ。もしも他国にまでこの話が広まれば、また人が集まり、賑やかな国になる可能性もあるわけだ。
そして希望の二つ目がここに反映される。
勲章の授与でエルフの存在の認知がされたうえで、国内の催しに、今後も俺とユウリが参加できれば、今ここにいない貴族家にも、エルフの存在が周知される。そうするとまた「差別のないトライデント国」が自然と出来上がる恰好になるわけだ。無理に守らせるのではなく、自然とその空気が出来上がるのだから、新しい動きに反対する思想、を持つ者でも受け入れやすい。
それは短期的なものでなく、長期的な目線を持っての戦略なのだが、思ったより早い段階で、その効果が出るようになる。しかしこれはまたの機会に語ることとしよう...。
アイオロスさん自身も、騎士団を代表する形式で、俺に勲章を授けるのだから誉高い。何よりアイオロスさんからすれば、これこそが直接「命の恩人」に対する正式な礼になる。そう思ってくださっているのだから、アイオロスさんも嬉しいハズだ。
元々、あくまで騎士団が授ける勲章なので、国王が参加するほどの勲章の授与ではないのだが、
「流石、チェスの考案者の希望だな。余が出る催しでないことは理解できるが、面白そうだ。是非参加しよう。勿論国王としての出席ではなく、あくまで個人的な参加としてくれ」
とのことで、本当に気兼ねしない程度の催しとなったのである。
これは国王様の人徳であろう。この国の統治は安定しており、食料や経済に問題が出る陰りもない。王宮内で派閥争いも存在しないそうなので、公式でない場面では、雰囲気よく事が運ぶのだそうだ。
要するに王宮内も平和であり、役職に関わらず、皆仲が良いのだ。
非公式とはいえ、王様が参加するのだから人が少なすぎて軽すぎるのも困る。ならば冒険者ギルドも巻き込んでしまえという感じに仕上がったそうだ。ルメリオさんはチェスの製作者の一人なので、勲章の対象ではないが、商売のコネクションを作る機会になるので嬉しそうにしている。
そしてそこに希望の三つ目が活きてくる。もはやエルフの村で普通となっている食材の数々が立食形式で振舞われたのだ。
エルフ四天王と一生懸命に用意した料理の数々である。
パンにスープ、唐揚げ、マヨネーズ、フライドポテト、ポテトチップス、醤油せんべい、塩せんべい、焼き魚、にんにく醤油ステーキ、じゃがバター、角煮、煮卵、三色団子にみたらし団子、そして...おにぎりと焼きおにぎり!
王宮内の使用人が使う調理場で準備させてもらったのだ。食材はこちらで準備した。ゲートは使えないので、外から運び込んだことを偽装するため、わざわざ馬車と荷車まで手配して、王都手前から馬車に運び込み、王宮へ持ち込んだのだ。正直ちょっと大変だった。
だがその効果は抜群。シーア達も協力してくれて、最初は皆が遠慮がちだったのだが、たくさん食べてくれそうな騎士団員に盛り付けた皿を配ったことをきっかけに、参加者全員が料理に興味を持ってくれたのだ。
それからは早かった。
「何これ!美味しい!」
「初めて食べる味だ!」
「こんなの食べたことない!」
「一体なんだというのだ...」
「え?これが米なのか!?」
初めて口にする料理に、参加者の全てが驚き、喜び、笑顔になる。
ちょうど皆が盛り上がるタイミングを見計らい、国王様と領主様が固まっている席に、俺が直接料理を持ち込む。国王様達には特別皿...押し寿司である。まだ十分に用意できないので、特別枠としたのだ。
寿司も考えたが、生食だけにゲートが公表されていない中だと振舞えない。だが押し寿司なら別だ。
手間はかかったが、その反応は素晴らしかった。やはりおじ様方には寿司なのだろう。
「カノン!なんだこれは!」
国王様が大きな声を出すものだから、トラブルかと思われたのだろう。騎士団と護衛達が剣の柄に手をかけ、一瞬動いたわ。...危ない。斬られるところだった。
領主様方も興奮する様子だ。
「カノン殿、これは特別に...美味いな」
「うむ。これは素晴らしい...。」
「これはですね、だいぶ手間をかけました」
「カノン...これは王としての命令だ...これのレシピを使用人に教示するのだっ」
今回、個人参加であったはずの国王が急に王の権利を振るってきたが、わからんでもない。
「えぇ...。もちろんでございます」
「あ...あぁすまぬな。少し興奮してしまったわ。いやしかし...それほどまでにこれは美味いな...」
少し小声で言う。
「えぇ。手間がかかりますので、まだ十分な準備ができないことから、本日は国王様、ご領主様方には特別でございますので」
「お気に召して頂ければ幸いですが...」
秘密の共有は結託を生むのだ。だからちょっとわざとらしくても、小声で特別感の演出は忘れない。
「あぁ。勿論気に入ったぞ...。カノン...ヌシをな」
「え?」
「じゃから...カノン、お前のことだ」
「あ...ハイ!ありがとうございます!大変名誉...
「あぁ。もうよいぞ...もっと普通にしろ」
「普通でございますか?」
「うむ。よいよい。公式な場でもないのだ。それで構わんだろう」
「よいな。今後、公式でない場合はそうするのだ。これは命令だ」
「あ...ハイ!わかりました」
サブレスさん言う
「ほほう。良かったなカノン殿、それが一番の褒美じゃろうて」
「えぇ!ありがとうございます、サブレス様!」
「国王様、ご領主様方も他の料理も是非召し上がってください」
「あ...っと、ユウリ!いくつかお料理お願いできるかな?」
「えぇ!かしこまりました!」
ユウリには申し訳ないが、ユウリが料理を持ってきてくれることで、
またエルフの印象が良くなるだろう。期待したい。
...
...そしてこの後に予期せぬ知らせが届くことになるのだ。
領主のサブレスさんが「やや突飛」と表現したのは第72話で、今回の計画を相談した際に言われた内容です。宜しければ遡りご確認ください。
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