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強くてニューゲーム(仮)  作者: しゅがぞう
第二章 聖槍・勇者・加護・王編
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第71話 国王:ウィンザー・アーム・トライデント

そして、その日を迎えた。王との謁見である。


...


少し話は遡る...


王との謁見前日、領主様と王都で待ち合わせの予定だったので、俺は従者としてユウリを連れ、ユウリから領主様へご挨拶を申し上げた。この日のため、ユウリにも相応に相応しい装いを用意したのだ。


領主様は、ユウリのその美しさに息を飲んでいるほどだった。社会的地位が高いとは言っても、この世界でエルフは稀少なのだ。望んでも接触する機会はないのだろうと思う。


しかも、俺がエルフと行動を共にしていることは、領主様もご存知だったが、半ば「ただの冒険者」として想像していたのだろう、相応の装いで着飾った美しいエルフに、目を奪われても仕方がない。


事前に知らせていなかったので、領主様の許可がなければ、ユウリには謁見の間、王都で待ってもらうつもりだったのだが、


「従者ということであれば問題なかろう、カノン殿がエルフと行動を共にしていることは王の耳にも入っているはず」


とユウリを連れることを了承してくださったのだ。


また領主様はこうも言ってくださった。


「この度の謁見は何もかしこまったものではない。最低限の礼儀さえ守ることができるのであれば、普段の謁見よりも砕けたもので良いとお許しいただいておる。」

「一介の冒険者が、冒険稼業とは相容れぬような、素晴らしき品を献上したということで、カノン殿自身にご興味もお持ちである様子だ」


「...とは言え、何かあったらワシの面目が立たんでのぅ。よろしく頼むぞ」


こうして一度、領主様と別れ、宿で一晩を過ごし、その日を迎えたのだった。


領主様が馬車で迎えに来てくださったので、ルメリオさんと俺達は馬車に乗って共に王宮に入り、近衛兵に囲まれたまま、王が待つ間の扉が開くのを待った。


いよいよと扉が開き、王の待つ間へ入る。


領主様から事前にその作法を聞いていたのと、うつむき加減の視線のわずか前方にいる領主様を手本にしているのだから、作法に問題はない。


「うむ。よい。表をあげよ」


「ハハッ」


王が謁見で待つ間は、意外と小さな間であり、思ってたのとちょっと違う。恐らくはもっと豪華な間があるのだろうが、王との距離が近くて驚いた。


「うむ。そなたがカノンであるか。」

「余が勇者輩出の国、トライデント国国王、ウィンザー・アーム・トライデントである」


...


ドクン...。


俺の中でほんの少し、鼓動が高鳴ったのを感じる...。なんだろう...。気のせいか?


「此度は実に見事な品を献上してくれた。感謝しておる」


サブレス様が口を開く。

「ハハッ。勿体なきお言葉にございます。こちらがチェスの製作者がひとり、ルメリオ商会会頭、ルメリオ。こちらがチェスの考案者であるカノンと、その従者ユウリで御座います」


「お初にお目にかかります。私がルメリオでございます。以前献上した装飾品を、王妃様が今もお使いでいると聞きまして、恐悦至極にございます」


「うむ」


「お初にお目にかかります。私がカノンと申します。隣にいるのが従者でエルフのユウリと申します。この度は謁見の機会をお与え下さり、誠に感謝しております」


「うむ。よい」


「サブレス、先日も申した通りだ。此度の謁見は個人的な感謝を伝えるためのもの。皆も堅苦しくなる必要はない」


「国王様、誠にありがとうございます」


「うむ。良いのだ。」

「ところでカノン。献上のチェスは実に見事な品であるな」


「はい、国王様。ありがとうございます。製作者のルメリオ殿と細部まで拘り、制作したものでございます」


「うむ。サブレスからも聞いておる。装飾品としても実に見事。そして娯楽として貴族が嗜むのにも丁度良い。これほどのセンスのある献上品は非常に稀である」


「いえ、勿体なきお言葉でございます」


「当初は、いやにサブレスが興奮気味に話すものだから、何事かと思ったが。」

「品とそのルールを聞いて、余も非常に気に入ってしまったのだ」


「国王様...わたくしも興奮しないように努めてはおりましたのですが...」


「ファハハ、いやすまぬなサブレス。普段のそちの立ち振る舞いからは、想像もできぬような具合だったからのう」


国王様が気遣ってくださったのだろう。張りつめていた空気が少し和らぐ。


「いや...それはわたくしも非常に...これは参りましたな」


「ファハハ。冗談よ冗談」

「余もこれでなかなかに気苦労が絶えぬでな、こうして何かに興じる機会も少ない。しかしチェスであれば諸侯の貴族とも、これに興じながらゆっくりと話すこともできるでな。大変に感謝しておるぞ」


「ハイ。国王様、本当にありがとうございます。国王様にお気に召していただいたことが至上の喜びでございます」


「うむ。よいよい。...して、カノンの本業は冒険者だとも聞いておるぞ」


「はい。このような装いを普段することもないものですから、本日は非常に緊張しております」


「そうであろうな。そして冒険者としての活躍も...耳に届いておる。」

「のう...アイオロス」


謁見の間の後方より返事が聞こえ、男は後方より近づき、俺のほぼ横に立った。


「はい。国王様。このアイオロス、カノン殿には感謝してもしきれぬ程の恩がございます」


後方にいたようだったので、俺はまるで気が付かなかったが、アイオロスさんが横に並び立ち、俺の方を向き、握手を求めてきた。急な登場に少し驚いたが、手を差し出し、固く握手を交わす。


「何か久しぶり...そしてカノン殿とは奇妙な縁も感じますな。そしてあの時は本当にありがとう」


アイオロス殿は少し小さな声でそう言った。


「ふむ。アイオロスも余の前で恩人に礼を伝えることができ、本望であろう」


「えぇ。国王様。わたくしめにこのような機会を下さりましたこと、誠に感謝申し上げます」


「ふむ。よい。よいのだ」


「ハッ」


「カノン、地底湖の件では我が臣下を絶望の淵から救ってくれたのだと聞いておるぞ」

「臣下の主としても礼が必要であろう」


「いえ、国王様。礼には及びません」


「いや良いのだ。そして...まだあったな」


今度は国王様から少し離れた部屋の端から、男が一歩前に出て少し大きな声で言う。


「はい。国王様、先日発生した大型の魔物の集団移動についても、こちらのカノン殿一行が、中心となり、魔物を退けたとの報告でございました」


「ふむ。間違いないのだな」


「ハイ!間違いございません!特に大型だった魔物、ジグモスもカノン殿が直接討伐したとのことでございます!」


「カノン。聞いての通りだ。立て続けに...言わばこの国の民を守ったのと変わりない」

「これだけ冒険者としての実績もあるのだ。余も驚いておる。」

「何よりは、民を救うほどの冒険者としての実績を作った者と、チェスの考案者が同じ人物であると言うことが、これ以上ないほどの衝撃であるわ...ファハハハハハ」


「実に見事である。この話、誰に話しても信じる者はおるまいよ」


少しの静寂の後、国王様の近くにいた臣下のひとりが国王に近づき耳打ちをした。


「ふむ。承知した」...

「すまぬなカノン。礼としてはもの足りぬだろうが、後ろがつかえておるようだ。他の者達もすまないな」


サブレス様が皆を代表するように返事をする。

「国王様、此度は謁見の機会を下さりまして、誠に感謝いたします。ここにいる三名に代わりまして、お礼を申し上げます。」


「うむ。よいのだ。そしてカノンには何か褒美を取らせないとならないな...」

「しかし今は時間もない。褒美の件は、カノンが直接我が臣下と相談し、臣下より報告をあげさせよう」

「サブレス、それで良いな?そちもその相談に乗ってやれ」


「はい。国王様。誠にありがとうございます」


「うむ。では余は他がある故、許されよ」


「国王様、ありがとうございました」


こうして俺は王への謁見を無事に乗り越えたのである。


トライデント国王、一介の俺が評価をするのも憚られるが、とても立派な国王であると、そう肌で感じたのだ。何せアイオロスさんの主なのだ。きっと間違いないのだろう。


謁見の間を出た俺達は馬車に戻るため、暫く歩いたところで後ろから追いかけてきたアイオロスさんと、また話すことができたのだ。

本話で出てくるチェス以外の功績部分は第49話と第61話-64話となります。宜しければ遡りご確認ください。


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