第70話 ランクアップ
また村で平穏にしていたのだが、フィンドールさんから早文で連絡があった。用件は二つ、一つはルミナーゼのギルドに至急来て欲しい旨、もう一つは王への謁見が決まったとのことで、領主のサブレス様からの連絡だった。一週間後に王都で待ち合わせ、翌日に王への謁見となる旨の連絡であった。
ルメリオさんも呼ばれているのだろうから、いずれにしても一度ルミナーゼに行ってみるとしよう。
...
「ルメリオさん!」
「あぁ!カノン殿!連絡がついて何よりです!」
「えぇ。ご心配お掛けしてしまいました」
「いえいえ、心配だなんて。ですが王との謁見の機会などそうはありませんからね」
「日程のご無理はありませんか?」
「はい。予定は調整中ですが、私は王都へ早めに行くかもしれないので、領主さまのおっしゃる通り、前日に現地でお待ち合わせできればと考えています」
「ならばその件は、このルメリオから領主様にお伝えしておきましょう」
「すみません。ありがとうございます」
「ところで...カノン殿、謁見の際のお召し物などはご準備されていますか?」
(あ、完全に考えてなかった...)
「いやぁ。どうしたらいいかわからなくて...」
「むむ。それは少々まずいですな...」
「そ...そうなんですね...」
「やや、そうしましたら、今から私とお召し物を買いに参りましょう」
「えぇ?」
「いや領主様にも言われたじゃないですか!これから仕立てるのは間に合わないでしょうから、既製品で構わないのでそうしましょう!」
まぁ、ルメリオさんが言うのも最もだ、俺的には冒険者だからいつも恰好でもいいかと思ったが、よくよく考えればチェスの考案者として、謁見の機会を与えてくださったのだから、相応の恰好は必要だ。
ルメリオさんと並ぶのだから、ルメリオさんの意見を参考に服を用意してもいいだろう。
そう思い、ルメリオさんにお付き合い頂いて、服を買いにいったのだ。
...
「ではカノン殿!王都でお会いしましょう!」
「えぇ!ルメリオさん、ありがとうございました!」
ちょっと時間はかかったものの、無事に準備することができた。正直ルメリオさんがいて助かったというところである。
さて、フィンドールさんの呼び出しもあったので、ギルドに行ってみよう。
...
「あぁ!カノンさん!お待ちしてましたよ!」
「フィンドールさん、なんだか久しぶりですか?」
「いやもぅ、本当にそうですよ!もっと冒険者として出入りしてして欲しいのが本心です!」
「ハハハ、すみません。でも緊急対応はしっかりしているので許してください」
「それは勿論です!ささ、案内しますので!」
...
「で、フィンドールさん?今度は何の依頼です?」
「カノンさん、いえ、今日は依頼じゃないのですよ」
「あぁ、そうなんですね。てっきり...」
「はい。じゃぁ...これを」
真新しい冒険者登録カードを渡される。
「フィンドールさん?これは?」
「えぇ。ミスリル級の冒険者登録カードですよ!おめでとうございます!」
「ふぇ?ミスリル?」
「はい!その通りです!」
「あれですか?こないだの...」
「あぁ、すみません。ちゃんとご説明しないといけないですよね」
「ええっと...どこから話せばいいものか...」
フィンドールさんは本当に困った顔をしながら考えて話し出した。
「ええっと...分かり易くお伝えすると...まぁ総合的にってところでしょうか?」
「...総合的に?」
「ええっとですね...総合的...そうなんですよ」
「はぁ」
「まずあの一件です!地底湖の件!」
「地底湖ですか...なんだかもう少し前の感じですね?」
「まぁ、ご本人としてはそうなりますよね...」
「ですが、国側と調整が終わったのは最近なんですよ?」
「あぁ、そうなんですね」
「えぇ。緊急依頼でしたから、後から調整もあって...で、その調整前に当然、調査団から国...まぁこの場合は王への報告が行われてからでしたので」
「なるほどですね」
「そうなんです。そしてほら、この間の魔物の集団移動の件もそれに重なったので...」
「なるほど...要するに国側も色々大変だったわけですね」
「そういうことですね」
「なるほど。」
「あともう一つが...今度の王への謁見の件ですね。領主様からお聞きしております」
「謁見の件もですか」
「そうなんですよ!地底湖の件と魔物の集団移動...この二つの討伐が国へ報告が纏まったので、当然領主様にも討伐の件が共有されたわけですね」
「ふむ」
「そうなると、今度は領主様が少し慌てるようになってですね」
「領主様が?」
「えぇ。端的に言うと...その討伐実績でゴールドはおかしいだろうと」
「あぁ。わかる気はしますね」
「だからですね、ギルド側もちょっと慌てて準備させていただいたのです!」
「あっ。でもこれは言わなくてもよかったか...」
「ハハハ」
「いやぁ、勿論ギルドとしては、その資格を十分に満たしていることは、認識しておりますが、何せ二つの討伐についての調整が纏まったのが最近ですからね」
「ギルドがカノンさんに、ミスリル級への昇格を正式に通達する前に、領主様から突っ込みが入った...という感じですね」
「ギルドは王様との謁見の件は知らなかったものですからね...」
「そういうことですか」
「いやほら、ギルドとして何か落ち度があったわけじゃないので、仕方ないんですが、流石に領主さまから「なんでゴールドなんだ?」って言われた時に、お返しできる回答もなくてですね...大変だったんです...」
「すみません。ご苦労をお掛けしてしまったのですね」
「いえいえいえ。カノンさんが謝る内容ではないのですがね。ちょっと大変でした」
冒険者ギルドはこの世界にネットワークを持つ唯一の機関ではあるが、それぞれの国から独立した機関というわけではない。ギルドマスターとは言え、中間管理職みたいなものなのだ。フィンドールさんの苦労もわかる気がする。
「ともあれ...わたしからすると、ミスリルでも適正でないと思ってますので!」
「今後もカノンさんに頑張って頂きたいと思っております!ですがとりあえず、ミスリル級...おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「...これでSS級ダンジョンもお願いできるわけですね...」(小声)
「...へ?」
こうして俺の冒険者ランクはミスリル級となったのだ。ミスリル級の価値はよく分かってないのだが、まぁそこそこの実績ができたんだろうとは思う。胸に張って歩くわけではないので、何かが変わるわけでもないし、これからも俺はいつも通り...だ。
フィンドールさんの最後の呟きが気になって仕方がないのだが...
しかし...よくよく考えれば王との謁見って、結構大変なイベントだな...果たして俺に上手くこなせるのだろうか...。
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