第69話 醤油ぅこと
翌日になり、露店が並ぶころ町を散策した。リリルルが変わらず案内してくれるので、見どころ満載だった。町には猫人族が多かったように感じたので、そのことをリリルルに聞くと、
元々、王都より南部の地域には猫人族が多いらしく、北部にはドワーフが多いのだそうだ。
ずっと以前は別の国だったらしいのだが、人間が多く来るようになったころに統合され、今のアルミレジオン国になったとのことだ。
リリルル自身は幼いころまで、この地域で過ごし、やがて家族とともにカリオール国へ引っ越したらしい。今も家族はカリオール国で元気に暮らしていて、時折実家に戻るとも言っていた。ただ、両親もそこそこの年齢なのでたまに心配になることもあるようだ。
そうか家族かぁ。皆そういう素振りを見せないので気づくこともなかったが、両親がいれば心配にもなるだろう。村が発展し、リリルル自身が長く村にいるようになるのであれば、両親を呼んでもいいのかもしれないと思ったのだ。
...そうこうしながら町を歩いた結果...ついに「醤油」を手に入れることができたのだ!
醤油が余り広まらない理由は、パンやシチューに合わないからだとリリルルが言っていた。その為、量産される調味料でもないのだそうだが、地域的には根付いているらしい。特産品とはいかないが、その地域だけで好まれる食材ってあるからな。
長く求めてきた醤油に出会うことができて、俺は今、感動という波に心振るわせている。醤油があれば俺はなんでもできる。来世では是非、醤油に生まれ変わりたいものだ(嘘)
量産されていないとのことだったので、露店にあるだけ買ってしまった。ゲートに入れれば酸化もしないし別に構わないだろう。荷車を借りて馬車まで運んだ。
ユウリもリリルルも、購入量に明らかに引いていたが、食べてみればわかるだろうから今に見ていろよ。ククク。
目的を果たしてしまったので帰ろうと思ったのだが、リリルルが教会に行きたいと言ったので、それに付き合うことになった。
町外れの小さな教会。子供の頃は両親とよく来ていたのだそう。
この教会では火の精霊に対して祈りを捧げるらしい。子供の頃は、よくわからないままお祈りしていたそうだが、冒険者となって火の魔法を使うようになってからは、その祈りが大切なものだったと気づいたそうだ。
...でも...リリルルの魔法って灼熱剣:(フレイム・ブレード)とかだったよな。ちょっと教会での祈りのイメージと乖離があるけど...まぁいいか。
ちなみに俺は教会で、リリルルの豹変をもう少し自制してもらうようにとお願いしておいた。
教会を出て、俺達は帰ることになる。馬車で町を出て、人目のないところで馬車ごとゲート。ベルステーロで馬車を返して、村まで戻ったのだった。
...
...
村に戻ると、いてもたってもいられず、醬油を使った料理をいくつも作った。
刺身!
漬け!
焼き魚!
みたらし団子!
卵かけご飯!
ステーキにんにく醤油!
じゃがバター!
焼きおにぎり!
そしてお米!
自分で言うのもなんだが、これまでの反動が凄い。とりあえず手軽で簡単なものを思い付くだけ端から作った。
もうね、作ってるところから皆の集まりが凄い...。とりあえず自分だけでも食べたかったので、今回はエルフ村のクッキング教室は開くつもりはなかったのだが、芳ばしい香りが村に漂うものだから、料理途中から目茶苦茶集まってきたよ。
そして、作りながらつまみ食いをしたところ、もの凄いブーイングの嵐に見舞われた。
「ちょっとぉー!カノン!ほんと駄目ぇー!」
「カノンさん!ひどぉいぃー!」
「...やっちゃいけないことある...」
「白虎!お前ぇさん!長を差し置いて...だめじゃんか!」
「カノン様...わたくし信じてましたのに...」
「「カノン様!ナージャとミディはおこですわよおこ!」」
「カノン殿...」
「ぴぇ!」
「ぴぉ!」
「カノンさん!そりゃないぜ!」
「カノン...あんたやっちまったな」
「カノン様、お変わりになられてしまったのですか...」
「ウフフフフフフフフフ...」
「カノン様いけないんだー」「ねぇーねぇー」「駄目だよねぇー」
「カノン様、ワシはもうこの先短いのですから...」
「よーし!いってしまえ!リリルルー!」
だから特にシーア、お前まじやめろ...阿修羅モード煽りはまじで無い。子供達もいるのだから。トラウマになるだろう。
そして、まじでちょっとのつまみ食いだったのに割にあわないブーイング...。
くそう...。こいつらいっちょこらしめてやるか!
...
「...五月蠅いなー。そんなこと言ってると作りませんよ!」
...
シーン...
めっちゃ静かになる。なり過ぎだ。言い過ぎてしまったかと思うくらい静かになり過ぎだろ...
どんだけ食べたいのかは伝わった。許してやろう。
「まぁほら皆!カノンが作るまで待ちましょうねー、オホホホホ」
流石のシーアだ。いい感じのコメントである。
俺も思わず笑ってしまう。
「アハハハハハ!嘘だよ嘘!今作ってるから待ってなよ!」
「ただし...静かにしとくんだぞ!」
「んもう。カノン様の意地悪!」
「白虎!オイラぁ大人だからよ?ちゃんと待つぜ?親友だしな?」
「でも...でも...早くぅ」
「ウフ、ウフ、ウフフフ」
「カノンさん!俺も手伝うぜ!」
「あ!そだ!じゃあさ、子供達とせんべい焼いて!最後に塩振らずに醤油を纏わせてもう一回焼きあげるんだ!」
「やったあー楽しそう」「僕もやるよぉ」「僕もー」「わたしもぉー」
「ぴぇぴぇ!」「ぴぉ~!」
「わたし達もね!ナージャ!ミディ!」
「じゃぁほら、ユウリとレイミーとナージャとミディはこっち手伝ってよ」
「サナは刺身お願い!」
「まっかされよぉー」
...
取りあえず用意できるだけ用意して、実食を迎える。
「「「「こ...これはやばい...」」」」
「「「「美味しすぎるー」」」」
「なんだこれ?白虎!お前ぇ凄いな!まじのまじで!」
皆が醤油で作られた料理を、美味しいと言ってくれる。本当に嬉しい。
「これはたまげた...」
「...涙出る...」
反応も様々でそれも面白い。歓喜するもの、狂喜するもの、涙するもの、踊り出すもの。
...
...
「じゃあ食べ終わったら、片付けと、他の村人用に作る人で分かれながら、もうひと頑張りだぞー」
「「「「「「「はーい!!」」」」」」
当然、村人の分も皆で協力し用意した。初めて出会う味の数々に、皆が笑顔になる。醤油料理の流行は、一週間にとどまらず、村中に浸透し根付いていくようになる。
この後、村の女性達を中心にオリジナルレシピ開発もされるようになっていったのだが、その中でも驚いたのは、教えてもいないのにミディが「肉じゃが」を、ユウリが「煮卵」を、レイミーが「角煮」を、ナージャが「照り焼きハンバーグ」を再現したことだった。
ベースは醤油と砂糖との組み合わせなので、確かに似た味にはなるわけだが、醤油に合う「素材の組み合わせ」を教えられることもなく、現代にも通じる味を再現したのだから、これには驚嘆したのだった。
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