第61話 迎撃準備
王都から戻って一週間が経ったころ、ノクトームさんの言っていた悪い予感が当たってしまうことになる。
ラクレットの冒険者ギルド、スクエイトさんからの連絡だ。発信元はノクトームさんである。
王都の北部より多数の魔物が南下してきているとのことで、魔物の発生元は不明だが、恐らくは隣国から流れてきたのではないかとのこと。
魔物の活性化の噂に警戒して、北部を警戒していた警備団がこれを発見したらしい。
生憎、王都の騎士団は万一のため、住民の避難誘導などで王都の守りを固めることから、王都周辺に魔物が入る前に、冒険者でこれを一部迎撃、もしくは足止めする必要があるとのことだ。
連絡を受けた俺達はゲートで王都へ赴き、冒険者ギルドへ入った。
一部の冒険者は馬車に乗り、すでに北部方面へ移動を開始しているようだ。
「カノン殿、悪い予感が当たってしもうたのぅ。どれ...こちらへ。お連れさんもどうぞ」
地図が広げられた個室へ案内される。
「ワシがこの冒険者ギルドマスターのノクトームじゃ。皆さんよろしくな」
「ノクトームさん、纏めてご紹介しますね、こちらからユウリ、クオーツさん、ウィル、デザイアにシーアです」
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
「ううむ。よろしくな」
「じゃぁ早速で悪いがの、今回の討伐予定になる場所を説明するとしよう」
...
「とまぁ、この辺りとこの辺りが対敵地点になりそうだの」
「うむ。やや谷になった川沿いですか」
「そうだのう。今のところ進路を変えることなく、こう川沿いを遡上しているようだの」
「恐らくは、ここの下流側の隣国国境付近から、上流に向けて南下しているイメージかの」
「って言うと川の下流で何かあったってこと?」
「川沿いにいるのは、たまたま川の谷に入ったということじゃろうが、理由はまだわからんのぅ」
「なるほどね。それでこのまま遡上すると王都の目の前ってことか」
「うむ。そうじゃのぅ。川が軽い谷になっていて、木々に囲まれているからのぅ。そのまま遡上してしまう可能性が高そうじゃの」
「そんなに数が多いのでしょうか?」
「そうだのぅ、まぁ遠方の皆さん方の協力が欲しい程度に、事態はひっ迫しているといった具合かの」
「魔物もいくつか縦に分かれていて、第三波くらいまでありそうじゃの。まぁこの数が横にバラけていないことだけは幸いだがの」
「...魔物の種類は?...」
「報告されているだけで、色々だの。森に生息するタイプの魔物が多いらしいが、途中、川に生息するタイプの魔物も追われるカタチになっているそうだがの」
「大物だとタイラントエレフとかマダグドブルとかが、報告にあがってるのぅ」
「そうなると、個体でA級までといったイメージであるか」
「うむ。そうだのぅ...しかし...何から逃げているかだのぅ」
「ノクトームさん?それは...?」
「そうだのう。冒険者の全員に話しているわけではないがの...」
「確かに噂で魔物の活性化の話はあった。じゃがフタを開けてみれば、数体の個体が個々に発見されたものではない...。現状、分かっている情報を纏めると...「群れをなす魔物の集団移動」じゃ。タイラントエレフとかマダグドブルなんかは自ら人を襲うものではないからのぅ」
「状況からみれば、下流の隣国の大森林で何かがあったということじゃの...。」
「人工的に何かがそれを引き起こさせた。という可能性も勿論じゃが...それを含め鑑みても...一番分かり易いのは、それ以上の大物が場所を追われてしまったことで、雪崩的に魔物が集団移動しているといったところかのう」
「A級が逃げ出す個体...」
「うむ。だからカノン殿と皆さんにまで依頼させていただいたのじゃよ」
「まぁ、それ以上の大物というのはワシの憶測じゃがのぅ」
「でも...ノクトームさんの予感が当たっての、この依頼ですからね...」
「「「「「恐ろしい予感」」」」」
俺以外のメンバーが全員引き気味になる。
「まぁ当たらないのに越したことはないが、違和感に気づけば、指揮を取れるような冒険者には伝えなければならないからのぅ。フワハハ」
これだけの内容なのに、あまり慌てる様子がないノクトームさん。流石である。
...
ギルドが手配した馬車で移動し、対敵予定の場所へ降り立つ。
すでに他の冒険者達が、魔物を迎え撃つ準備に入っているようだ。
「あら?カノンさんもいらしてたんですね?」
「カノンさん、先日はどうも」
「あぁカノンさん、醤油まだかなぁ」
準備をしている冒険者達の中に、地底湖で会ったアローレさん、サナさん、リリルルさんも現場に来ていたようだ。
「あぁ。皆さんも来てらしたのですね」
「ウフフ、思ったより早くお会いしてしまいましたわね」
「ハハハ」
「ねぇカノン?こちらは?」
「あぁ、ごめんごめん。地底湖でお会いした、アローレさん、サナさん、リリルルさん」
「こちらが私の仲間で、ウィル、シーア、デザイア、クオーツさんとユウリです」
...
「へぇ、エルフのユウリさんの村でぇ」
「ええ、皆さんにお手伝い頂いてますわ」
「...お手伝いというか...むしろ喜んで...」
「そうだな!むしろ楽しくてだな!」
「ウィル!あんたは違う理由でしょ!」
「でも賑やかそうでいいよな」
「うむ。充実した生活をしているな」
「ウフフ、それはとても素敵ですわね」
「でも一番は食事よね!」
「「「「確かに」」」」
「えぇ~?食事ぃ?」
「あら?サナぴょん?はしたなくてよ?」
「いいじゃんリリルルぅ」
「なになに?何が食べれるのぉ?」
「...唐揚げ?...」
「三色団子?」
「フライドポテト?」
「米?」
「塩せんべい?」
「...マヨネーズ?...」
「えぇ~、全部聞いたことないよぉ?」
「なんだか美味そうな感じが伝わってくるな」
「ウフフ、醤油も関係するのかしらね?」
「カノンさんが、米と食べるといいっていってましたわ」
「ショウユかぁ。カノンが前から探してたみたいだな」
「ウフフ、わたしの故郷の調味料ですのよ?」
「カノンさんが会うなり醤油知ってますか?って。ウフフ」
「期待しちゃうなぁ~」
「きっとね、カノンのことだから美味しいと思うの!」
「カノン様ですから確実ですわ」
「うむ。楽しみであるな」
「...間違いない...」
「ちょっと皆さん?これから魔物くるんですよ?そんなに余裕でいいんですか?」
「え?だってカノンがいるじゃん」
「「「「そー思う」」」」
「ハハハ、カノンさんは信頼されてるな」
「ウフフ、皆さん地底湖でのことご存知なのですか?」
「...教えてくれない...」
「わたし達も直接見てないんだけどぉ」
「そうそう、無双してたって話。もうさ俺なんかビビリながらも、覚悟していったってのに」
「ウフフ、もう全部片づけてらっしゃったのよね」
「カノン様ですからね」
「うむ。目に浮かぶかのようだ」
「なんかぁ、宗教的な信徒も生まれたみたいよぉ」
「まぁ俺達もそういう意味じゃ、カノン教の信徒だけどな!」
「...教祖カノン...」
「ちょ...デザイアそれはほんと駄目」
「「「「「「「「「ワハハハハハハハハハ」」」」」」」」」
...
「ふむ。だがそろそろ準備に入るとしようかの」
「ちょっとカノン!あんたは前線でないでよね!」
「え、なんでよ?」
「カノンが出たらやることなくなるだろ!」
「わたしも修行の成果をカノン様に見ていただきたいですわ!」
「...負けない...」
「じゃぁ決まりね!やばいのくるまでカノンは待機!」
こうして俺達は川を遡上してくる魔物達を迎え撃つ準備を整えたのだった。
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