第5話 魔法とマジックリング
村での滞在が始まった。
とりあえずこの村の食料事情の改善が急務と思い、
俺は召喚したカミュとラヴィに狩りをするようお願いをした。
カミュとラヴィのおかげでここ数日は食料に困らず、
村人たちの顔色も更によくなってきているようだ。
これまで食料の確保のため、狩猟に相当な人手と時間を費やしていたようで、
手があいた村人は農作業や裁縫などを行い、ほんの少しばかりだが活気がでてきた様子である。
村人は食料を調達してくれるカミュとラヴィを、神のように崇め感謝している
様子で、カミュとラヴィも時折困惑しながらも嬉しそうにしている。
空いた時間には、俺をこの村まで案内してくれたアリアが、
他の子供達と一緒にカミュとラヴィの遊び相手になってくれている。
食料事情の改善が数日で見られるようになったので、
落ち着いた時間を利用して、エルフの村長に色々な話を聞く。
話によればこの村は60世帯、200人ほどの集落で、子供が30人ほど。
エルフは500年はいきる長寿種族で、子供は20歳くらいで成人。
350年ほどの成人期間を過ごすと老齢期を迎えるらしい。
この村を隠れ里としている理由が少し重い内容だった。
元々エルフは高い魔力を持つ種族でありながら、自然との共存を大切にする
種族だそうだが、人間の中には、エルフの生まれながらの高い魔力を利用する
悪党もいるらしく、
この村は大昔、エルフの大里で行われた、「人間によるエルフ狩り」から
散り散りに逃げてきた、ほんの十数人のエルフの祖先から始まった村だそう。
エルフはこの世界では亜人とした立ち位置らしく、人間と交流を持つことは
できるが、 世界のどこかでは未だ亜人を、奴隷や他種族として嫌う人間や
風習もあり、この村では積極的な交流は控えているらしい。
(エルフの存在が悪意あるものに伝われば、
不吉なことが起きる可能性があるのだから当然だろう)
本当に何か必要な自体がある場合には、軽く変装をしたうえで街まで行き、
必要な物を物々交換したりしているとのこと。
変装をしたところで、街の人の一部は相手がエルフであることを、
恐らく見抜いているだろうとのこと。
今回アリアが街に走ったのは彼女の独断であったそうだ。
この世界の人口の中心は人間であり、その他に亜人であるエルフやドワーフ、
知能を持ち人間や亜人に近い獣人、人間と共存することができる動物や、
知能を持たず人間や動物を襲う魔物。そして魔物を使役する魔人などが存在する
ことが、村長さんとの話でわかった。
魔法についても聞いてみた。魔法は体内に眠る魔力を放出させるもので、
呪文の詠唱の後、使いたい魔法名を唱えることで魔力を放出し、
様々な効果を及ぼすものだということ。
魔法には様々な属性が存在しているが、一般的には火氷水雷風土の六属性で、
その他に結界魔法や強化魔法など、どの属性にも属さない魔法が存在するらしい。
治療などが属する「聖」属性は使い手が限られ稀少とのこと。
稀に先天的に「聖」属性が使える人材はいるそうだが、
多くは修行や修道士になることで後天的に「聖」属性を芽生えさせることが多いのだそうだ。
また一般には「聖」属性が使えるようになった時点で、その他の属性魔法の熟練をやめてでも、「聖」属性を鍛えていくのが普通で、それほど聖属性の使い手は貴重らしい。
今回俺がその聖属性の魔法である聖光浄化:(キュア・エーション)を使っている時点ですでに
只者でないと思われたらしい。
当初はどこか高位の神官様と思っていたようだが、龍を従えていることで、
伝承に伝わる崇めるべき存在である。と認識されたようだ。
そして質問は村の改善方法の模索に移る...。
「村長さん。村には塩があったと思うのですがあれはどちらで?」
聞けば塩は近くの海で海水を蒸発させ、結晶化した塩を村で使っているとのこと。
(そういえば街を探しにカミュと飛行したときに太陽の方向に海があったな...。
近いうちに海までいってみるか...。)
「海があるということは、海で魚などの食料もとれるのでしょうか?」
海には食料となる魚はいるが、海にも魔物は存在することからこの村では
海で狩りをすることはないとのことだ。
湖で魚を獲ることはあるそうだが、うまく取れる技術がないため、魚を獲るので
あれば川で手づかみで行うらしいがそう簡単ではないそうだ。
結局魚は食料としては安定しないため、基本的に森での狩りや採取が、食料確保の
中心とのこと。そしてわずかながらではあるそうだが、
穀物を中心とした農作物も育てているそうだ。
「それでは普段の水はどうされていますか?」
水は近くの川で水汲みしており、水汲みはエルフの子供達の仕事とのことだ。
ふむふむといって村長と会話を続けていたが、途中アリアが子龍を連れて川に
水を汲みに行くと言うので、同行し案内してもらうことになった。
...
村からは十数分で川までくることができた。
(十数分とはいえこの距離を往復するのはなかなかに大変だな。)
先日村長が「ゲートは移動魔法」と言っていたので、気になっていた実験をすることにした。
ゲートの魔法は、使用する魔力により大きさをコントロールすることができる。
移動魔法として出入りする場合、行ける場所は俺自身が訪れた場所だけのようだ。
ゲートを川のなかに設置すれば、取水装置として機能させることができるのではないのだろうか?
...
結論から言うと大成功だ。
川のなかにゲートを作るとき、その放出口を、すぐそばの川原のイメージでゲートを唱えたところ、蛇口を捻ったかのように水が溢れてきたのだ。
ゲートは俺が閉じろと念じなければ基本的に開いたままである。
...
これを利用し、村の中央にいつでも水がでてくる湧き水のような装置を作ることに成功した。
排水はその逆を行えばいいだけだ。
これには村人も目を丸くした様子だ。いつでも綺麗な水が村で使い放題なのだから当然だ。
俺はこの程度で満足する男ではない。
同じことが海でもできるだろうと予想し、海水が湧く装置も作ったのだ。
海水は塩の利用も目的だが、大きな目的は海でとれる魚だ。
うまくいけば村のなかに「養殖場」のような装置ができるのではないかと考えたのだ。
作りはこうだ。
海水の出口を設けた箇所を掘り下げ、お堀のような池をつくる。海水の取水口を
数十cmほどの大きさに絞ることで、小型の魚のみがゲートを通って
村の池に放流されるのだ。
今度は排水用のゲートを、取水用のゲートとは反対側に設置することで、
池に迷い込んだ魚だけを狩ることができるのだ。
これには村中が沸いた。
それはそうだろう。これまで苦労していた食料事情に大きな革命を起こしたのだから。
画期的な装置の誕生で、子供達がそれに食いつくようにみている。
ゲートから海水とともに魚が放出される度に歓声が沸く。
今はお堀自体が土を掘っただけなので、見た目に美しさは全くないが、お堀自体を
レンガ造りにしたりすることで、見た目も改善しつつ、村の安定的な食料需給に
つながるだろう。
...
それからまた数日が経過するころ、エルフの村長を中心に、
数人の村人と、村の改善について話し合う。
「カノン様、水や海水の引き込みなど本当にありがとうございました!」
「いえいえ、できることをやってみたまでですよ。」
「...ところでこんなものも作ってみました。」
とここで六つほどの指輪を披露する。
「カノン様。これは一体なんの指輪ですかな??装飾品でしょうか...?」
「いえこれは私が作った魔道具の一種です。
このうち三つに「睡眠」。残りの三つに「誘導」の効果を付与しています。」
「この指輪をした人物が弓を射ることで、比較的簡単に獲物を獲ることができる
ようになると思います」
「聞けば、狩りに行かれる際は、数人で行動されるとのことでしたので、
いくつか指輪を用意しました。」
村長も村人もいまいち理解できていない様子だったので、
村人のひとりに試しに的を射ってもらうことにした。
あまり弓の腕前が良くないという村人に試し打ちさせる。
ビュッ
ビシ!
ビュッ
ビシ!
数本を試し打ちしたが、全て的の中心に命中したようだ。
「「「「こ...これはすごい!!!!」」」」
また大きな反応が村人に起こる。様子をみていた村長もやはり目を丸くしている。
「「誘導」のマジックリングは獲物に命中させるのに便利だと思いますし、
「睡眠」のマジックリングは命中後に効果が発生さえすれば、
獲物に当たっただけで眠らせることができると思います。」
「「誘導」はこれまでにあまり弓の腕が得意でなかった方や、
狙いの定めにくい鳥などの獲物も狩れるようになるかもしれませんし、
「睡眠」は大きな獲物も狙えるようになるかもしれません。」
...!!!
「あぁ...。でもどれくらいの確率で効果がでるのかなどはわからないので、
しばらくは慎重に様子をみながら使ってください。
また、どれくらいの確率で効果がでたのか使った後に教えてください。」
...これには実験もかねているのだ。
チュートリアルを確認したところ、
「誘導」も「睡眠」も★1 (小)★2(中)★3(大)の項目があった。
マジックリングの効果がどれくらい発揮されるのかを試してみたかったのだ。
★1 誘導(小)★2(中)★3(大) 誘導は「誘導力」の強さと推察されるが、
★1 睡眠(小)★2(中)★3(大) 睡眠は「眠りの深さ」ではないはずだ。
この場合「眠りに陥る確率」と推測するのが普通であろうから、
村長にその確率について検証し報告して欲しいのだ。
ちなみに今回はそれぞれイメージをはっきりと描いた中で、★3(大)と考え
想像し、作成してみたのだから、作られたマジックリングはそうなっている
ハズだ。
この実験を兼ねた実践でこの先に作るマジックリングについてまた更に検証をすることになりそうだ。
「カノン様!当然ですじゃ!いいか皆の者、カノン様の言われるとおりに状況に
ついてしっかりと報告と共有をするのじゃぞ!」
「「「「ハイ!」」」」
これで水や魚などの食料事情に加え、安定した狩りができるようになれば、
また違うことに手をかけられるようになる。
わかりやすい結果がでるまでは数日かかるだろうし、
村人に魔法を教わったりしながらまたマジックリングの作成をしてみよう。
...
...
「村長さん、この村には、私に魔法を教えられる村人はいますか?」
「えぇ、若いエルフで魔法を使える村人は複数人おりますが...
いやでもカノン様ほどの方に教えられるほどの村人は...。」
(複数人...?予想よりも全然少ないな...)
「あぁ、それであれば大丈夫かもしれません。」
「私が使える魔法は聖属性と魔属性と雷属性だけなんですよ。」
「なんとお若いのにすでに三属性も...。」
村長が言うには複数の属性魔法を使えることは、そんなに珍しいことでもないとのこと。
ただ複数の属性を扱う場合に器用貧乏になりやすいことと、
すでにもっている属性により習得が難しくなる属性があるとのことだった。
魔法には属性毎に親和性があるとのことで、例えば生まれながら「火」属性の
適正があり、適正どおりに魔法を鍛えると、その熟練度によって、
「氷」属性の魔法の習得が難しくなるとのことだった。
もちろん適正が全くなければ、そもそも魔法を発動させることはできないらしく、
複数の属性を覚える場合、親和性の高い属性を選んでいくのが一般的とのこと。
属性の適正自体に、適正の強さを表す「練度」が存在し、適正の「練度」が
強ければ高出力の上位魔法も使うことができるらしい。
エルフは魔力が高いとのことだったので、高出力の上位魔法が使えるのか尋ねた
ところ、一般に中位魔法を使えるもの自体がそれほど多いものではないらしく、
魔法が全く使えない人間がほとんどなのだそう。
この村でも他の街などと交流がない結果として、中位魔法を使える村人はひとりしかいないらしい。
「エルフ狩り」の原因ともなったエルフの特殊性は単に魔力が高いということではないらしい。
生まれながらに適正持ちが多いこともそうだが、戦闘や何かの理由をきっかけに、
後天的に「覚醒」するものがいるのだそうだ。
この「覚醒」に至った場合の恩恵が、とてつもない大きさで、
なかには魔王クラスになるエルフもいるのだそう。
これまでは村の運営や食料の確保に、若いエルフのほとんどがかりだされていた
ものの、俺のおかげでできた時間的な猶予があれば、若い世代を中心に、
魔法の習得に力を注ぐこともできるかもしれないとのことだった。
(なるほど。魔力と適正があっても機会に恵まれないのであれば、
魔法を使えるエルフが複数人しかいないということも理解できるかな...。)
「村長さん、私も複数の魔法を使えるようになりたいので、
私が持っていない属性の魔法を教えていただくことは可能でしょうか?」
「ええ、でしたら何人かでご対応しますので明日までお待ちいただけますかな?」
「それはもちろん。」と返事をし、その日はマジックリング作りに勤しんだのだ。
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