第26話 隠匿
「ミ...ミノ...
「ミノタウ...ロス....」
個体名:ミノタウロス
モンスターランク:S級
魔素濃度が濃い場所で発生する魔物で、獰猛な魔物。群れをなすことはなく、
発見される場合は単独行動であることがほとんど。腕力に頼った攻撃が中心だが、
やっかいな突進攻撃をすることもある。上位種にはキングミノタウロスがいる。
「な...ななな...なんでこんなところに...」
「いたっ...くっ...」
「...うそ...なんで...」
「...。」
「いかん!皆体制を整えろ!」
「くっ」
直撃はしなかったが、地面を割った衝撃で石タイルが砕けた。衝撃で砕けた
タイルが飛び散り砂煙が上がる。よくみると飛び散った破片が原因で、
シーアが怪我をし、足から出血しているようだ。
「いたっ...ちょ...やばいかも」
ウオオオオオオオーンッ!!!!
一瞬で自由を奪うくらい恐怖を与えるほどの、雄たけびをミノタウロスが上げる。
その雄たけびたるや、まるで耳を切り裂くほどの衝撃と振動だ。
直後、負傷を負ってるシーアに狙いを定め、手に持っている巨大な斧を振り
かぶる...。
「い!いかん!」
「ちょ...
「シーア!」
最初の一撃に加え、雄たけびにあてられたため、全員の動きが鈍っている。
雄たけびの衝撃と振動がそれを聞いた者の脳を揺さぶるためだ。軽い脳震盪の
ような状態である。
皆、動かない身体を必死に動かすための努力をするが、身体がいうことをきかない
ようだ。
それはシーアも同じだ。負傷しているとはいえ、
身体を動かせないほどのダメージを負ったわけではないのだ。
身体が動かないのは雄たけびのせいだ。
「シーア!!!避けろーっ!!」
無常にも...ミノタウロスが大きく振りかぶった斧を振り下ろす...
誰もがまずいと感じたその瞬間。
バッ!
俺はシーアの前方へ飛び出し、左手で抜いた短剣をグランツさんが言っていた
「左斬上」で剣を立て、振り下ろされるミノタウロスの一撃を受け止めた。
ガキーン!!!!
ミノタウロスは動きを止める。それはそうだ、必中の一撃が完全に振り下ろされる
前に、音とともに動かなくなったのだから。
ミノタウロスも呆気に取られているであろうその隙を、俺は見逃さない。
そのまま右手に隠した聖剣オベリクスを右方向から薙ぎ払った。
ザンッ!
ミノタウロスがよろよろと後退する。すでに首は落ちているのだ。人間の数倍は
あるその巨体がよろめきつつ、力なく倒れる。
ズシーン
恐らくここにいる俺以外の人間には何が起きたかわからない。ミノタウロスも同じだ。
「シーア!大丈夫か!」
「う...うん...。」
「今の...何?」
「いいから黙って傷を見せてみろ!」
シーアの怪我を確認する。出血は少ないが思ったより深い...。
「聖光回復:(シャイン・ヒール)!」
シーアの怪我は見る見る間に回復し、出血も止まった。
「ふぅ。これで大丈夫だ」
「みんなも!大丈夫か?」
「あぁ、俺は平気...」
「うむ。大丈夫だ」
「私も問題ありませんわ...」
「...大丈夫...」
「しかし一体何の手品だよ...」
...
「いやすまねぇ、何でもねぇ...」
「カノン...ねーちゃんをありがとう」
他のパーティメンバーには怪我はない。とりあえず良かった。
...
落ち着いたところで、種を明かそう。
マジックリング
★4 隠匿:(ザ・ハイド)
今回の討伐依頼に合わせて作成したマジックリングだ。
俺の片手剣である聖剣オベリクスと魔剣エクスキューションはどちらも召喚剣だ。
大っぴらに公開できる代物でもなさそうだので、何とか隠せないかなぁと思い。
作成された一品だ。今回は剣の召喚と同時に隠匿を発動しているので、
誰にも存在が認識できなかったのだ。
このマジックリングは多分、俺が思うより凶悪で、
知能がある敵には抜群の効果を発揮するものと思う。
個人的には★4じゃなくて★5くらいのレアリティがあってもおかしくないと思うのだ。
「カノン...ありがとう、助かったよ」
「うん。怪我も綺麗に治ってよかった」
「う...うん」
ピクッ
...意外な反応だ。シーアのことだから「あれはどーやったんだー」とか
「スキルってやつですかー」とか「何とかじゃんー」とか言ってくるんだと
思ってた。まぁ誤魔化すのは面倒だから聞かれない方がいいに決まっているのだが。
「カノン殿、ミノタウロスからアイテムドロップしましたぞ」
「...小手みたい...」
「えぇ?またドロップしたのか?」
「こんなにドロップってする?」
「「しないー」」
「だよなぁ...でもカノンだからなぁ」
「なんかそれも納得しちまうぜ」
「ほら!カノン受け取れ!」
「でもこれで流石に終わりであろう」
「ギルドに報告もしなくてはならないしそろそろ引き上げようぞ」
「ユウリもお疲れー!」
「皆様お疲れさまでございましたわ」
「カノン様もお疲れ様でございました」
「うん。ユウリもお疲れ様!」
「いやなんだろう...今日さーあたしピンチだったじゃん?」
「こんなに疲れてるのってそのせい?」
「「「違うと思われ」」」
「だよねー」「まぁいーかとりあえずわー」
「また今度で」
「「「また今度だなー」」」
...
また今度ってなんだろうか...。余りいい感じがしないのは俺だけか。
まぁ無事にクエストも完了したしお腹すいたし早く帰ろうかー。
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