第23話 ダンジョン2層
「おぅ、悪い、そっちいったぞ!」
「... 火炎の槍:(ヒート・ジャベリン)!」
「デザイアちょっち支援お願い!」
「...氷拘束:(アイスバインド)!」
「カノン殿!側面に回ったホブゴブリンを!」
「ハイ!」
ザシュ! タンッ ザシュ!
「ウゴゴ...。ウゴ...」ズシーン...
...
「探査:(サーチ)に複数反応あるぞ!」
「右後方!」
「デザイア!加速と硬化!」
「... 加速付与:(ソニック・エイジット・グラント)!」
「... 硬化付与:(プロップ・テクト・グラント)」
「オッケー!サンキュー!」
キュイーン... ザシュ! ザシュ! クルッ ザシュ!
!!!
ガキーン!
「シーア!そのまま弾いて横に飛べ!」
バッ
ズゴーン!...
...
「もう一隊!今度は洞窟奥から複数!」
!!!
「きたぜ!本命マッドゴーレム二体!!!」
「クオーツ!ウィル!スイッチ!」
「ウィル支援するからそのまま下がってユウリをフォローして!」
「...身体強化付与:(ブースト・グラント)!」
「...マッドゴーレム迎えるぞ!」
「...氷の防壁:(アイス・ウォール)」
ガキーン!!!!
「オッケー!ナイスデザイア!」
「...岩操鉄槌:(アース・マニュアル・ハンマー)!」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
ドゴゴゴゴッ!!!!!!
「今!今!」
「セェー...ェイッ!」
「オッケーよろけてる!」
「カノン!クオーツ!そのままマッドゴーレム獲れる?」
「ウィル!フォロー!」
「えぇ!俺がとどめじゃなくて!?」
「いいからっ!」
「ハイハイ!獲りまーす!!!!」
「まっかせな...サイッ!!」
クオーツさんが、今にも倒れそうなマッドゴーレムに、
大きく弧を描いた斧を振りかぶり、胸の核めがけて全体重を乗せた一撃を見舞う。
俺はやや後方だったが、突進するかたちで体重を乗せ、
クオーツさんが一撃を見舞ったのとほぼ同時に、
もう一体のマッドゴーレムの核に短剣を捻じ込んだ。
ズウウゥン!!!ズウウゥン!!!
短剣の切れ味か、核が脆いのか。余り手ごたえがなかったので一瞬戸惑ったが、
見事にマッドゴーレムを沈めた。
「おぉオッケー!!!いい感じじゃん?」
「今のは最後カノンでよかったでしょ!」
「...今のは良かった...」
「えぇ、俺が獲りたかったぜー...」
「でもさ!今のはユウリのタイミングが完璧だったぜ!」
「うむ。寸分の狂いもない完璧なタイミングだった」
「いえ、皆さんの指示のお陰ですわ」
「ウィルはなんもしてなかったじゃない」
「えぇ?!俺の探査:(サーチ)完璧だったじゃん!」
「... 探査:(サーチ)が仕事してただけ...」
「ち...違う違う!あれはねー結構ぉ神経ぇ削るのよー」
「「「ププっ」」」
「「知ってるってー↑↑」」
「うむうむ。ウィル、冗談だぞ」
「いやまぁわかってるけどさぁ...」
...
「おぉ?こりゃ珍しい!カノンが仕留めたマッドゴーレムから宝箱ドロップしたぜ!」
「えぇ!?ほんとにほんとに」
「マッドゴーレムって何落とすの?」
「...おぉ...」
「じゃあこれはカノン殿が」
「えぇ、いいんですか?」
「「ルールだろ!」」
「...遠慮しないで...」
「うむ」
初の宝箱ドロップに思わず顔が笑顔になってしまった。いかんいかん。
皆のチームワークで取ったものだ。自制心自制心...。とはいえワクワク感が凄い。
「こ、これは?!」
...
「金貨でした~」
「「「ん~。残念!!!」」」
...
...「いやいや残念でもないぜ」
「小金貨5枚なら美味しいんじゃない?」
「...いや...むしろ当たり...?!」
「うむ。」
「ほらやっぱり俺がとどめさしときゃねーちゃんに新しい装備買ってあげられた
じゃーん!?」
「いや多分あんたじゃドロップしてないわ」
「...同意...」
「すまんがワシもそう思う」
「クオーツぅぅ...そこはフォローして欲しかったよぉ」
...
「はいはい、アホな子は放っておいて次次ー」
「...セーフティースペースじゃないんだから...」
「うむ。」
「わかってるってばー」
「フフフ」
ユウリが思わず笑顔になっている。
このメンバーはとてもバランスがとれている。何よりチームワークが抜群だ。
俺達にも気を使ってくれているし、「戦い方」を俺に教えてくれている。
きっとこれはフィンドールさんのお陰なんだろう。ちょっと苦手かもとか思って
ごめん。
...
「このダンジョンの最深部ってこの2層なんだっけ?」
「うむ。そうだ。」
「じゃあもうそれなりに来てるから、もうすぐ最奥だよね?」
「結局マッドゴーレムはあれっきりか」
「...それならそれで良い...」
いくつかの魔物と戦ったところで、2層も半分程度攻略が完了しているようだ。
マッドゴーレムも先ほどの二体のみでその後は出現していない。
ただやはり通常よりも魔物の出現数が多いこと、Cランク向きのダンジョンに
しては比較的強い魔物が早い段階で出てきたことから、油断はならない。
「ん?探査:(サーチ)に反応でたぞ?」
「次は何?ホブゴブリン?マッドゴーレム?」
「いや...こいつら全然動かない...」
「どういうことだ?」
「四体くらいの魔物が動かないんだ。」
「...。」
歩みを進め、ダンジョン内の大きく開けたところに出たところで、その理由が
判明する。
「ちょ...どういうこと?」
「...デザイア詠唱を...。」
「...わかった...。」
15体ほどのマッドゴーレムが三隊に別れ、編隊を組んでいる。
探査:(サーチ)で拾い切れなかったのは固まって動かなかったためだ。
すでにマッドゴーレムはこちらを向き、今にもこちらへ突っ込んきそうな状態の
ようだ。
その中央やや後方に、上位種と見られる個体、ゴーレムディザーがいる...。
ゴーレムディザーが怒号を上げると、15体のマッドゴーレムが一斉に突っ込んで
きた。
「!!!」
「カノン!ユウリ!離れないようにして指示に従え!」
「無理に前に出るなよ!」
「絶対離れないでっ!」
「「「3」」」
「「「2」」」
「「「1」」」....
広い場所で一遍に接敵する状況はとても危険だ、戦闘を始めてしばらくすると
孤立してしまう可能性が高いからだ。
通常であれば退路を確保しつつ、纏まったまま狭い場所へ敵を引き込んで戦うのが
定石だが、そうはしないらしい。このチームは連携を組みながら、
ウィルとシーアがフットワーク良く動き、敵を定めず切り替えて行く
「対多数を想定した戦闘スタイル」を得意とするためだ。
魔物と戦う時、パーティが全滅してしまう理由はいくつかある...。
基本的にギルドが定める「冒険者クラス」は、「魔物の強さを表すクラス」と
連動するが、同じクラスがぶつかった時でも冒険者が生き残れるよう
アドバンテージを設けている。
ギルドは基本的に冒険者のランクアップには厳しい目線で査定し、
ギルドマスターの許可がなければランクアップできない仕組みになっている。
冒険者自体を守ることを目的としているが、その他に大きな理由がある。
それは、「冒険者は情報を持ち帰る」という大きな役割を担うからだ。
魔物には突然変異をする個体など、様々な事情や条件で特殊な事例が発生する。
情報の不足はそういった特殊な事例が起きた時に、その対処・対応に遅れが
発生し、守るべき市民まで巻き込むような事件にまで発展しかねないからだ。
この責務を果たすため、パーティの全滅という最悪の事態はなんとしても
回避したいのだ。
少し話が戻るが、全滅してしまう理由のひとつに、一人が戦闘を続行できない
状態に陥った時、それをきっかけに総崩れしてしまうということがある。
四人が固まったまま戦う理由は、そういった事態を避けるためであり、
常に互いをフォローできる状況にし、ミスがあっても早い段階で修正するためだ。
即興のパーティではこうはいかない。それを可能にするのは四人がそれぞれの
役割を理解し、信頼しているからである。ここに至るまで、四人で数多くの
依頼をこなしてきた実績がそれを可能にするのだ。
このチームワークを生かすため、四人の得意な戦闘スタイルに持ち込むことは
重要であり、苦手な狭い場所での戦闘よりも、得意な広い場所で纏まって動く
という戦術は、論理的に考えても理にかなっている。
だが、今回のケースのように同等のB級の魔物が纏まって集団となっている時に、
その方法を持ち込むのは悪手に思える...。
だがその理由が次の瞬間に判明することになるのだ。
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