第16話 技あり一本
冒険者登録の手続きを済ませた俺達は、一度ゲートでエルフの村に戻り、
タイレンに報告をしてそのまま村で一晩過ごした。
翌日、ユウリは村でお留守番とし、査定されたジレットバイコーンの買取代金と
冒険者登録カードを受け取りにギルド本部へ行った。
買取価格はフィリンググリズリーを大きく上回る、小金貨29枚換算だ。
この中から冒険者登録費用と切り分けて貰ったジレットバイコーンの肉を
差し引いて、残ったのが小金貨25枚と銀貨11枚といったところだ。
これだけの高査定となった理由が中々にためになった。
今回俺が狩ったジレットバイコーンは、通常C級が多いらしいのだが、
個体サイズとしては大型に位置し、B級と判定される個体であったそうだ。
しかし個体サイズよりも重要なのがジレットバイコーンの角なのだそうだ。
傷のすくない個体は、頭部を調度品とすることが多く、
その際にジレットバイコーンの特徴である二本の角の損傷がない方が良いらしい。
通常獲物が暴れるので、角が折れたり損傷したりするのが一般的なのだそうだが、
今回はそういった形跡がない美品であるということが、高査定たる大きな要素だ。
また皮も皮製品としての需要があって、好んで使う人もいるらしいのだが、
元々、群れを成すことのない生態であるため、いっぺんに市場に出回ることが
なく、慢性的に供給よりも需要の方が高いといった具合らしい。
...
村には夕方に戻るとして、今日はルミナーゼの街を探索だ。
ルメリオさんの商店に顔を出してもいいかもしれない。
村をぶらついていた際に、店構えの綺麗な書店を発見し立ち寄ったところ、
カウンター越しの棚に、飾られるように魔法書がいくつか並んでいた。
資金に多少余裕もあったので、何冊か買うことができるだろうか。
「すみません。棚にある魔法書なんですがどういった内容の本なんでしょうか?」
「いらっしゃいませ。こちらの棚の魔道書は属性別に分かれておりまして、
1冊につき、ひとつの魔法が封じられております。」
「勿論適正がなければ習得は叶いませんし、魔法自体が高度でございますので、
一般の方には向かないものでございます」
(むっ?)
(なんだか喋り方にやや棘があるなぁ)
「そうですか。習得できる魔法は上位魔法のものもあるのですか?」
「いえ、こちらにある魔道書は中位までのものでございます」
「中位までといってもそれなりの内容ですからお値段も決してお安くは
ございません」
「おいくら位するのでしょうか?」
...「お客様は冒険者の方でございましたでしょうか?」
「えぇ、一応...何か問題でもありましたか?」
この反応。完全に馬鹿にしていると判断した。
この世界で初めて感じの悪い人に出会った気がする...。
いや多分これまでが恵まれていただけであろう。悔しいが俺も見た目は冒険者でも
ないし、魔法が使えるようにも見えないのだろう。ここは我慢だ...。
「いえいえ、問題だなんて滅相もございません」
「ご気分を悪くされたのであれば謝罪いたします」
「いえ、そんなことはありませんが...」
ここで俺の中の悪い部分がちょっと働く。
「お聞きしてもいいですか?このなかに洞窟とかで松明代わりになるような
魔法とかはあるのでしょうか?」
表情が曇るっていうのはまさにこういう顔なんだろうと思う。
...こいつ本当に冒険者なのかよ?みたいな表情だ。
「浮遊照明:(フロート・ライト)のことでございますか?」
「いえ、それでなくて....もっと光の強い....」
「では、空間照明:(スペース・ライト)のことでございましたか?」
「あぁ、そうですそれそれ!」
「残念ながら当店では扱いがございませんねぇ」
「そうでしたか...。残念です。一度仲間に相談もしてきますので本日はこれで...。
せっかくご丁寧にご対応くださいましたのに申し訳ない...。
また来るかもしれないのでその時はよろしくお願いします」
...
「浮遊照明:(フロート・ライト)と空間照明:(スペース・ライト)ねぇ」
意地悪な店員のお陰で、説明の途中から魔法書を買う気がなくなってしまった
ので、 お返しと思い、魔法名を聞き出してしまおうと考えたのだ。
魔法の習得はどういう条件で、どういう方法があるのか理解していなかったが、
ひょっとすると俺なら「魔法名」だけでもわかれば「魔法」を使える可能性も
あったからだ。
(まぁそう都合よくいかないと思うけど、実験も兼ねて...許せ店員!)
(タイレンやユウリに相談しながら、もっと魔法について調べてみよう...)
...
(まだ日が傾くまでは時間があるし、ルメリオさんの商店にでも顔を出して
みようかな?)
そう思い、ルメリオさんが別れ際書き記してくれた地図を頼りに、街を歩いた。
...
20分くらいは歩いただろうか、ようやくルメリオさんの商店「ルメリオ商会」に
到着した。
「こんにちはー、カノンですけどルメリオさんいらっしゃいますかー?」
店の奥からドタドタと音をたて、ルメリオさんが現れた。
「あぁ!カノン殿!早速来てくださったんですね!ちょうどよかった!」
...ルメリオさんのお店は調度品や宝飾品を扱う商店だ、
店内をみる感じそれほど大きな商品の扱いはなく、小物を中心とした商品が
多いのかもしれない。
とはいえ、単価が高い商品であることは間違いないので、店内は整えられ、
高級感がある雰囲気が漂う。
(もしかしたらあの時馬車で運んだ荷物は、
こういう商品だったのかもしれないな。仕事内容に比べて割がよかったのは
そういうことだったのかもしれない...)
「素敵なお店ですね」
「カノン殿にそう言って貰えると嬉しいですねぇ。店は商売柄小奇麗にして
おりますが、お値段もそれなりですからね、中々安定するものでは
ありませんから...実はとなりのお店も私が経営しているんですよ」
「へぇ、それは凄い!」
「そちらも拝見していいですか?」
「えぇ、勿論!」
一度店を出てすぐ隣の店に場所を移す。
「あぁ、なるほどですね」
「えぇ、店としてはこちらの方が忙しくて、店の奥で先ほどの店と繋がっているの
ですよ」
こちらの店は基本的に生活雑貨という感じのラインナップだ。食器から調理器具、
小物インテリアや石鹸など、幅広い商品が扱われている様子だ。
「こっちはわざわざカノン殿にお見せするような商品はないかもしれませんが...」
「いやいや、むしろこっちの方が馴染みがありますって!」
「あれ?そういえばユウリさんは今日は一緒ではないのですか?」
「あぁ、今日は終日別行動なんです」
昨日の今日ですでに村に帰ったというのも変に誤解を招くかもしれない。
ここは詳しく話す必要はないだろうと判断した。
「あぁ、そうでしたか。残念ですねぇ」
(たぶんこの人、ユウリのこともう好きだなきっと)
「せっかく立ち寄ったのでいくつか購入してもいいですか?」
「えぇ、勿論!お安くいたしますよ!」
...
こうしてルメリオさんに軽くご挨拶しつつ、いくつかの商品を購入し
店をでることにした。ルメリオさんからは
「また、ユウリさんと一緒にいらしてくださいね!」 とのことだった。
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