第11話 呪いと浄化
「ユウリ、そのローブなかなかいいんじゃない?」
「カノン様!光栄でございますわ!」
「ついでに俺の装備も見直してみようかな?」
ギルドでフィリンググリズリーを買い取ってもらったお金で、
とりあえずユウリの装備を新調しようとラクレットの街の武器防具屋を
尋ねたのだ。
ギルドでフィリンググリズリーが結局小金貨16枚換算、50kgの肉を除いて
小金貨14枚、銀貨3枚と少しになった。
フィリンググリズリーはその爪や牙がそれなりの需要があり、毛皮もいい値段で
売れるらしい。
ルミナーゼでいくばくか滞在することを鑑みても、路銀としては十分だったので、
前から気になっていたユウリ達の服装を見直そうとしていたのだ。
ユウリのローブも小金貨2枚、村人用に揃えた服も小金貨2枚で40着ほど用意ができた。
ユウリのローブはユウリの防御面も考慮してのことだったのだが、
なにより対面的な要素も考慮した結果だ。
買取でギルドにいった際に、ブロンズ級を求める、
ルミナーゼまでの商人用馬車の護衛任務を紹介してもらったのだ。
渡りに船とはまさにこのことだ。日程は丸二日といったところだが、相応の商品を
積んでいるらしく、小金貨3枚の美味しい仕事らしい。
(俺には価値がいまいちよく理解できていない)
ラクレットからルミナーゼまでは強い魔物がでることが少ない、比較的に安全と
されるルートだ。
依頼主の商人の手前、相応の装備は必要だろうと考えたのだ。
商人の馬車は明日、ラクレットを出発の予定だ。
一度村に戻り、待ち合わせの少し前にラクレットへ戻ればいいだろう。
カミュとラヴィにお土産を渡したい。
...
「カノン様...よろしかったのですか?」
「うん...大丈夫。まぁ次の機会にするよ...」
ユウリに合わせて俺も装備を買い替えるつもりだったが、
軽鎧でもそれなりに重く、動きづらかったので、結局村人用に買った服で
間に合わせたのだ。
選ばなければ胸あてなどの装備に新調する予算はあったのだが、
何より恰好のコンセプトがはっきりしていないので、迷いに迷ってしまい、
決めることができなかったのだ。
(鎧みたいなタイプより、ローブっぽい方がいいのかな?)
...くだらない理由ではあったが、そこは(元)現代人。
ルミナーゼはラクセットより大きな街で、この地方のギルド本部が置かれる
くらいの街らしい。ルミナーゼにいけばもう少しデザインにも選択の幅が
広がるだろうと考えたのだ。
ユウリがやや申し訳なさそうな顔をしているのが辛い...。
しかしユウリ自身は新調したローブがよほど嬉しかったのであろう。
客観的にみてもよく似合ってるし、足取りは軽やかだ。
宿屋の女将さんにも明日の出発の挨拶をしておこう。
そう思い、宿屋に向かっている。
...
「おや、あんた達だったかい」
「...いやしかしまた見違えるねぇ!」
女将さんもユウリの姿に当然気づき、褒めてくれた。
「女将さん、ありがとうございます」
「私のことはシェーラと呼んどくれっていったろ?」
ユウリも女将さん...もとい、シェーラさんの人柄が気に入ったのであろう、
すっかり意気投合している様子だ。
(まあ恐らく長寿のエルフであるユウリの方が年上なんだろうけど...)
「シェーラさん、これご挨拶とお礼...あとお近づきの印です」
俺はお土産用に加工してもらったフィリンググリズリーの肉10kgをカウンターに
どさっと置いた。
「これは...?なんの肉だい?」
「フィリンググリズリーですよ。ギルドの支部長さんに聞いたら赤身の肉肉しい
味がスープにしてもいいし、加工しても美味しいって聞いたので...」
「おやまぁ、いいのかい?このあたりじゃ珍しい一品だよ?」
シェーラさんは冒険者でもないし、フィリンググリズリー自体の強さには興味が
ないのであろう、以外と淡泊な反応だったが、俺にはそれくらいで丁度いい。
「いえ、是非受け取ってください」
「そうかい、なんだか悪いわねぇ...」
「いえいえ、ユウリもシェーラさんの言葉にだいぶ救われたようですし、
ほんの気持ちですよ!」
「またこちらに寄った際に美味しい食事を期待してますんで!」
...本当に心ばかりのお礼のつもりだったのだ。ユウリもラクレットに来る前と
今では、明らかに表情が変化している。うつむき加減だった表情に、
すっかり笑顔が増えたのだ。
「うん。じゃあ頂いとくよ!」
「ルミナーゼに行くんだろ?道中気をつけるんだよ!
ユウリに何かあったらただじゃおかないからね!」
そうして店をあとにしたのだった。
...
少し日が傾いてきたこともあって、街の端っこに移動し、
建物の影でゲートを使って、エルフの村に戻った。
「カノン様!おかえりなさい!」
気づいた村人が迎えてくれた。
「じゃあユウリここまででいいから!」
「ハイ、何かありましたらお呼びくださいませ」
ユウリと別れ、俺はカミュとラヴィを呼んで、早速タイレンのいるところへ行き、
今日の出来事を共有したのだった。
...
「それで...これはお土産」
ドサっ
切り分けてある40kgばかりの肉塊を広げる。
カミュとラヴィも嬉しそうに尻尾を振っている。
「カイン様、これはあのフィリンググリズリーの肉ですかな?」
「うん。元々フェゼットが狩ったものだし、ギルドに買い取って貰ったら
旅の路銀には十分だったからさ、聞いたらそれなりに美味しいって言うし、
買取とは別に用意してもらったんだ」
「あと...これも...っと」
40着ばかりの衣服もタイレンに渡す。
「カイン様、こんなにたくさんのお土産を...お気遣い大変感謝ですじゃ...」
「おおーぃ、誰ぞこれを...」
「ハーイ、ただいまー」
衣服を別の場所に移し、お肉は早速今晩の夕飯になるようだ。
「カイン様はどうお召し上がりになられますか?」
タイレンのお世話もしている、エルフの女性レイミーが尋ねてくる。
「うん。じゃあ俺はステーキにしてもらいたいな!」
「街の人の話じゃ、スープにしても美味しいってさ。期待してるね!」
「カミュとラヴィにも用意をお願い」
「うふふ、かしこまりました!」
「じゃあカミュ様!ラヴィ様!参りましょう!」
レイミーはカミュとラヴィを連れながら、数人のエルフと協力し、
お土産のお肉をもって外に出て行った。
...
「お土産も少し多かったかな?」
「いえいえ、あれくらいであればたくさん手に入るようになった「塩」で
保存もききますし、以前とは違いますからのぅ」
「以前はせっかくの獲物があっても街まで運べませんでしたし、
路銀に代えることもできませんでしたから...」
「カイン様こちらからもご報告よろしいですかな?」
「うん。構わないよ?」
「ありがとうございます。」
「まずはマジックリングの件ですが...」
「あぁ、「軽量」と「剛力」と「切断」の件ね?」
「左様でございますじゃ、「軽量」は農作業に「切断」は調理の際に使用し、
いずれもこれまでにない効果を発揮しております」
「うん。それはよかった。農作業も調理も格段に効率が上がりそうだね」
「えぇ、それで「剛力」の方なのですが」
「うん、何かトラブル?」
「いえいえ、カイン様であれば大方の予想通りと言ったところでしょう」
「「剛力」は斧などの道具を利用する際の効果は間違いありませんが、
例えば重いものを運ぶなどの力作業自体には効果がございませんでした」
「使用感的には先の「威力」と同じような感じのようですじゃ」
「なるほどね」
(予想どおりではあったものの、その可能性があったからタイレンに
確認しておくようにお願いしてたんだけど...)
「うんわかったよ!ありがとう!」
(何か直接的に肉体に作用するような効果が望めればなぁ)
...というのも、村の防衛力を上げるのにあたり、マジックリングの効果で使用者の
能力を上げることが出来れば一番それが手っ取り早い方法だったのだ。
タイレンからの報告で判明したとおり、マジックリングは使用者自身の能力を
上げるわけではないので、結果的に女性や子供を戦力にするわけにもいかないのだ。
能力の底上げ自体は俺の持つ「身体強化」などのスキルや、身体強化の魔法が
必要だということだ。
スキルも魔法も習得は一朝一夕でないだろうし、やはり時間がかかり過ぎる...。
強力な効果が望めるであろう、レアリティの高いマジックリングは作成できるが、
おいそれと渡すわけにもいかない。
なぜならば、素人が強力なマジックリングの効果に振り回されてしまい、
危険が周囲におよぶ可能性もあるし、悪意ある人物に、
マジックリングが渡ってしまう可能性も否定できないからだ。
(まぁ暫くは信用できるこの村の住人とだけの秘密道具とし、
タイレンとシュウレンに十分に周知してもらうことにしよう。
また管理についてはこれまで以上に徹底してもらうしかなさそうだ)
(とはいってもこの村の住人は俺を神格化しているようだし、
絶対的な信頼関係はすでに築けているから余計な心配は必要なさそうだけどね!)
「それと...カノン様、共有されたルミナーゼでの出来事についてでございますが...」
「あぁ、宿屋の女将さんの話しだね?」
「えぇ、村人の意見の総意として、基本的にカノン様にお任せし、
交流の門を開いていく方向としたい気持ちに変更はございません」
「しかし正直意外でございました...。人間にもそのような方々がいらっしゃるなんて...」
「うん。そうかも知れないね」
「たぶん長らく交流を閉ざした結果、この村のエルフ達自身の不安が
そうさせてしまったんだろうね」
「まぁ油断はいけないかもだけど、あの街の人達は信頼してもいいと思うよ」
こうしてタイレンとの共有を終えて、お土産だったお肉を村人の皆で食し、
賑やかに夜は深まっていったのだった。
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